投了します
二文字の、重く短い言葉。
対戦相手に言われれば勝ちを意味し、自分が言えば負けを認めたことになる言葉。
投了。
その言葉を告げると、プレイヤーは自分が広げていたカードをかき集めてまとめ上げる。誰もがそれを聞き、誰もがそれを告げたことだろう。
ある人々は「決して諦めないし、降参もしない!」という旗の下、誇りをもって戦う。そうではなく、致命の一撃を食らう前に淡々とカードを片づけ始める人々もいる。
しかし、これは単なる言葉では終わらない。飛行クリーチャーが致命的な攻撃を仕掛けてきたときに言う一言、という程度の意味ではないんだ。マジックでは、ほとんどのものが戦略的意味合いを持つ――そして、投了も例外ではない。
投了すべき時とは? 戦い続けるべき状況とは? そうすることに、どんな意味があるのか?
今日はそこを掘り下げてみよう。
困難に立ち向かう
「撃たないシュートは100%外れだ。」――ウェイン・グレツキー/Wayne Gretzky
一見勝てそうにない状況であっても、勝利を目指して最後までやり通すことで勝てたゲームを、私は数えきれないほど体験してきた。また、諦めなければどうなるか分からない状況であったのに、対戦相手が諦めて投了してきたために勝った、というゲームも数えきれないほどある。
通常は、基本的に、投了すべきではない。
マジックのゲームでは、諦めさせようとするさまざまな誘惑がある。イライラさせられるようなことがね。土地をあまり引けなかったり、相手が連続してトップデッキする様を苦々しく思ったり、あるいは同じ日に《反射魔道士》の入ったデッキと7回も当たって、うんざりしたりするかもしれない。投了しないことでいらだちや憂鬱を感じることはあるかもしれないが、マジックはもちろん、その逆の楽しみにあふれているゲームだ。
しかし、競技イベントでの成功を目指しているのであれば、忍耐する必要がある。
サッカーで3点差をつけられたチームでも、諦めたりはしない。
ジェームズ・ボンドは、銃で狙いを付けられていても諦めない。
私は昔、火山の噴出口に落下したことがあるが、山登りをやめたりはしない。
そしてあなたも、諦めるべきではないのだ。
マジックの大型イベント、その決勝の最終マッチ、勝敗が決まる3ゲーム目にもつれ込んだ状況だとしよう。しかし、次のゲームに勝てる確率は1パーセントだ。あなたは、ゲームをやめて投了したほうがいいと考えるだろうか?
もちろん続行するだろう!
可能性が相当に低いのは確かだが、百回に一回勝てるチャンスがあるなら、対戦を続ける価値はある。結局のところ、99%負ける試合かもしれないが、投了してしまうと100%確実に負けなのだ!
マジックというゲームは、やってみなければわからない。連続して完璧な引きを見せつけて、勝つかもしれない。対戦相手が思いっきりミスして、勝てるかもしれない。可能性が残されている限り、戦うべきなのだ。投了しなければ、対戦相手は実際にこちらを倒さなければならないのだから。
私が最初にプロツアー予選を抜けたときは、同じターンに2回、7枚と11枚で《精神の願望》を撃たれた試合があった。別の試合では、1ゲーム目に実際は負けていたところを、対戦相手のミスで命拾いした。そして決勝では私のデッキに対して「強力なカウンター」を使ってくるデッキが相手だった。もうだめだと思う場面はあったが、そこで実際に投了していたなら、この大会で優勝することはできなかっただろう。
戦略的に、投了することが正しい場合と、続行することが戦略的に正しい場合がある。それぞれについて判断を下す責任は、基本的にあなた自身にある。
勝利するための時間
「もって戦うべきともって戦うべからざるとを知る者は勝つ。」――『孫子』
さて、ここまでをまとめると、かなり単純な話になる。絶対に投了すべきではない。そうだね?
そうじゃない!
