コバヤシマル・シナリオの攻略
そのほんのわずかな差が、ゲームを左右している――結局全てはそれで決まる。
あなたは『カラデシュ』のドラフトイベントに参加中だ。完成したのは白赤のデッキで、今は対戦相手の青赤デッキと対戦している。序盤は対戦相手の赤いクリーチャーがこちらを攻撃していたが、都合よく引いたいくつかの除去呪文やブロックによる相打ちで、状況は安定した。しかしこちらのライフは残り2だ。そしてなんとか数ターンの優位を確保し、《経験豊富な操縦者》によって相手のライフを5まで減らすことに成功する。
ところが不幸にも、対戦相手に《風のドレイク》をトップデッキ(訳注1)されてしまう。このターンに回答を引けなければ、その攻撃が通って最後の2点ダメージを食らい、負けてしまうだろう。
(訳注1:トップデッキ/現在の状況においてゲームを決定づけるカードを引き当てること)
アンタップ。
アップキープ、ドロー。
カードを見てみる。
それは……
はずれだ。
《先見的な増強者》は強力なカードだが、この状況では助けにならない。
打つ手なし、だろうか?
本当に?
「スター・トレック2 カーンの逆襲」の象徴的なシーンといえば、オープニングの「コバヤシマル・シナリオ」だ。
宇宙艦隊アカデミーの士官候補生は、「コバヤシマル救出・シミュレーションテスト」を受ける。彼らは民間貨物宇宙船コバヤシマルを救うため、どのような行動を取るか決定していかねばならない。しかしながら、このシミュレーションは必ず失敗するようにシナリオが作られており、状況を打破することは不可能となっている。これは、見込みのない状況において、士官候補生がどのように対応するかを見るためのテストなのだ。
しかし、我らが勇敢なる主人公カーク船長が、独創的な考えを用いて確かに一度このシミュレーションを打倒したということを、私たちは後に知ることとなる。「勝ち目のないシナリオなどないよ」と彼は力強く述べた。
マジックでは、勝ち目のないように思えるシナリオと無限に遭遇する。盤面の状況1つで死を迎え、行動1つが自らの終焉を招くだろう。攻撃するか、しないか――飛行クリーチャーによって負けるのであれば、その行動に差はない。
ただし、マジックでは、別の解決策を見つけ出すことが可能だ。まず1つ、引いたカードを対戦相手は知らない。そしてもう1つ、シミュレーションのプログラムを無理やり書き換えることでテストをクリアしたカーク船長とは違い、プレイヤーは自分で盤面に直接干渉できる。
今日は、勝ち目のないシナリオを題材に話を進めよう。
大胆に行動する
マジックは紙一重のゲームだ。(カード1枚ずつの厚みが薄いから、というだけじゃないよ。)
このような状況から勝とうとしても、常にうまくいくわけではない。実際には、50回に1回、あるいは100回に1回成功するかどうかだろう。そうではあるが、それでもやってみる価値はある。その50回目の対戦のために? いや、全てが変わってくるかもしれないんだ。その1勝が、あなたをトップ8へと押し上げるかもしれない。その1勝が、大型トーナメントの2日目に残るか否かを変えるかもしれない。その1勝で、友人マークは自身の《イズマグナスのミジックス》を使った統率者デッキがいかに無敵かを自慢しなくなる、かもしれない。
少し前の記事、「投了します」でも取り扱ったが、負けが濃厚な状況でプレイを続行することが常に正しいわけではない。時にその数分は、プレイで消費せずに投了で持ち越す価値がある、貴重な時間となることもある。どうすべきかは、自分で判断しなければならない。
しかし、対戦時間が十分に残っているなら? 勝負を決める3ゲーム目だったら? 当然だが、もしプレイを続行すると決めたのであれば、マジックのルールが許す範囲で、勝つためにすべてを試みるべきだ。
そして、ここで注意すべき重要な点は何だろうか。それは、3/3がいるのに2/2で攻撃し、成功すれば有利になるが失敗すれば不利になる、という程度の、よくあるブラフ的行動とは状況が異なる、ということ。そして、それがどうやっても負ける状況だとするならば、ルールの範囲内でその負けをひっくり返すために、どんなにありえなさそうに思えても、あらゆる手を尽くしてみるべき、ということだ。うまくいかなくても、まあ、元々負けているわけだしね。そして万が一うまくいけば――ああ、我コバヤシマル救助成功なり、というわけだ。
