上手の手から水が漏れる
あなたは盤面を確認する。問題はないように思える――簡単に2点のダメージを通せる状況だ。
クリーチャーで攻撃して、相手の反応を待つ。対戦相手はこちらを見て、少し戸惑ったように少々思案してから、《シミックのぼろ布蟲》の能力を起動して、それをアンタップした。
あっ。
攻撃クリーチャーは《シミックのぼろ布蟲》にブロックされた。こちらの手札には先ほど引いた《剛力化》がある。どうしようか?
どうするか決めたかな? それを覚えておいてくれ。
今日は、失敗を犯すことについて考えていこうと思う。
好むと好まざるとにかかわらず、マジックのゲームでは誰もがミスを犯してしまうものだ。世界最高峰の舞台で戦ってきた歴代最高のプレイヤーたちですら、マジックのカードに触れる以上はミスしてしまう。クリーチャーを不利な攻撃へと参加させる。打ち消せない呪文にカウンターを打つ。蓄積カウンターが1個置かれた《虚空の杯》を見ておきながら、1マナの呪文を唱える。2ターン目に考え込んだあげく、2枚目の土地を置き忘れる。素晴らしいプレイヤーがこういうミスを犯してしまったところを、私は見てきた。私自身も、そういったミスを犯したことがある。あなたがどれほどの実力者であっても、ミスからは逃れられない。
もう一度言おう。あなたはミスを犯すだろう。
それも当然だと思う。マジックは複雑なゲームだ。そして時に、マジックの対戦を繰り返す長い1日、その7回戦目という状況は、瞬間的な判断力を束の間奪い去り、3マナ目として使用可能な《ラノワールのエルフ》が脇に控えている対戦相手に対して《マナ漏出》を使ってしまう、というミスを容易に引き起こす。
そういうことは起こってしまうものなんだ。
さて、当然だが、我々はミスしたいと思っているわけではない。常に最善のプレイを心掛けているはずだ! しかし繰り返すが、それは起こる。誰もがミスを犯してしまう。
しかし、ここで重要なことがある。それは、「どうして」ミスを犯してしまうのか、という話題の多さに対して、ミスに「どう対処するか」という話題はより少ない、ということだ。
これはマジックにおける真理というだけではない――人生における真理でもある。
心配のあまり、きつい言葉を使ってしまったことがあるかもしれない。時間を間違えて出発が遅れに遅れ、飛行機に乗り遅れたことがあるかもしれない。待っていればよかったのに、その場を離れてしまったことがあるかもしれない。これらはすべてミス、失敗だ。
しかし失敗したのち、混乱した状況の中にあって、最も重要なこととは何だろうか? それは、次に何をするかだ。
感情のままに強い言葉を言い続けて、事態がより悪化することもある。あるいは、謝罪して状況を改善しようと試みてもいい。これは暴挙だ、と航空会社のスタッフを怒鳴りつけたり、あるいは近く受付で、今からでも席を確保できる別の便がないかどうか、冷静に尋ねることもできる。じっとしていればよかった、と動き回ったことをくよくよ考えるよりは、現状を改善する方法を考え出すことに頭を切り替えることもできる。
それはあなた次第だ。
そしてマジックでは? よりあなた次第となる。状況はあなたの目の前にあり、ゲームに勝つか負けるかは、いずれはっきりする。それで――どうやって挽回できるだろうか?
失敗した状態から、どこを目指すのか?
マジックでミスを犯したとき、それはもうすでに起こったことだ――したがって必要なのは、現状を把握し、そこから先へと進むこと、となる。
最初に提示した状況を思い返してみよう。
手札には《剛力化》がある。こいつを発射しようか?
失敗したくないのが人の性だ。本能的には、面目を保つために《剛力化》を使うほうへと傾きがちだろう。ただ単にクリーチャーを失うようなことはしたくない。そしておそらく、失態を対戦相手に見られたくないという気持ちもあるだろう。
しかし、私はここで、あなたの自尊心を抑えるように、と言わせてもらうよ。
盤面を見てみよう。あの《シミックのぼろ布蟲》は、こちらの《天使の壁》で止めることができる。どうということはない。どちらかと言えば、《大気の精霊》によって負ける可能性が高いだろう。そいつの攻撃を通せるのは2回だけだが、対戦相手は毎ターン攻撃してくるだろう。こちらがデッキから完璧な対策を引くまで待ってくれたりはしない。対戦相手は次のターンも攻撃してくる――そして、《天使の壁》でブロックして《剛力化》を使えば、新鮮な《大気の精霊》の幸をいただけるって寸法だ。(この《大気の精霊》が取れたてかどうかは知らないけどね。)
しかしこの展開には、重要な前提がある。《剛力化》を残しておくことだ!
