ラヴニカ:灯争大戦――結束という難問

更新日 Magic Story on 2019年 5月 22日

By Greg Weisman

Greg Weisman is best known as the creator and producer of Gargoyles, and the writer-producer of Young Justice, Star Wars Rebels, and The Spectacular Spider-Man. He's the author of five novels: Rain of the Ghosts, Spirits of Ash and Foam, World of Warcraft: Traveler, World of Warcraft: Traveler - The Spiral Path, and War of the Spark: Ravnica.

 前回の物語:絢爛の聖堂へ

 以下の物語には、グレッグ・ワイズマン/Greg Weisman著の小説「War of the Spark: Ravnica」(英語)のネタバレが含まれています。

 この物語は年少者には不適切な表現が含まれている可能性があります。


 少し前までギルドパクトの体現者だったジェイス・ベレレン氏が、精神魔法で命令を送ってきた。『退却しろ、作戦を立てる必要がある。あらゆるプレインズウォーカーとギルドマスターに可能な限り接触し、アゾリウス評議会に集合。今すぐだ』

 うん、今すぐ。繰り返すけど今すぐ。

 それでもケイヤ様はまずオルゾヴァに辿り着くつもりでいた。テヨと私を連れつつ、十分ほどかかってそれはやっと成功した。

 けど本当すぐに、成功したのはそれだけだったって感じた。

 ケイヤ様はすぐに召使長のブレイズ夫人に迎えられた。そしてオルゾフ組筆頭の特権階級一家の長、テイサ・カルロフに始まるギルド上層部との会議を手配してくれって伝えた。ボーラスや永遠衆との戦いにオルゾフの軍を召集するために

 五分して、カルロフ様は今も自室に監禁の身だって出席を拒否してきて、代わりにケイヤ様(この段階でもういらいらして怒ってた)へ大物三人との会議を手配済みみたいだった。私が見た感じ、ケイヤ様が前の支配者の幽霊議員オブゼダートを暗殺した後、教会で一番権力のある三人って感じだった、まとめて三巨頭って言われてて、それぞれ一体のスラルを繋いで――ご主人様をすごい重要人物に見せるためのもので、それ以外の目的なんてない――揃ってやって来た。

 アルミン・モロフ司教は人間で、モロフ家の家長。すごく歳をとってて肌は灰色で髪は全然なくて、すぐにでも新しいオブゼダートに入れそうだった。スラヴォミール・ゾルタン収税長はやばいくらい美形の吸血鬼。そしてマラドラ女史、ずっと昔にボロス軍を抜けて、今はオルゾフの戦闘処刑人長をやってる天使さん。

 もう一人、カルロフ様の助手トミク・ヴロナを連れてきて欲しい、そうケイヤ様はブレイズ夫人に言った。けど夫人は戻ってくると、ヴロナ氏は見つからなくて、大聖堂の中にはいないらしいって報告した。私はヒカラのためにザレック様とケイヤ様を追ってたから知ってるんだけど、そのトミク氏はケイヤ様の友達だった。だから、ケイヤ様の苛立ちがすぐに心配に変わるのがわかった。外の状況を考えたらそうだよね。

 だからヴロナ氏が不在でカルロフ様も出席拒否をして、私達六人――スラルを入れれば九人が――その十倍は入れそうな大会議室に向かった。三巨頭はケイヤ様ともお互いとも離れて座ったので、会議室に響くこだまの中で声を聞くために、全員が叫ばないといけなかった。

 ケイヤ様はボーラスと永遠衆がラヴニカ、ギルド、そしてプレインズウォーカーに与える危険をがんばって説明した。

 モロフ司教は次元渡りの新人ギルドマスターへ丁寧すぎる謝罪をしたけれど、どうしてオルゾフにとってプレインズウォーカーが問題になってくるのかがわかってないみたいだった。「とはいえ」 そいつは頷いて言った。「教会から糾弾の布告を発するのであれば喜んで致しましょう。その永遠衆というのがその……『プレインズウォーカーの灯』ですかな? それを収穫するという? 正しい言葉でしたかな? いや、問題ではありませんな、ただの言葉遊びです」

 ゾルタン収税長は戦いに参加するための費用を渋っていた。「こういった困難な時には税収が減少します。ギルドマスター様が多くの負債を帳消しにされた事もありまして。ここは物事を正すべきではありませんか? 戦時の経済というのは終わった後に見れば良いものになることもあります。都市が再建段階に入れば、常に更なる収入がもたらされるものですから」

