あなたは今ドラフト中だ。黒赤吸血鬼のアーキタイプを狙って、ここまで黒と赤のカードを取ってきた。

 しかし次に進んだところ、このリミテッド環境で最強の1枚、《大天使アヴァシン》と目が合った。どうすべきだろうか?

 突然、あなたの立場は、何があるかわからない2つの扉の、どちらに進むのかを考えるクイズ番組の参加者となる。

 あるいは、どちらか1つの惑星しか救えない状況に直面した、ヒーローだ。

 ウギンを助けるか否かの決断に直面した、サルカンのごとく。

 そう、あなたは……難しい決定を下さねばならなくなった、ドラフト・プレイヤーだ。

 そこであなたは、自分自身を分岐させてみた。

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 ああ、いや、そこまではしなくてもいい。落ち着いてくれ。わざわざ時間軸に矛盾を生じさせずとも、状況を判断するための方法は存在する。

 話を続けていいかな? だめかい? よし。では続けよう。

 ブースタードラフトは人生に似ている。一連の決定が、その先に続く自分自身と周りの決定に影響を与え、そして未来を決定することになる――良くも悪くもね。

 ドラフトでは、ドラフトをドラフトたらしめているこの種の決定判断に、数多く遭遇することになる。船から降りるか、それとも留まるかをどうやって判断すればいいだろうか?

 ドラフトが面白いのは、いつも違う展開を楽しめるところだ。しかしそれを楽しむには、ドラフト特有の正しい判断を常に行ない続けなければならないため、難しい場合がある。昨日は正しかった行動が、今日はまさに致命傷となるかもしれない。

 全てのドラフトに対して取るべき行動を100%保証してくれるカンニングペーパーなど存在しない。しかし幸いなことに、より良い行動を選択して成功を得るための、基本的な質問がある。それをドラフト中に自問していこう。

 それはどんなものかって? よくぞ聞いてくれた……

何を手放すことになるのか?

 他の色に行くために今の色を諦める場合、「何を手放すことになるのか?」と質問することが重要だ。

 ドラフトを始めて、1パック目の初手に《癇しゃく》を、2手目に《ファルケンラスの後継者》をそれぞれ取ったとしよう。3手目として流れてきた束に、《大天使アヴァシン》が入っていた。

 もしこの時点で自問すれば、この《大天使アヴァシン》に飛びつくべき、という結論にすぐさま到達するんじゃないかな。

 まだドラフトは2枚のカードを取っただけで、どちらかの色に深く関わったわけでもなく、この2枚のうち1枚が使えなくなるとしても、《大天使アヴァシン》を使えるほうがいい。赤や黒を継続すれば成功する、という保証さえないのだ。

 次は別の角度から考えてみよう。2パック目までのドラフトが終了し、バランスが取れたほぼ完璧な黒赤デッキへとしっかり進んでいる。3パック目を開封したところ、《大天使アヴァシン》が出てきた。しかし、勝ちたいならそれを取ることはないだろう。

 《大天使アヴァシン》は強力なカードで、流すことになったのは少々痛いが、今まで取ってきた内容から考えると、これを採用できる可能性は全く無い。3パック目だけでは、これまで取ってきた内容を超える白のカードを集めることはできない。

 また状況を少し変えてみよう。《大天使アヴァシン》ではなく、《近野の司祭》だとする。

 2つ目の例、3パック目で出てきた状況であれば、流しても全く問題ないだろう。しかし、1つ目の例ではどうか。

 1パック目の初手と2手目で、《癇しゃく》と《ファルケンラスの後継者》を取った。3手目の束に《近野の司祭》がいた。そいつを取って3色に手をかけて、後から流れを見て進む方向を調整することもできる。しかしこの3手目の束には、《狂気の預言者》も入っていたとしよう。

 《近野の司祭》は、環境全体から見て強いほうのカードだ。しかし《近野の司祭》を取った場合、初手からここまでの3枚のうち、最終的なデッキには、大抵どれかが抜けてしまうことになる。3枚のうち1枚は「無駄な」カードになるはずだ。もし《狂気の預言者》を取るなら、最終的なデッキに《癇しゃく》と《狂気の預言者》の両方を採用できることになるし――《癇しゃく》そのものの採用も確実となる。

 先々の状況に当てはめるために、考え方を広げてみよう。一般的に、1枚のカードのために複数のカードを諦めるつもりなら、その1枚がそれらの束よりも強力なのかどうかを考慮する必要がある。

 しかしドラフトは、その考えだけではどうにもならないことのほうが、ずっと多い。先ほどから使っている例を思い返してみよう。例えば、2パック目の初手に《大天使アヴァシン》が出てきた場合なんかはどうかな?

