今、君は「これまでの自分」と「なりたい自分」の間にいるとしよう。マジックの基本的なことは押さえ、自分でデッキを組めるようになった。ゲームの進め方はしっかり理解し、ゲームに勝ったり負けたりしている。

 でも、もっと上手くなりたいと思っている。マジックで遊べるだけじゃなく――もっと強くなりたい。もしかしたら、壁1枚隔てた向こうから「プロツアー予選突破」のような甘い夢の香りが漂って来るのを、感じているかもしれない……あるいは、行きつけの店で行われたドラフトでついに、目標にしていたプレイヤーに勝ったところだろうか。

 では、これからどうすればいいだろう? 高地をさらに登る助けとなる目に見えない取っかかりをつかむためには、何をすればいいだろう?

 「Beyond the Basics -上級者への道-」へようこそ。

 このコラムでは毎週、私がマジックの様々な面をより深く見ていく。特定の種類のデッキ構築について話すこともあれば、ブースタードラフトにおける「シグナル」の読み方が話題になることもあるだろう。それから、読者のみんなから送られてきた特定の状況においてのプレイングについて考察する回なども予定しているぞ。

 「ReConstructed -デッキ再構築-」の終了からしばらく経ったけれど、こうしてまた週刊連載のコラムを書くことになって心が躍っているよ。書きたいテーマはたくさんあって、どれも早く書きたくて待ちきれない!(君たちからも読みたいテーマがあったら、ぜひ教えてほしい――募集についての詳細はあとでお話ししよう)。

 さて今回は、ある非常にシンプルな疑問から始めようと思う。マジックのゲーム中は様々な疑問を自身に投げかけるものだが、中でも最も大切なものだ。

 準備はいいかい?

 今回のテーマは、これだ。

「対戦相手はなぜあのプレイをしたのか?」

情報を得るための情報

 今、君はテーブルの前に座り、マジックをプレイしている。シャッフルを終え、土地を置いて呪文を唱えた。まあつまり、プレイを始めたわけだ。

 ここから先、君のプレイに偶然はない。君が下した決断ひとつひとつに理由がある。その理由が正しいかどうかはさておき、何かしらの理由を持ってプレイを選択したはずだ。

 食料品店での買い物に例えてみようか。買い物のとき、君たちは5歩ごとに商品を手に取り、それをデタラメに買い物かごへ放り投げたりはしないよね(『一攫千金!!スーパーマーケット』じゃないんだから)。そう、何かしらの目的を持ってかごへ入れるはずだ。サンドイッチを作るなら食パンを買うし、そのうちケーキを焼くつもりなら卵を買うだろう。ちなみに私なら、フムスを切らさないように3瓶くらい買っておくかな。

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 決断には意志が伴う――意志を固める際に、買った卵が実際にケーキを焼くのに使われるかどうかは問題じゃない。3つ目のフムスが本当に必要かどうかも問題じゃない。決断したそのときは、絶対に使うと信じていたんだから。

 お腹がすく話はこれくらいにして、マジックの話に戻ろう。

 つまり同じプレイヤーとして、対戦相手のプレイにも――そのひとつひとつに理由があると考えることができる。

 では、君が「テレパス使い」になるために必要なことは何だろう? それは、対戦相手が行く道に残していったパンくずから、その行き先を見抜く洞察力だ(おっと、また食べ物に例えるのをやめられなかったよ)。

 すべてのプレイに対して「対戦相手はなぜあのプレイをしたのか?」と疑問を持つことで、ゲームを見る視点は変わるのだ。

 つまりどういうことか。実際に例を見てみよう。

情報を持った土地

 君はスタンダードのゲームをしている。対戦相手は前回のプロツアーで活躍した「黒緑サクリファイス」デッキを使っているとしよう。

Luis Scott-Vargas - 「黒緑サクリファイス」

スタンダード
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 2ゲーム目、先攻の対戦相手は1ターン目に《ウェストヴェイルの修道院》をプレイしてターンを渡した。