 マラドラ女史は三人の中で一人だけ、手を貸したい寄りに見えた。この天使さんは戦いたがっていることが少しの言葉からもわかった。けどゾルタン収税長が眉をひそめてすっと睨みつけて、モロフ司教が二重顎の頭をほんの少し振ると、すぐに声色を変えた。「我らが新たなギルドマスターが戦いを率いるのであれば、執行人部隊は喜んで近衛兵としての栄誉を務めるでしょう――少なくともアゾリウス評議会での頂上会談までは」

「見せびらかしの護衛は要りません。自分の身は自分で守れます。あなたがたが理解していないのは――」

「お聞き下さい、ギルドマスター。我々はそうして頂きたいのです。そうでない訳がありましょうか」

 ゾルタン収税長とモロフ司教は意見が一致したみたいで、吸血鬼の方が言った。「少なくとも、体裁というものがあります。評議会までは同行させるのが筋というものです」

 けどそれ以上は……ということ。

 ケイヤ様は熱くなって睨みつけて、まるで火がつきそうだと私は思った。「聞きなさい」 けど怒りを鎮めようとしながら続けた。「あなたたちはこの世界全体が直面している危険をわかっていない」

 司教が答えた。「自体がそれほど逼迫しているのであれば、ギルドパクトの体現者が遅ればせながら現れて解決して下さると思うのですが」

「ベレレンは帰ってきました。一緒に戦ってくれています。ボーラスのような多元宇宙の脅威からの守り手を私は集めましたが、その一つであるゲートウォッチ連合の一員です。あの人ともう一人のプレインズウォーカー、ギデオン・ジュラが、ボーラスに対抗するために最善を尽くしています。ですがギルドパクトの体現者という権限は、力は失われました。そして私達の非協力的な姿勢のために、それを修復できずにいます。急ぎ――」

 天使は顔をしかめて言った。「権限と力を失って、その男が何の役に立つのですか」

「全くです」 吸血鬼が同意した。「そのような地位を無駄にした者に従う理由などありません」

 モロフ司教が付け加えた。「あるいは、ここ絢爛の聖堂へと軍を撤退させて防衛に専念し、事態の収拾を待つというのが賢明かもしれません。数日のうちに、事態は全く変わったものになるということもありえます」

「数日のうちに」 ケイヤ様はいきり立っていた。「その物事は取り返しのつかないことになるかもしれないというのに」

「そうですな」 締めくくるように司教が言った。「すぐにわかることでしょう、ギルドマスター殿」

 私達はまあまあ連れだって大会議室を出た。三巨頭は別々に戻りたがっていたけど、司教と収税長のスラルの紐がからまって遅れていた。

 その紐を解こうとしている間に――その様子はすごくおかしかった――後ろから重くて大きな足音が聞こえた。振り返ると、鎧を着た巨人がいた。身長は12フィートくらい、顔がすっかり隠れる兜をかぶって、ケイヤ様に近づいてきた。

「ギルドマスター」 兜の中でくぐもった声が轟いた。「俺、ビラーグル。教会軍の執行人長です。俺の力、いるって言われました」

税収運びの巨人》 アート:Wisnu Tan

 マラドラ女史が言った。「ギルドマスター、この巨体を中心に近衛兵団を編成致しましょう」

 ケイヤ様も巨人もその言葉を無視した。ケイヤ様は尋ねた。「あなたは返済を集めて回る執行人?」

「そうです、ギルドマスター」

「同意しては頂けないかもしれませんが、あのドラゴンの永遠衆による殺戮がラヴニカの全債務者に及べば、ギルドの返済は明らかにもっと回収困難になるでしょう。全債務者、つまりはその子孫も。全オルゾフ組員についても、言うまでもありませんが」

 ビラーグル氏はケイヤ様に頷いて、低い声で答えた。「幽霊たちが、ずっとオルゾヴァを動かしてきました。けど税集めるのはいつも、生きてるやつです。それが忘れられてきました。俺は、部下の取り立て人を集めて、組の強い奴をとにかく集めて、オルゾフの投資を『守る』ために街に出ます」

「では執行人長、ギルドマスターとして心から感謝します」

「俺、生きて、仕えます」

 モロフ司教は反論しようとしたけど、ケイヤ様が素早く切り返した。「言うまでもありませんが、方法はもう一つあります。あらゆる未決の返済を全て免除することで、そういった収税に関する議論を終えても良いのですけれど」