投了が正しい、特殊な状況がある。私は、多くの人々が誇らしげに投了しないと宣言しているのを見てきた。それが彼らにとっての誇りの源であるのかもしれず、それを前提として考えることが――その考え方についてはたった今、上で述べた通りで――正しいと言えるかもしれないが、投了が必要な場合もあるんだ。
覚えておいてほしい。競技イベントでは基本的に、諦めて投了したりせずに、プレイを続行すべきだ。しかしながら、投了すべき戦略的理由が存在する場合においては、勝利の可能性と投了から得られる利とを比較検討しなければならない。
今日は、投了すべき3つの主要な理由について取り上げたいと思う。その1つめは、時間だ。
マジックの1マッチには、決まった時間が割り当てられている。その制限時間までゲームが続いた場合は、追加として数ターンが与えられる。それらのターンが終わった時に、より勝ったゲームの多いプレイヤーがマッチの勝者となる――そしてもし、引き分けを除いたゲームの勝敗が同数であれば、そのマッチは引き分けとなる。
マジックの競技イベントにおいては、ゲームに勝つことを意識するだけでなく、マッチに勝つことも意識しておくことが、極めて重要だ。
例えば、こんな状況を考えてみよう。
あなたはミッドレンジ・デッキ同士の対戦を行っている。長い1ゲーム目を戦っているところで、このマッチの残り時間はあと17分しかない。現状がはるかに劣勢であることに間違いはなく、まだもう少し生き延びることは可能だが、ここから勝つ可能性はほとんどありえない、という感じだ。最高でも5%ぐらいの可能性だろう。
もし続行するならば、おそらくマッチを落とす可能性が高い。続行した場合、おそらく1ゲーム目を落とし、あと2ゲームを12分かそこらで両方勝たなければ、マッチを取ることができない状況に陥る。おそらく、12分で1ゲームを終わらせることは可能だろう。しかし2ゲームも? 終わりそうにない。
これは、時間を考慮して投了することが正しいかもしれない状況、と言える。自分の家でテストプレイしている時には関係ないが、競技イベントでは極めて重要なことだ。
だが、必ず投了が正しくなるわけでもない。例えば、他は同じ状況だが残り時間が3分しかない場合、2ゲーム目をやる時間はほぼない。であれば、可能性が5%であっても、この1ゲーム目で勝利を目指したほうがいいかもしれない。投了する価値があるのかないのかは、残り時間を考慮して自分自身で判断しなければならない。
情報戦
「知識に対する投資は、いつでも最高の利益を生み出す。」――ベンジャミン・フランクリン/Benjamin Franklin
あなたはモダンのイベントに参加し、席に着いた。対戦相手も到着し、ゲーム開始だ。相手は初期手札をキープ。
しかしあなたはキープできなかった。マリガン。もう一度マリガン。もう一度。さらにマリガン。ようやくキープして、占術は下へ。
最高の滑り出し、ではないことは確かだ。
結局あなたの初手は《バネ葉の太鼓》、《メムナイト》、そして《オパールのモックス》となった。
対戦相手の先攻だ。《新緑の地下墓地》を生け贄にして、《草むした墓》を出して、《思考囲い》を唱えてきた。
どうしようか?
ちょっと考えよう。
もちろん、実際に何かしらのゲーム内行動が取れるわけではない。マナを支払わずに唱えられる打ち消し呪文や、他の何かを持っているわけでもない。しかし考慮できる点が1つある。投了についてだ。
このゲームに勝利できる確率は、極めて低い。対戦相手の手札がありえないほど弱かったり、こちらの引きが完璧であれば確かに可能だが、そうそうあることではない。
それよりも、親和デッキにおける最大の問題点の1つは、対戦相手が強力なサイドボード・カードを投入してくるという点だ。多くのデッキが《石のような静寂》、《古えの遺恨》、《ハーキルの召還術》といったカードをサイドボードに採用している。
ゲームを続行してここから先に1段階でも進めば、対戦相手はこちらのデッキを把握して、次のゲームからサイドボードを活用してくるだろう。2ゲーム目を勝つのは相当難しくなる――ひいては、マッチも落とすだろう。
逆に、投了した場合、当然このゲームは落とすことになる。しかしどっちみち、ほぼ負けていただろう。それでいて続行した場合と比べると、2ゲーム目に勝てる可能性は飛躍的に上昇する……こちらは相手のデッキについての情報を得た上でサイドボードできるのだから、なおさらね!
さて、投了が常に正しい真実であるというつもりはない。例えば、こちらの手札が《島》、《墨蛾の生息地》、《墨蛾の生息地》だったらどうか。この場合なら、実際に手札を公開して感染デッキだと見せかけるのもありだろう! あるいは、対策されにくいデッキをプレイしているのであれば、対戦相手にこちらのデッキを知られる不利益よりも、こちらが対戦相手のデッキを知る利益のほうが大きくなるかもしれない。
これは1ターン目に限った話ではない。ターンやデッキだけでなく、個々のカード単位にまで適用できる話だ。
そういった状況は、リミテッド環境ではかなり頻繁に遭遇する。例えば、《激変の機械巨人》のようなカードは、それがデッキに入っていることを知られていない限り、対戦相手を完膚なきまでに叩きのめす強力な爆弾レアとして機能するだろう。