 ここで取れる選択肢はふたつ。

  • そのままターンをもらい、カードを引く。相手はただ土地をプレイしただけだ
  • まず自身に問いかける。「相手はなぜあのプレイをしたのか?」

 前者もよくある話だが、ちょっと考えてみてくれ。ここで疑問を持ち、後者の選択肢を選ぶことを。

「対戦相手はなぜ《ウェストヴェイルの修道院》をプレイしたのか?」

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「なぜ《ウェストヴェイルの修道院》からプレイしたのか?」

 対戦相手のデッキは黒緑。無色マナでは何もできない。《風切る泥沼》を持っていたなら、ここでタップ・インしていただろう――だから《風切る泥沼》はない。それから色マナ源を十分に持っているなら、どちらかの色マナを生み出せる土地から置くはずだ。

 さらに広い視点で考えてみよう。このデッキの戦略を知っている人なら、《ウェストヴェイルの修道院》を見せるのは可能な限り遅らせた方が効果的であることを知っているはずだ。

 以上のことから導き出せる結論は? おそらく、対戦相手は色マナに乏しい状況にある。《ウェストヴェイルの修道院》2枚でキープしたのかもしれないし、あるいは1マナ域のクリーチャーと《謎の石の儀式》を持っていて、そこから色マナを供給しようとしているのかもしれない。詳しい部分はまだわからないものの――相手は土地に不安を抱えている、ということは間違いないだろう。

 ではこの情報から得られることは? こちらのデッキにもよるけれど、対戦相手の土地が詰まっているならアグレッシブに攻め始めるという判断ができるだろう。あるいはロング・ゲームで勝つデッキなら、準備に時間がかかる強力な動きに向かうといい。

情報による攻撃のとき

 さあ戦闘だ!

 君は『イニストラードを覆う影』リミテッドのゲームをしている。ゲームは後半、お互いのライフは12点で、対戦相手は青赤のデッキを使用している。君も相手もマナは潤沢だが、盤面には相手の《狂気の預言者》のみ。相手は手札が空の状態から、カードを1枚引いてそのままターンを返した。

 ここで根本的な疑問を持ち、自身に問いかけよう。「このプレイはどういうことか?」

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 よし、詳しく解説しよう。

 対戦相手がこのとき土地を引いていたなら、まず間違いなく《狂気の預言者》の能力を起動していただろう。こちらの盤面には何もないため、《狂気の預言者》をブロッカーとして立たせておく必要はまったくない。能力を起動して追加の戦力を探す方が重要だ。

 だがその一方で、絶対に残したいカードを引いたなら、《狂気の預言者》で攻撃しているはずだ! その場合は2点のダメージを与えない理由はない。引いたカードがクリーチャーなら、戦闘後に展開してくるだろう。

 以上のことからここで得られる情報は、非常に興味深い。つまり対戦相手は、手元に残したいと同時に《狂気の預言者》をアンタップ状態で構えたいようなカードを引き込んだのだ。

 可能性はいくつかある。相手が引き込んだのは取るに足らない呪文だったが、それを捨ててしまう前に本当に不要なのか確かめる時間をとったのかもしれない。でも特に可能性が高いのは?

 「マッドネス」だ!

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 「マッドネス」を持つ呪文は、それを捨てたときならインスタント・タイミングで唱えられる。対戦相手の引き込んだカードが「マッドネス」を持っていると仮定すれば、このプレイは大いに納得できるだろう。そう考えれば、相手の手札に当たりをつけることができるのだ。

 それが何の役に立つのかって? 様々な利点につながるかもしれないぞ。例えば、対戦相手がこちらのターンにも《狂気の預言者》の能力を使わなかったら、相手の手札は《集中破り》のようなこちらの動きに対応する「マッドネス」カードであるとすぐにわかるだろう――そしてその後、その情報を知っているかどうかで勝敗が分かれることもあり得るのだ。

時は知なり

 対戦相手の手札を推し量るための大きなチャンスは、相手が呪文を唱えたときにやって来る。経験則から言わせてもらうと、相手が何か普通じゃないことをしてきたらその理由を自問すべきだ。

 ちょうどいい例を挙げよう。

 再び『イニストラードを覆う影』リミテッドのゲーム。緑白を使う対戦相手はここまでうまく試合を運んでいる。ターンを迎えた相手は《スレイベンの検査官》を唱え、クリーチャーで攻撃に出た。

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「この攻撃はどういうことか?」

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 たとえ《スレイベンの検査官》が大型クリーチャーだとしても、「手掛かり」となるのはそこじゃない(手掛かり・トークンはくれるけどね、あはは)。疑問に思うべきは、対戦相手が《スレイベンの検査官》を「戦闘前」に唱えたことだ。マジックでは普通、呪文を唱えるのは可能な限り待った方が戦略的に有効だとされる――だからクリーチャーは、第2メイン・フェイズに唱えることが多いのだ。つまり攻撃前にクリーチャーをプレイした相手は、常道から外れた形を取ったということになる。

 それはなぜだ?