 司教は少し焦ったみたいで、すぐに(あと文字通りに)引っ込んだ――そしてまだ絡まってるスラルにつまずきそうになった。「おやめください、ギルドマスター。そのような極端な手段を取る必要はございません」

「今日のうちに、もっと極端な手段を取る必要が出るでしょうね」 やっとスラルが解けて帰ろうとする三巨頭に、ケイヤ様はそう言い放った。

 そしてテヨと私に向き直った。「行くわよ」


 ケイヤ様とテヨと一緒に評議会の建物に入ると、今私はすごく重要な場所にいるって感じた――そしてすごく孤独に感じた。人だかりの中にヒカラの姿を探した。全部が間違いで、あの人は今も生きてる、そう願って。

 けどヒカラがいないだけじゃなくて、ラクドス教団からは誰もこの頂上会談に来てなかった。聞いた話によれば、ラクドス様は自分の使者のヒカラが死んだことに抗議して、誰も出席させなかったんだって。その時一緒にいたのはザレック様、ケイヤ様、ラヴィニア女史、ヴラスカ様(こちらもいなかった)だったとか。

 同じくヴラスカ様もいなかった。ゴルガリ団からも誰も来てなかった。それと、あの馬鹿ドムリが死んだって話が広まってた。あいつ実はプレインズウォーカーで、永遠衆に灯を刈られたって(アカマルと双子がついて行ってた。あいつらも死んだのだろうか)。とにかく、グルール一族からも誰も来てなかった。ゴルガリとグルールは頭を失って、まだ誰もその座に上がってない――それとも上がろうとしている奴が多すぎるのか。ともかく誰もこの会談に送って来られないみたいだった。

 ディミーア家も来てないっぽくて、セレズニア議事会は縄張りに閉じこもってた。この大変な時に、十のギルドの半分が全然協力的じゃないってことだった。

 ねえ。もしグルールとラクドスとセレズニアの出席者に一番近いのがこの門なしの私だけだったら、全員困っちゃうことになる。人前に出るには、私は……

 他のギルドにとっても、状況は大していいわけじゃなかった。

 アゾリウス評議会のギルドマスター、もう悪名の広まってるドビン・バーンは――ヴラスカ様と同じく――ボーラスのために動いていた。あいつはこの会談に出てきてなくて、ギルドマスターの席にもいなかった。ラヴィニア女史ともう数人の古き良きアゾリウス評議会員がバーンとその支配をきっぱり否定してたけど、ギルドで現実的な権限を何か持ってるわけじゃなかった。評議会の規則では今もバーンがギルドマスターになっていて、アゾリウスは自分達の規則を大切にしているから。

 じゃあオルゾフ組は? うん、ケイヤ様は頼みもしない近衛兵を手に入れて、そのビラーグル執行人長は部下と一緒に外で永遠衆を倒してるんだと思う。けどそれ以外は、カルロフ様と三巨頭からは口先だけだった、ギルドマスターを支持するとか何とか。ザレック様は残念そうに言ってた、「あいつらは何に対しても財布の紐が固すぎる、お世辞ですら渋るときた」って。

 そんなわけで、積極的に来てたのはイゼット団(ザレック様とマーレー侍従)、ボロス軍(ギルドマスターのオレリア様)、シミック連合(ヴォレル氏、ただギルドマスターの首席議長ヴァニファール様の全面協力あり)だけだった。

 私はザレック様がマーレーさんに尋ねる様子を盗み聞きしていた――もう特に理由はないけれど、ヒカラに頼まれてたことだから。「こいつらをどれほどしっかり掌握したとしても、半分じゃ足りない」

 マーレーさんはザレック様を辛そうに見た。「申し訳ございません、ギルドマスター。ですが例え九割でも十分とは言えないでしょう。前回は安全策を取ろうとしました。ニヴ=ミゼット様が生きておられたなら、ギルド十のうち八は招集できたかもしれません。あの方が亡くなられて……」

 つまり、ニヴ=ミゼット様も死んだ……

 ヒカラ、ニヴ=ミゼット様、馬鹿ドムリ――まるで、私がつい最近見た相手は、みんな離れていってそのすぐ後に死んだみたいに思えた。だから、テヨとケイヤ様にはずっとなるべく傍にいることにした。

「火想者が死んだ今、残るのは絶体絶命作戦だけだ」

 絶体絶命作戦?