何が問題かを把握する
どうにかすると決めたなら、その状況をひっくり返すために何ができるかを判断する前に、まずは解決したい問題が何であるかを把握しよう。
最初に語った状況では、解決すべき問題が何かは明確だ。《風のドレイク》が攻撃してくる点が問題となる。しかし大抵の場合、何が問題かは少々わかりにくいことが多い。戦場が膠着していて、一斉攻撃のための準備が整えられているところかもしれない。対戦相手が《神秘の教示者》を唱えたのは、こちらの《白金の天使》を除去するための呪文を持ってくるためだと考えられるかもしれない。しかし、いずれにせよ、最初にすべきことは、何が問題かを把握することだ。
何が問題かが分かったなら、まぎれを起こすために必要となる条件は何かを考えよう。
最初のシナリオに戻って考えるなら、その条件は単純だ。その《風のドレイク》をブロックに回させて倒すか、攻撃させなければいい。どちらかの条件を満たせば、渇望している次のターンが訪れるだろう。
そこまで分かれば、実行に移す時だ。
対戦相手が最も信じこむであろう手段を見極める
何をするべきか確認したら、次は、今の状況において何が実際に効果的だと思われるかを判断しなければならない。
《風のドレイク》と相打ちを取る方法を考えてみよう。こちらのライフは2で、対戦相手のライフは5だということを思い出してほしい。
ブロックに回ってもらう可能性が最も高くなる手段は何だろうか?
ああ、通常考えられるのは、コンバット・トリック(訳注2)だ。例えば、《鼓舞する突撃》はリミテッドの白赤デッキで使っていてもおかしくない。それが手札にあって、相手がブロックしなければ、相手は死ぬだろう。それが手札にあって、相手がブロックするなら、相打ちを取れる。
(訳注2:コンバット・トリック/戦闘フェイズ中に、クリーチャーを支援する呪文や能力)
別の選択肢は、こちらに守る方法があると信じ込ませて、相手に攻撃させないよう仕向けることだ。
仮定ではあるが、『カラデシュ』に《天駆ける進撃》が収録されていたなら、とちょっと想像してみてくれ。
手札に《天駆ける進撃》があり、ブロックが可能なのだと対戦相手に思わせるため、攻撃せずにクリーチャーを残しておくこともできるだろう。信じてもらえたならば、おそらく相手は他のクリーチャーを引くまで攻撃してこなくなる。
ここでは対戦相手が最も信じてくれそうな方向へと思考を誘導しなければならない。例えば、1ゲーム目と2ゲーム目で実際に《鼓舞する突撃》を使っていたなら、3ゲーム目もそのカードのことが対戦相手の頭をよぎるだろう。あるいは、相打ちを取りたいことが明らかなこの状況で、それでもこちらが攻撃しないならば、それは通常見られないカードを想起させるかもしれない。そう思わせることができれば、飛行を付けるコンバット・トリックを恐れて攻撃してこないだろう。
何に見せかけるかは、対戦相手が何をどう使っているか次第で変わるところもある。例として、相手が何をするにも極めて慎重であるとすれば、コンバット・トリックがあれば死ぬからブロックすべきだ、と判断してくれると予想して、攻撃するほうを選ぶだろう。
この項目で伝えておきたいもう一つの点は、対戦相手の思考に影響を与えられないものを駆け引きの材料にしても意味がない、ということだ。例えば、ここで対戦相手に持っていると思わせたいカードが《絶妙なタイミング》だとしよう。しかしそれは、実際にはあまり影響しない。相手が攻撃するにせよブロックするにせよ、《絶妙なタイミング》を使われるかもしれないと思ったとしても、その行動自体を考え直させる可能性は低いだろう。持っていると思わせるなら、こちらが望む行動を実際に取らせるだけの強制力を持つカードを想像させるべきだ。
現実味を持たせる
私の友人ジョシュは、ハリウッドの映画スタジオの近くで育った。彼は子供のころから映画が好きで、映画は彼を魅了した。近くで映画の撮影があると聞いては、それを見に行きたがったものだ。しかし当然、それを十分に近づいて見物するには何らかの方法が必要となるわけだが……?