この攻撃の時点で《剛力化》を打ってしまえば、《大気の精霊》に対処する方法は残されていない。それは、《ルーン爪の熊》を失うのと同じくらいに無意味な行為だ。失敗した後に、切り札まで捨てることがないよう、注意しなければならない。
基本的に、ミスを犯したと認識したときは、いったん動きを止め、行動する前に状況判断をしなおすことだ。ゲーム上の計画について見直し、その考えが正しさを保っているかどうかをしっかり確認しよう。そしてまた、感情のままに行動しそうなときも、正しいプレイを行っているかどうかをしっかり確認しよう。最初の失敗を挽回するための行動で、別の失敗を犯す余地は残されていない――それはさらなる失敗を呼び込む結果となる。
正しく正す
さて、状況判断しなおすと言っても、それは犯してしまった過ちに対応しなくてもよい、と言うことではない。重要なのは、現状の実態に合わせて対応することだ。
最初の例においては、それまでの流れを切り離して現在の盤面状況で判断し、《剛力化》を残しておくのが絶対に正しい。(一部のプレイヤーは、この攻撃は《大気の精霊》での攻撃が安全だと思わせるためのブラフだ、とまで論じるかもしれない――こちらが攻撃しようとしまいと相手は攻撃してくる状況だと思うから、私個人としては同意しにくいけれどもね。)しかし、起こってしまった状況に合わせて対応することが正しい場合もある。
ここでそれを考えるための事例を見てみよう。
何があったのかはともかく、今はこうなっている。クリーチャーで攻撃した直後、あなたはミスを犯したことに気付く。《チフス鼠》のせいで《超大なベイロス》を失なってしまいそうだ!
盤面を見て、《捕食》でネズミとエルフを格闘させてから攻撃すれば勝っていたと理解する。しかし今、それを可能とするクリーチャーが失われようとしている!
さて、《超大なベイロス》と《チフス鼠》を相打ちにしてもよいものだろうか?
そんなわけはない!
今でも《超大なベイロス》が勝利への切符であることに変わりはない。このターンで相手を倒すことには失敗したが、《超大なベイロス》がいればまだゲームに勝てる可能性は高い。《濃霧》を打ち、後から《捕食》で《チフス鼠》を倒すべきだろう。うまくいけば、まだ次のターンには勝てるということだ。対戦相手は《超大なベイロス》を処理できる何かを引くかもしれない。しかしともかく、《超大なベイロス》を見捨てる手はない!
失敗を犯した時点で状況を確認し、その状況から先へ進むための正しい方策を取れるかどうか、それによってすべてのゲームの結果は変わる。ロボット(か、《約束された終末、エムラクール》あたり)が一時的に精神をのっとり、ミスをさせたと考えよう。そうしたら、気持ちを切り替えて、今から最善のプレイを心がけよう。
次にどうするかは、常にあなた次第だ。
正しい方向へと突き進む
今回はマジックプレイヤーにとって、「ティルト/tilt」という言葉を知るよい機会だ。ティルトは競技的な試合で発生しうる最も危険な現象の1つを指す言葉で、ポジティブまたはネガティブに感情が「傾き/tilt」、感情がプレイを支配して戦略を正しく実行できなくなっていく状態を意味する。ティルトは、相当に有利で、失敗しても負けないと油断しているときにも起こりうる――そして最も多く起こりうるのは、ミスを犯したときだろう。
感情的になって冷静に判断できなくなると、《ルーン爪の熊》に《剛力化》を唱えてしまうだろう。
感情的になって冷静に判断できなくなると、《超大なベイロス》をみすみす失ってしまうだろう。
ティルトはあなたを最善のプレイから遠ざける。失敗した直後、その最新の状況を毎回判断しなおすことで、ティルトが引き起こす事態は回避可能だ。まずは深呼吸。ゲームの状態を確認。そして復帰の準備を適切に行い、正しくプレイし、うまく戦おう。
失敗した状態から、どこを目指すのか? 勝利を目指そう。
今週はマジックで失敗を犯すことについて、前向きに考察してもらえれば嬉しいな! 何かしらの考えや意見があれば、いつでも伝えてほしい。TwitterやTumblr、あるいはBeyondBasicsMagic@Gmail.comへメールしてくれ!(英語で)
また来週会おう。犯してしまった失敗を挽回する方法を探しつつ、マジックを楽しんでくれ。
Gavin / @GavinVerhey / GavInsight / beyondbasicsmagic@gmail.com
(Tr. Yuusuke "kuin" Miwa / TSV testing)