 マーレーさんが続けた。「それを成功させるためには、十のギルドのうち十を結束させる必要があります。例外はありません」

 ザレック様が頷いた。「他に手段はあるか?」そう言いはしたけれど、他にそれがあると思ってはいない顔で。

 けど侍従さんはそっけなく頷いてどこかへ歩いていった。


 ジュラ氏とベレレン氏がイスペリア様の前に立っていた。アゾリウス評議会の前ギルドマスターは、今や会議場を飾る石像だった。

 私はまたも盗み聞きしていた――よくない癖なんて言わないでよ、自分でもわかってるんだから。

 けどこれは役に立つ癖。特に今みたいな時は……

 ベレレン氏が呟いた。「スフィンクスって奴は。いつだってドラゴン以上に厄介事を持ってくる」

 ジュラ氏は片方の眉をひそめた。

 ベレレン氏は遅れて、そして嫌そうに訂正した。「一体のドラゴンを除いて、か」

「君がスフィンクスにそれほど困らされていたとは知らなかった」

「アルハマレット。アゾール。イスペリア。スフィンクスってのは全員傲慢でお高くて、俺の悩みの種で――」

「おいおい。イスペリアはラヴニカに多くを尽くしてきただろう。実際、ヴラスカが石に変えたりしなければ今の状況ももっと……」

「ヴラスカの復讐は正当な権利だ!」 ベレレン氏の声は低くて小さくて、聞き取るために私はちょっとだけ乗り出さないといけなかった。けどその言葉にこもった熱はよくわかった。「君は知らないんだ。彼女の過去を」

「ああ、知らない、と思う」 ジュラ氏は幾らか驚いて言った。

 私にはわかった。少なくとも、ベレレン氏はヴラスカ様に何かこう恋してるんだって。そして考えてみた。すごく可愛い組み合わせじゃない?

 ジュラ氏は宥めるみたいにベレレン氏の肩に手を置いた。最初、後者の紳士様はそれを振り払いたがって……けど大きく溜息をついて、弱気に微笑んでみせた。

「先へ進まなければいけない。ここに長く閉じこもっていればいるほど、ボーラスとその軍がもたらす被害は増すばかりだ。少し落ち着こう。考えをまとめて、この会合を秩序あるものにしよう」

 ベレレン氏は頷いて、立ち去ろうとして……足を止めた。「ギデオン、君はいい友達だ。言ったことなかったよな」

 ジュラ氏は少し笑みを浮かべた。「確かに聞いたことはなかったな。だが公正を期するなら、私の方こそ君にそう言ったことはなかった。先手を打たれたというのは少し恥ずかしいかな……長い付き合いだというのに」

 ベレレン氏はもう一度微笑んだ、子供っぽくもあって大人っぽくもあって。引き締まった身体で、さっぱりした感じで、日焼けしてて、どうも恋をしている。けどボーラスの攻撃は、明らかにその肩の重みになっていた。顔にも苦労が表れていた。

 それを見送って、ジュラ氏は背筋を伸ばすと群集を見渡した。ギルドの代表者少しと、沢山のプレインズウォーカー。この人自身にベレレン氏、ザレック様、ケイヤ様、テヨ、それともっとずっと沢山――沢山すぎて私も名前を覚え切れてない。あるプレインズウォーカーなんて、犬を連れていた。二本の尻尾とふっかふかの毛皮の。

 ダク・フェイデン氏もプレインズウォーカーだってわかった。ラヴニカでは知られたサイコメトラーで盗賊。後者の技は本当すごくて、私もこの数年こっそり学ばせてもらってた。なるほど、私が一度ならず見失ったのはそういうこと。そいつはライさんとお喋りをしていて、ドレスの上品さと様式を褒めてた――全身に着けた金線飾りに目をやりながら。ライさんは喜びつつも警戒しているようだった。それはきっと正しいよ。