 ドラフトの判断基準があいまいになりはじめ、その時々によるところがかなり大きくなってくるのはこういう部分だ。そこで別の判断基準について学んでいこう……

シグナルと機会損失

 ああ、シグナルと機会損失、これらは興味をかきたてる言葉ではないかもしれない――しかしこの2つの用語は、ドラフトを別の判断基準から把握していくためには非常に重要なものだ。

 まずはシグナルについて考えよう。マジックのドラフトにおけるシグナルとは、まばたき、うなずきで何かを伝えたり、あるいはテーブルをつついてモールス信号で合図を送る、という動作のことではない。流した色と、流れてくる色から状況を判断することを意味する。カードを取ることと同様に、流した色と流れてくる色を把握することも、時にはドラフトの成功を決定的なものにしてくれるだろう!

 では、実際にはどのようにシグナルを活かすのかについて説明していこう。もしドラフトの1パック目で赤のカードだけを取り続けるとすれば、あなたの左側にいるプレイヤーたちには充分な赤のカードが行き渡らないことになる――となれば、左からカードが回ってくる2パック目では、美味しい赤のカードと出会える流れになるはずだ。

 同様に、1パック目の4手目に、初手取りできる水準の黒いカードが2枚入っていたなら、今後も黒の良いカードが何枚か回ってくるはずだ、という良い指標になる。

 ドラフト中、船を乗り換えるべきタイミングを判断する方法として、この基準をどう利用しようか?

 さて、さきほど取り上げた難しい状況の例を思い出してみよう。1パック目は黒赤吸血鬼のパーツを重点的に取った。2パック目を開封したら《大天使アヴァシン》が入っていた。取るべきだろうか?

 ここで、シグナルという判断基準が効果を発揮し始める。

 1パック目では、黒と赤のカードを取っていく代わりに、白の強力なカードをたくさん流していた、としよう。ということは、左に座っているプレイヤーの誰かが白を取っていそうなものだ。となると、もし《大天使アヴァシン》を取ったとしても、左からカードが流れてくる2パック目で白の優良カードが何枚も取れるということは考えにくく、色変えは失敗するだろう――つまり《大天使アヴァシン》を取る価値は無いということになる。

 裏を返せば(両面カード《大天使アヴァシン》にかけたシャレだよ)、もし1パック目に右からあまり白のカードが流れてこなかった場合、かなり興味深い選択肢が生まれる。

 白のカードがそもそもあまり流れてこなかったなら、左側で白をしっかり取れたプレイヤーはあまりいないだろう。ということはこの《大天使アヴァシン》を取ったあと、この2パック目で強力な白のカードをまとめて取れるのではないだろうか。

 では取るのが正解だろうか? いや、危険がないわけではない。右から白のカードがあまり流れてこなかったのなら、右のプレイヤーの誰かが白をやっているということだ!

 基本的には、この状況で《大天使アヴァシン》を取れば、2パック目では白のカードを多く獲得できるはずだが、3パック目で白のカードを多く見かけることはないはずだ。つまりここでの判断は、1パック目で取ったカード群がどのくらい強いのか、という点に大きく影響されることになる。黒と赤のどちらも本当に強力なカードを揃えられたのなら、色をそのまま維持するほうが良いだろう。しかしどちらか片方がまあまあという程度なら、その色を捨てて2パック目で白の優良カードを獲得するほうが良いはずだ。

 もちろん、《大天使アヴァシン》を取ったとしても、それで白を確実に使えるようになるとは限らない。ここで機会損失という考え方の出番だ。

 このタイミングで《大天使アヴァシン》を取ることによって起こる機会損失とは何だろうか?

 機会損失は経済学から引っ張ってきた用語だが、オックスフォード英語辞典では「複数の選択肢から1つを選んだときに、選ばなかった選択肢から得られるはずだった利益を失うこと」と定義されている。

 または、この記事の流れから言えば、「これを選んだ場合、何を諦めることになるのか?」というもっと単純な質問だ。

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 《大天使アヴァシン》を取る場合の機会損失とは、この例では基本的に、このパックに入っていたほかのカードを取れなくなる、ということを意味する。

 仮に、そのパックに黒赤デッキで使えそうなカードがまったく入っていなかったとしよう。ああ、その場合はおそらく、《大天使アヴァシン》を取って、それから白の優良カードを実際に取っていけるかどうか、やってみればいい。もしそのあと白に色変えできそうになくても、特に問題はないだろう。うまく色変えできたなら、自分のデッキにはすでに《大天使アヴァシン》が控えていることになる!