 《スレイベンの検査官》をプレイしたことで、盤面にはふたつのものが加わった――人間・クリーチャーと手掛かり・トークンだ。最も可能性が高いのは、対戦相手の狙いがそのふたつを盤面に加えることである、という線だろう。あくまで可能性の話だが、戦闘が不利になったら手掛かり・トークンを生け贄に捧げ、その状況への解答を探せるようにしておいた、ということもあり得る。

 だが、対戦相手はわざわざこれまでのプレイ方針を変えて、《スレイベンの検査官》を先に出した。そうするだけの理由を与えるカードを持っている、と考えるのが正解だろう。

 ではさらに深く推察を進め、相手が持っているであろうカードを特定しよう。それは《未知との対決》だ。

 この場面で攻撃の威力を最大限に引き上げたいなら、この強化呪文がうってつけだ。そしてこの情報は、勝敗に直結する。

 例えば、こちらの残りライフが7点の状態で攻撃を通してしまうと、敗北が決定するかもしれない。あるいはブロックに向かっても、《枝細工の魔女》をブロックすれば助かったのに、《薄暮見の徴募兵》の方をブロックしてしまったということもあり得るだろう。(さらにもう一段深く考察するなら、《薄暮見の徴募兵》は極めて強力なカードであり、相討ちに取られかねない場面で攻撃へ向かうにはそれなりの理由があると考えられる)。一見、その場面はブロックすべきでないものかもしれない。だが対戦相手の動きから情報の一端を得られたかどうかは、ゲームを決することもあるのだ。

誤情報

 ここまで様々な理論を読んできた君たちだが、すぐにさらなる疑問が浮かんだことだろう。「もし対戦相手のプレイに意図がなく、単なるミスだった場合はどうするの?」

 そう疑問に思うのは、もっともなことだ。マジックにミスはつきものなのだから。最高峰の舞台で戦うような熟練者でも、間違いは起こすものだ。「マッドネス」を持つカードが手札になくとも、《狂気の預言者》での攻撃を忘れてそのままターンを渡してしまうこともあるだろう!

 確かに、そういうことは当然起こる。だが現実的に、対戦相手はミスをしないように心がけてプレイを行っているはずだ。だから基本的には、相手が問題なくプレイしていることを想定するべきだろう。他の情報からそのプレイがミスであったとわかる珍しいケースもあるにはあるけれど――例えば、《狂気の預言者》を立たせたままターンを渡した相手が、残った手札を額に当てて「しまった!」と言ったとか――、普通は相手を過小評価するべきではないのだ。

 とはいえ、この疑問はあまり突き詰めない方が賢明だ。こういった盤面外の情報も、(ゲーム内でのあらゆる情報と同様に)前後の状況から正しく評価するべきだろう。対戦相手の動きを正しく読み切ったところでこちらの動きが向上するのは5%ほどであり、もし読み違えれば悲惨なことになるようであれば、割に合わない。頭の片隅に置いておき、活かせる場面で活かすべきだ。

 さて、もちろんこの話にも、より深い考察がある。

 対戦相手を出し抜くためにあえてセオリーから外れたプレイを選択する、という高いレベルの戦いもあるのだ。《スレイベンの検査官》を戦闘前にプレイすることで、こちらが《未知との対決》を持っているのかもしれないと相手に疑念を抱かせ、それを想定したブロックを引き出せる。

 確かに、そういった可能性は常にある。しかし現実的に、そんな高いレベルのプレイをするのは長きにわたって技術を磨いてきたベテラン・プレイヤーくらいだ。意識することは大切だが、それに囚われてプレイを選択するべきではない。「なぜ」という疑問を持つようになったばかりのプレイヤーならなおさらだ。