 ベレレン氏が戻ってきて、ジュラ氏と頷き合った。時間が来たみたいだった。だから私は急いでテヨとケイヤ様の所へ戻った。

 テヨが尋ねてきた。「あの人達と何を話していたんですか?」

「喋るんじゃなくて聞いてただけ」

 テヨは私に笑みを向けてきた。「あなたが、聞いていたんですか? 本当に?」

 私はその胸に肘打ちを入れた。「うっ」 テヨは少しうめいたけど、笑みは消さずにいた。とってもいい微笑みを。

 でも。慣れちゃだめ、アレイシャ。この子はプレインズウォーカー。この戦いが終わったら、ラヴニカを離れていっちゃうんだから……

 揃って、私達はベレレン氏とジュラ氏が高段に立つのを見つめた。ベレレン氏は声を魔法で拡大して、会議場全体に響かせた。「どうか静かに。作戦を立てねばならない」

「ほう、お前たち二人の天才戦略家が果たして一つにまとまれるのかな?」 轟く声、皮肉に満ちたそれは魔法がなくても響いた。隅にいる悪魔っぽいプレインズウォーカー、オブ・ニクシリスって呼ばれていた。そしてほとんど全員が大きく距離をとっていた。たださっき、細い口髭のプレインズウォーカーが一人、この不快なオブ氏と組みたがっているらしくて誠実に話しかけていた。動機は誠実じゃないのかもしれないけど。

 低い呟きが皆から上がった。全員この悪魔人間を気に入ってはいないようだったけど、その意見はもっともだってのは確かだった。ギルドパクトの体現者としてのベレレン氏には……矛盾が多くて、指導力についてはあんまりラヴニカ市民に認められていなかった。どうもプレインズウォーカーから見てもそうみたい。

 ジュラ氏が進み出て、深くて大きな声で告げた――魔法はいらなかった。「各々に言いたいことがあるのはわかる。だがぶつぶつ言い合っていた所で何もならない。だからひとまず、嫌味たらしい意見は飲み込んで聞いてくれないだろうか」

 短い不満の声がまた少し上がったけど、不安そうな沈黙が広がったのでベレレン氏はありがたくそれを利用した。「私達は幾つもの問題に直面している。正確には五つだ。全部を理解している者もいるだろうが、多くはここに到着したばかりで全体像を把握するには至っていないと思う。だから、一度ここではっきりとさせておきたい」

 ベレレン氏が視線を送ると、ザレック様は肩をすくめた。だからベレレン氏は続けた。「一つ。イゼットの標は何も知らないプレインズウォーカーをラヴニカに呼び続けている。ボーラスの力、そのための燃料と化してしまう危険のある場所へ」

 それが合図になったみたいに、青緑色の光とともにまた別のプレインズウォーカーが皆の中に出現した。青緑色の瞳、丁寧に整えた白い髭の男の人。ジュラ氏が身を乗り出してベレレン氏へ何かを囁いたけど、私には遠すぎて聞こえなかった。

 ベレレン氏は大きく溜息をついて続けた。「標を止めなければいけないが、名前の通り標の塔でイゼットとアゾリウスの兵に守られている。辿り着くのも難しいかもしれないが、本当の問題は機械そのものだ。ボーラスに切断されないよう、安全装置が組まれている」

「素晴らしいこった」 今朝、第10管区広場に現れたミノタウルスのプレインズウォーカーが鼻を鳴らした。「ここの馬鹿ども全員、好き好んであのドラゴンの手の内に飛びこんできたってわけか!」

 離れた所から、ファートリさんがそれに言い返した。「あなたもですけどね?」

 ミノタウルスはもう一度鼻を鳴らして、けどそれ以上は何も言わなかった。私、ファートリさんはちょっと気にいったかも。

 ベレレン氏は話を戻した。「二つめの問題は、不滅の太陽だ。標がプレインズウォーカーをラヴニカに呼び、太陽がここに閉じ込める。そのため標と同じく、太陽も止めてやる必要がある。場所はここから遠くない新プラーフの塔の一つに、アゾリウスの新ギルドマスターであるドビン・バーンに守られている。あいつもボーラスの手駒だ」

「三つめ。アモンケットから次元橋が永遠衆を止まることなくラヴニカに送り込んでいる。標に呼ばれて太陽に閉じ込められたプレインズウォーカーを殺すためだ。それを閉じなければならないが、アモンケット側からしかできない」