ゲームの後半で《激変の機械巨人》を引いたが、出したとしても敗色濃厚な状況だとしよう。その場合は唱えてしまうよりも、《激変の機械巨人》を唱えずに残しておき、相手に情報を秘匿しておくほうが、より効果的かもしれない。このマッチの他のゲームで後半にもつれ込んだ時に、対戦相手の盤面を吹き飛ばすチャンスが残るからね。
さて、これは目の前の1ゲームに勝つための話ではなく、マッチに勝つための話だということを忘れないでほしい。重要なのは、ゲームに勝つ可能性を判断した上で、投了するほうがマッチに勝つ可能性を高めることができると感じた時に、ようやく投了を考慮できるという点だ。全体除去を使われたときに、潔くあろうとしすぎて、まだ容易に勝てる状況であっても投了してしまうプレイヤーを数多く見てきた。
投了について考えるときは、状況を判断し、最も有効な行動が何なのかを考慮しなければならない。
長期計画
「木陰に座って休むことができるのは、誰かがずっと昔にその木を植えてくれたからだ。」――ウォーレン・バフェット/Warren Buffett
投了を考慮できる最後の状況は、強豪プレイヤーとの対戦時にのみ意味があり、その状況によって効果が左右されるものだ。しかしながら、それを知り、覚えておくだけの価値は絶対にある。
あなたが誰かと対戦している時、それはある意味で対話をしているようなものだ。対戦相手のデッキはどのようなものか、相手はどのようにそのデッキを扱うかが伝わってくるし、対戦相手にもこちらのことが伝わる。双方が相手を推し量り、気づいたことを手掛かりにしていく。
相手の情報を知り、優位に立てるようにすることが重要なんだ。
例えば、リミテッド環境で対戦しているとしよう。今は1ゲーム目で、次のターンで自分が負けるとわかっている。致命傷を与えてくる飛行クリーチャーに対処できないからだ。対戦相手次第ではあるが、その飛行クリーチャーで攻撃されれば――ほぼそうしてくるとは思うが――やられてしまうだろう。
さて、もし絶対に投了しないならば、ターンを返して相手に止めを刺させることになる。しかしもし、ここで投了したらどうなるだろうか。
そこから3ゲーム目へと話を進めよう。あなたは1ゲーム目と似たような状況にある。こちらは地上に《高山の灰色熊》が2体いて、次のターンに相手を倒すことが可能だ。しかし対戦相手は《風のドレイク》を2体コントロールしている。
こちらのライフは4で、相手のライフは8と、かなりの接戦だ。しかしながら、この状況で対戦相手が攻撃してきたら、負けてしまう。
しかし今度は、1ゲーム目のように投了せず、ターンを相手に渡す。
対戦相手にとっては、これが危険の兆候となる。1ゲーム目はこんな感じの状況で投了してきたのに、なぜ今度は投了しないんだろう? 何かコンバット・トリック(訳注1)があるのか? 攻撃せずに、安全に相打ちを狙うべきだろうか?
(訳注1:コンバット・トリック/戦闘フェイズ中に、クリーチャーを支援する呪文や能力)
これは、対戦相手に疑念を抱かせようという試みだ。
うまくはまってくれるかどうかはかなり怪しいが、可能性は残る。
まあ、これは相当に効果の薄い話かな。そして基本的には、最終ゲームで投了すべきではない。最終ゲームでは、投了から得られる戦略的要素が何ひとつないからだ。おそらく最初のうちは、これを何度か試してみても、30秒ほどの時間を余分に持ちこたえられるかどうかだろう。しかし、今述べたように、最初のうちの極めて少ない手間を惜しまなければ、最終的な助けとなることがあるかもしれない。
覚えておくべき視点であることに間違いはないだろう。
投了技術
「失敗しないのは、挑戦しないから。」――セドリック・フィリップ/Cedric Phillips
相手に勝利を譲ることを検討すべき状況は、見かけ以上に多い。そして前述した通り、マッチを決める最終ゲームでは最後まで諦めてはいけないが、1~2ゲーム目では考慮すべき要素が数多くある。
今回は3つの基本的な理由を説明したが、これらがすべてではない。常に先のゲームのことを意識しよう。そして、先のマッチのことをもね。
時にその理由は、「この負けそうなゲームで今すぐ投了すれば、次のマッチが始まる前に何か食べることができる。空腹のあまりプレイが雑になっていたとすれば、食事をすることで次のマッチでは状況が改善されるのでは?」といった、馬鹿げた――しかし重要な――ものかもしれない。上位8名のデッキリストが公開されない大会で、決勝トーナメントで再度当たるであろう相手に対して、サイドボードの特別なカードを秘密にしておきたいことがあるかもしれない。
しかしどのような理由であっても、正当な投了によってトーナメントを勝ち抜く可能性が高まるのであれば、その選択肢を検討材料に加えるべきだ。これらについて考えることは数多くある。
私に答えてほしい疑問があったり、何か私と意見を交換し合いたい、気づきや考えがあるかな? ぜひとも教えてくれ! ツイートを送ってくれても、Tumblrで質問してくれても、英語でBeyondbasicsmagic@gmail.comにメールしてくれてもかまわないので、気軽に話しかけてほしい。
また来週会おう! 読者のみんなが、マジックのゲームであっても生活のことであっても、正しい理由をもって相手に譲れることを願うよ。
Gavin / @GavinVerhey / GavInsight / beyondbasicsmagic@gmail.com
(Tr. Yuusuke "kuin" Miwa / TSV testing)