 逆に、《大天使アヴァシン》と一緒に、黒赤吸血鬼・マッドネスのための優良カード――例えば《手に負えない若輩》とか――が入っていたとしよう。それでも《大天使アヴァシン》を取るとすれば、現状すでに取得しているカードで組めるデッキのための何かを失うことになるわけだ。もし《大天使アヴァシン》を取ったあとに色変えが失敗すれば、アーキタイプにとっての最良のカードを得る機会をまさに損失したことになる。《手に負えない若輩》はこのアーキタイプで最も有力なカードの1つなので、この状況なら《大天使アヴァシン》よりもこちらを取るほうがいいんじゃないかな。

 さて、おさらいしよう。まずは、上でシグナルと呼称したものについて把握する。その流れを考慮した上で、そのカードを取る場合の機会損失を判断する。

 魅力的な選択肢が現れることもあるけれども、それに高い機会損失がついてまわるなら、たいていは予定を変更しないほうがよい。

自分が何をしているのかわかっているのか?

 私たちがイニストラードにいるからこの質問をしている、ってわけじゃないよ。

 最後になるが、ドラフトをする上で極めて重要なのは、ドラフト中は常に自分が取ってきた行動の結果について判断し続け、さらにその判断を実際の行動へと反映していくように努めることだ。

 最初に攻撃的なカードを何枚か取った状況を例として考えてみよう。これからは攻撃的なデッキになるようドラフトしていこう、という考えが浮かぶはずだ。それから、除去が何枚か流れてきたので、それらを取った。その後は守りに優れたクリーチャーを数枚手に入れて、1パック目が終了した。2パック目を開封したところ、《吠え群れの狼》のような速攻向けのクリーチャーと、《モークラットの屍蛞蝓》のような遅いゲームで猛威を振るう重いクリーチャーが入っていた、としよう。

 最初の考えを信じ込み、それに凝り固まるのが人間の常だ。そして、もしまだ攻撃的なデッキに向かう考えのままでいるなら、すでに攻撃的な内容のカードほうが少ない、ということに気づけないままだろう。取ったカードを総合的に考えると、必要なのは長期戦向けのカードだ。

 色についても同様のことが言える。例えば、私がこれまで間違いなく2色で行くと決めてやってきたドラフトの回数は数え切れないが、赤と黒を目指したはずなのに、その序盤での考えに囚われた結果、ドラフトが終了してから役に立つ黒のカードが6枚しかないことに気づく、ということもあった!

 ここで言いたいことは、自分が進んでいると判断した方向へと実際に向かうよう、常に気を配るべきだということだ。もしそこまでに黒へと向かっていたとしても、黒の良いカードはそのうちたった1枚しか取れていないなら、途中で現れた《大天使アヴァシン》を流す理由はない。

船影

 ドラフトをするのは簡単だ――けれども、ドラフトを極めるのは非常に難しい。

 船を降りて行き先を切り替えるべき時を知るためには、行動や流れをすべて把握し続けるのが理想だ――それを実践するのは大変だけどね。それでも次にドラフトするとき、今回扱ってきたような状況になれば、思い返すことができるだろう。今まで取ったカードと、どこに向かっているかを考えるんだ。そして記事でやってきたように、いくつか自問してみよう。答えが少しは見つけやすくなったんじゃないかな――そしてゆくゆくは、より良い結果を得るための素晴らしい手段となってくれるはずさ!

 ドラフトでの方向転換について何か考えていることや、方向転換すべきかどうか悩んでいる状況などがあれば、ぜひ教えてほしい。今後の記事でその例を採用できるかもしれないからね!

 TwitterでもTumblrでも、あるいはbeyondbasicsmagic@gmail.comへのメールでもいいので、連絡は気軽にどうぞ。

 今回はここまでだが、正しいと思った時にはいつでも船を降りるようにしてくれ。

 また来週会おう。

Gavin / @GavinVerhey / GavInsight / beyondbasicsmagic@gmail.com

(Tr. Yuusuke "kuin" Miwa / TSV testing)