 サムトさんが声を上げた。「けどどうやって? 私もアモンケットへ戻ろうとしたけど、その不滅の太陽が――」

 ベレレン氏は片手を挙げた。「わかっている。太陽の方が解決するのを待つつもりはない。だからアモンケットへは……次元橋そのものを通って向かう」

 バラードさんが冷やかすみたいに言った。「永遠衆がぞくぞく出てきてるってのにかい? 自殺しに行くようなもんだと思うがね」

 ベレレン氏はその言葉に微笑んでみせた。「それだけを聞けば自殺に向かうようなものと思われるかもしれませんが、更にできることはあります」

「私が行く」 サムトさんがそう言った。

 ベレレン氏はまた笑みでサムトさんに感謝を伝えた。けどジュラ氏へ向き直ると、その笑みはすぐに消えた。そして、まるでジュラ氏にだけ伝えるみたいに、挑戦するみたいに言った。「四つめの問題。リリアナ・ヴェス。あの女性が明らかにボーラスのために永遠衆を率いている」

 ああ。あの黒髪の人の名前はリリアナ・ヴェス。やっとわかった。

「これ以上続けさせるわけにはいかない。決して」

 ジュラ氏は黙ったままでいた。

 ベレレン氏は安心したみたいに大きく息をついた――魔法で増幅されてたから、すごく小さな音もばかばかしいくらいに私達に聞こえていた。「最後、五つめの問題が、ボーラスそのものだ。とはいえ先の四つを対処しない限りは、五つめをどうにかできる希望などないだろう」

 また皆がざわついた。希望はない、そんな感じに。

 ジュラ氏が進み出て言った。「六つめの問題がある。私達には一般ラヴニカ市民を守る責任がある。ボーラスがプレインズウォーカーの灯を求めなかったなら、誰一人このような危険にさらされる事などなかったのだから」

 ベレレン氏がその肩に手を置いた。「その通りだ。問題は六つだ」

「七つだ」 そう言ったのはザレック様だった。「十のギルド全てをまとめてギルドパクトを再構築する必要がある。ギルドパクトがまとめる力がなくては、あのドラゴンに真に対抗することは絶対にできない」

「もう試しただろうが」 ヴォレル氏が叫んで、イスペリア様の残骸を指さした。「その結果があれだ。イスペリアは死に、今日お前たちはラヴニカ最大の危機だというのに十のギルドを集めることすらできていない。一体どうしたらギルドパクトを今再構築できるなどと考えられるのだ?」

 ざわめきがまた少しずつ大きくなりかけて、けどザレック様が声を魔法で増幅して言った。それは稲妻みたいに響いてパチパチ弾けた。「正直、できるかどうかは俺も定かではない。けれどやらねばならない。火想者は最後の策を残していった。少々やけっぱちだが――」

「やけっぱちというのは前回以上にか?」 ヴォレル氏が尋ねた、信じられないって様子で。

「その通りだ」 ザレック様は頷いた。「だが俺達に唯一残された勝機でもある」

「わかった」 皆の言い合いが弾けるよりも先に、ベレレン氏が言った。「目標は七つ――もしくは六つだ、当分の間ボーラスそのものを差し引くとしたら。それぞれの問題を解決すべく、この戦力を幾つかに分割することを提案する」

 すぐにまた皆ざわついた。今回は少し熱があった。名前はわからないエイヴンのプレインズウォーカーが言った。「降伏するのはどうだろうか? ボーラスに慈悲に身を委ねるというのは」

 フェイデン氏がそのエイヴンに向き直って言った。「ボーラスに慈悲があるとは俺は思えないね。あんたは見てないだろうけど、ドムリ・ラーデというプレインズウォーカーが裏切ってあのドラゴンの側につこうとした。そして最初に刈られたプレインズウォーカーになった」

 別のプレインズウォーカー、黒髪に輝く緑の目の女性が言った。「だったら隠れるのはどう。どこかでボーラス自身プレインズウォークしたくなって、バーンに太陽を切らせるでしょう。そうすれば私達全員逃げられる」

 ヴォレル氏が、ますます怒りながら叫んだ。「それがお前たちの結論か? 隠れ潜んで永遠衆とあのドラゴンからラヴニカを見捨てる? お前たちプレインズウォーカーこそが、ボーラスがここにいる目的だ。ラヴニカが危機にある元凶だろうが」 そしてあのエイヴンへ向き直った。「だがお前の考えは気に入った。お前たちプレインズウォーカーが全員降伏して――必要ならば力づくでもな――ボーラスが全員を食えば満たされるかもしれない。そうなれば、ラヴニカを離れるだろうな」

「ボーラスが満たされることなんてない」苦々しい声がした。また別のプレインズウォーカーだった。長弓を携えた女の人。

 同じ苦々しさで、サムトさんが同意した。「全くもってその通りだ」

「いいだろう」 ヴォレル氏が言った。「だがこれだけははっきりさせてもらう。ラヴニカが燃える中でお前たちプレインズウォーカーが隠れているというなら、市民とギルドからの助力は一切受けられないと思え」