情報を超える

 以上、今回は「マジックにおける最も大切な疑問」についての入門的記事をお届けした。

 最後に、今回の話が最高レベルの戦いで活かされた例となる、私のお気に入りのエピソードを紹介しよう。使用されたカードは昔のものでありピンとこないかもしれないけれど、核となる考え方は現在でも通用するぞ。

 何年も前の話だ。『時のらせん』ブロック構築での戦いにて、殿堂顕彰者ルイス・スコット=ヴァーガス/Luis Scott-Vargasとポール・「Paul」・チェオン/ Paul "Paul" Cheonがコントロールの同系戦を制すべく競い合っていた。

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 両者のデッキは《神秘の指導》を中心にした、相手の動きに応じて用いる呪文や打ち消し呪文満載のものだった。

 そしてこの同系戦において鍵となったのが、《祖先の幻視》だ。

 この試合においては、《祖先の幻視》で手札を爆発的に増やすことそのものがゲームの決め手となった。ルイスはその《祖先の幻視》を「待機」しており、時間カウンターは残り1個。今まさに、「待機」が解けようとしていた。

 ルイスはこのときタップ・アウトの状態にあったが、対戦相手のポールはそのままターン終了。だが彼はルイスのアップキープ時に、《祖先の幻視》を無力化できる《永遠からの引き抜き》を唱えた。

 ルイスにとって、これは手痛い。是が非でも《祖先の幻視》を通したいのに! だが幸運にも、彼は打ち消し呪文を持っていた。

 本能が、すぐに打ち消しを使えと訴える。この試合の急所だぞ! 私はこの場面を想像した。この先のルイスの動きを推察する。彼は手札の打ち消し呪文に手を伸ばし、それを唱えるべく指で挟み――そこで彼は動きを止めた。

「何かおかしなことが起きている」と、ルイスは気づいたのだ。先ほどのターン、彼はタップ・アウトの状態であり、ポールは妨害の恐れなく《永遠からの引き抜き》を撃ち込むことができた。そこから得られる結論は? そう、ポールはこの《永遠からの引き抜き》に打ち消しを「使ってほしい」のだ。

 ルイスは《永遠からの引き抜き》を通した。果たして、ポールの手札にあったものは――《インプの悪戯》だった。

 この強烈な対策カードは《祖先の幻視》の対象をポールへと変え、ゲームの決定打となり得た――そこでポールは先に、ルイスの打ち消しを引き出そうとしたのだ。そしてルイスはそれを見事に見抜き、《永遠からの引き抜き》を通したのだった。

 本日は以上だ。みんな、状況に応じた「なぜ?」の使い方を学べたね。

 この記事をきっかけに、「なぜ?」と自身に問いかけることが効果的であることを知ってもらえたら嬉しい! みんなに伝えたいことはまだまだ山ほどあるから、これから何週間、何ヵ月、そして何年もかけて話していこう。

 私から話したいことはたくさんあるけれど、みんなが聞きたいこともぜひ知りたいな! 私に教えて欲しいことや知りたいと思っていること、記事の話題を私まで送ってくれ。話題にしたい興味深いプレイはあるかい? まともに組めているものを一度も見たことがないようなデッキは? ドラフトで色を決める際にいつも引っかかる問題は? 私に取り挙げてほしいと思っていることをぜひ知らせてくれ!

 どこに知らせればいいかって? 私はソーシャルメディアを愛用しているから、それらを通して連絡をくれるのがいいかな――中でもベストなのはTwitterTumblrだろう。そこで私に宛てられたメッセージは、すべて目を通しているよ。もしソーシャルメディアを使わない方がいたら、beyondbasicsmagic@gmail.comまでメールを送ってくれ。必ず確認することをお約束しよう。

 来週も上級者を目指すテクニックをお届けするけれど、ぜひこれからは「なぜ?」と問いかけることを続けてみてくれ。

 それじゃあまた来週! もう次回が待ちきれないよ。

Gavin / @GavinVerhey / GavInsight / beyondbasicsmagic@gmail.com

(Tr. Tetsuya Yabuki / TSV Yusuke Yoshikawa)