そこで、彼は計画を思いついた。バケツに水を入れ、撮影現場の中へと運んでいくのだ。
どういうことか? 雑用係だと勘違いさせるのだ。
「撮影現場で子供がバケツの水を運んでいても、誰も疑問には思わない」と彼は私に言った。「バケツを持って堂々と歩けば、誰もおかしいとは思わないんだ」
はっきりさせておくが、禁止されている場所への侵入を勧めたり認めたりするわけではないよ。しかし、マジックのゲームの中でブラフを行うときには、バケツの水を運んでいるジョシュと同程度の自信が必要となる。自分自身が必要なカードを手札に持っていると信じられないようでは、対戦相手もまた信じないだろう。
本当にそうなのだという現実味を持たせなければならない。
対戦相手に持っていると思わせたいカード(の種類)が決まったならば、本当にそれがあるのだと対戦相手に信じ込ませる必要がある。(対戦相手の技量によっては、より態度を強調できるかもしれない。基本的に、熟練者が相手ならば、こちらが態度を誇張するほどブラフだと判断するだろう。逆に初級者が相手ならば、まずこちらが取る行動の意図を悟らせなければならない。)
基本的な例として、手札にどんな強力なカードがあったとしても、手札が《天駆ける進撃》だと思わせたいならば、その手札は――先の例なら《先見的な増強者》は――プレイしてはいけない。手札が無くなれば、攻撃しても問題がないということが明らかになってしまうからだ。
手札が《鼓舞する突撃》(あるいは攻撃後の本体火力、または攻撃することで対戦相手を倒せる他の何か)だと見せかけたいなら、もう少し含みを持たせる手段として、お互いの現在のライフを確認するというのもありかもしれない――興奮して「ライフは5だよね?」と聞くなり攻撃に入れば、対戦相手はどう対応するのが正しいのか考えてしまうだろう。うまいやり方だ。
別のシナリオを考えてみよう。こちらのライフは2で、対戦相手のライフは6だ。こちらは《サイクロプスの暴君》を、相手は《ゴブリンの長槍使い》をコントロールしている。このターンに引いたカードはただの《山》だ。どうしようか?
もし攻撃した場合、ほぼ間違いなく負けるだろう。返しの《ゴブリンの長槍使い》の反撃で倒されてしまう。ブロックしてくれるかもしれないが、可能性は低そうだ。しかしながら、攻撃しなかったとしても、《サイクロプスの暴君》はこのゴブリンをブロックできないので、やはり負けてしまう。したがって攻撃するわけだが、ブロックしてくれるだろうか?
さて、ここでもう一つ別の選択肢がある。攻撃はしない。そして《サイクロプスの暴君》が《ゴブリンの長槍使い》をブロックできないということに対戦相手が気が付いていない、ということに賭けるのはどうだろうか?
基本的に私は、対戦相手は最適なプレイをするという前提でプレイする。しかしこのような状況であれば、死地に踏み込まなければならない。このサイクロプスがこのゴブリンをブロックできないという制限は、しばしばあなたの記憶からすら追いやられているであろう。それを考慮すれば、対戦相手が威嚇の後に書いてあるそのテキストを覚えていない可能性はある。
そしてもし《ゴブリンの長槍使い》で攻撃されれば、ブロックは絶対に不可能だ。ブロックできないのにブロックするのはルール上認められていない。しかしながら、《サイクロプスの暴君》を攻撃させずに立たせておき、相手が攻撃してこなかったとすれば、そこにはルール上何の問題もない――そうすれば、生き延びて次のターンを迎えることができるかもしれない。
しかしあまりにもぐずぐずしていては、サイクロプスのテキストを読まれるかもしれないし、他にもいろいろな要因によって、この計画は水泡と帰すだろう! ここまでのブラフを効かせるには、プレイを手際よく行い、それが本当であるかのように自信たっぷりに振る舞わなければならない。
他の話題を
勝ち目のないシナリオからどう脱出するか考えるときに、この記事を生かしてくれればと願っているよ! これは時おり浮かび上がる程度の問題に過ぎないが、すべてのゲームで意識することができる――そして実際にその問題に直面したとき、その勝ち負けを変えることができるかもしれない。(しかもかっこよく決められるんじゃないかな。)
ギアをちょっと切り替えて、別の話をしよう。今後掲載予定の記事についてだ!
私は毎年、話題を混ぜ合わせたコラムを執筆する。マーク・ローズウォーター/Mark Rosewaterに倣って、マジックの話題から1つと、マジック以外の話題から1つを選び、その2つを組み合わせて記事を書くんだ。過去にはドクター・フーとお気に入りのデッキについてとか、臨死体験の話とデッキ構築の悪習についてといったものがある。
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(Tr. Yuusuke "kuin" Miwa / TSV testing)