 不意に、ジュラ氏がベレレン氏へと向き直って言った。「あるいは、私達が降伏するべきか……」

 ベレレン氏はものすごく怒ったみたいだった。なんだか彼がちょっとだけ気の毒に思えてきたよ。

 サムトさんが進み出た。「ギデオン・ジュラ、そのような自己犠牲を申し出るあなたは高潔な人だ。けどアモンケットが辿った運命を忘れないで」 そして皆へ続けた。「ボーラスは私の世界をすっかり破壊していった。わずかな生き残りはいるが、私達を殺すためにボーラスが残した化け物と戦い続けている。ボーラスがラヴニカに目をつけたからには、去って行きはしない」

「ボーラスは、絶対に、満足なんてしない」 長弓の人が繰り返した。「私の世界、スカラは文字通り何も残されていない、あれのお陰で。あのドラゴンは死ななければならない」

 そして「そうだ!」の叫びが続いた――もっと続いた、敵意があって乱暴な叫びが。皆がばらばらになりそうだった。

 ラヴィニア女史が声を上げた。「ひとつ確かなことがあります。私達が対立しているうちは、ボーラスに対抗できるわけはありません」

 オレリア様も叫んだ。「皆さん、お聞きなさい! ラヴニカにアモンケットとスカラの後を追わせてはなりません!」

 ふと見ると、黄金のたてがみさんが手を伸ばしていた。ジュラ氏はそれを取ると高段を降りた。黄金のたてがみさんが言った。「誓いを思い出すんだ。ゲートウォッチの誓いを。友よ、降伏は答えではない。あの射手の言う通り、そして君もわかっているだろう。ボーラスのような者は満たされることも、慈悲を見せることも決してない。あれはそのようなものを弱点とみなしている。哀願などすれば、あれの食欲を増すだけだ」

 ジュラ氏はそれを受けとめて頷いた。そしてプレインズウォーカーとギルドの人の間を同じように通って、皆の中央へ向かった。続いた言葉に、私達全員が耳を澄ました。「今や誰もが私達の存在を知ってくれた。世界の間を渡り歩く力、それは常に戦いから逃げるためにあるのではと疑う者もいるだろう。だが、私達ゲートウォッチは誓いを立てた。決して逃げることはしないという誓いだ。この選択ができることは私達の特権であり、私達をいわば特別な存在にしてくれるものだ。同じこの選択を、今、皆に問う。戦うか否かという選択だ」

 そしてジュラ氏は黒い長剣を、皆に見せつけるみたいに抜いた。「これは黒き剣、かつて一体の古龍を斃したもの。そしてこれはボーラスも斃せるものだ。これを手に、私はここに誓おう、この世界を取り戻すと。共に来る者はいるか?」

 その演説に全員が目覚めた――たぶんほとんど全員が。皆が、ジュラ氏を囲みだした。黄金のたてがみさんが肩に手を置くと、その単純な仕草が合図になったみたいだった。あらゆる方向から、プレインズウォーカーもラヴニカ人もジュラ氏へ手を伸ばした、それだけじゃなくて、もっと遠くではテヨやケイヤ様や私みたいに、まるでその信念から力を貰うみたいに、ジュラ氏に触れた誰かに触れようと手をのばした。

 すごいことだと思った。全員が、二度とないみたいな体験をしていた。

 うん、フェイデン氏以外の全員が。あの人はキオーラさんの後ろに忍び寄って、綺麗な二又槍にそっと素手で触ってサイコメトリーを試していた――そして人生の選択をことごとく後悔したみたいに見えた。

 私が少し笑っていた所で、イゼット団の小柄なゴブリンがバルコニーから入ってきて叫んだ。「お偉方さんたち! 永遠神が一体近づいてます、あの化け物の軍隊も一緒です! ここに来るまで十一分半とかそこらです!」

 ベレレン氏が声を上げた。「問題は六つ! 任務は六つ! 志願者はいるか? 今すぐだ!」

 ケイヤ様が進み出ようとした――けどザレック様がそれを遮った。「七つめの任務を手伝って欲しい」

「ごめんなさい、どれがどれか忘れたわ。七つめって何?」

「絶体絶命作戦だ」

(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)


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