ラヴニカ、その過去と現在
広大な都市に覆われた次元ラヴニカ。大都市の内では十のギルドが力を求めて争い、難解な次元規模のチェスで優位に立とうとそれぞれが建築物や路地の迷路の中、縄張りを争っている。
アート:Richard Wright
一万年以上の昔、ラヴニカ次元全域で戦争が勃発した。十のギルドの軍勢は次元の覇権を賭けて、あるいは単に混沌対秩序から発生した対立により争った。その戦争はギルドパクトとして知られる、莫大な力を持つ魔法的契約が結ばれることで終結した。それに署名したのは十のギルドそれぞれの指導者達――全員がラヴニカのギルドマスターとなった、パルン(創設者)として知られる古の存在――であった。かの契約は各ギルドがラヴニカの組織構造の中でそれぞれ明白な役割を担当することを確実とするために創られ、そして都市は拡大して行くことができた。数千年の間、各ギルドは二色のマナへと熟達し、それを具体化し形成してきた。この独特なマナの組み合わせはギルドにそれぞれの独自性を追求させ、魔法的束縛であるギルドパクトの範囲内に残り続けることを運命づけた。一万年に渡って、十のギルドが独特で強大な勢力へと進化する中、都市はこの構造の元に成長し繁栄した。
しかし、万年紀祭においてギルドパクトは破壊された。古よりの均衡は砕かれ、ラヴニカは混乱へと陥った。
アート:Nic Klein
ラヴニカ〜ギルドパクト〜ディセンション
ギルドパクトはどのように破壊されたのか? ギルドに何が起こったのか?
これらの出来事について描かれた小説三部作を読んでいないかもしれない皆のために、ラヴニカの歴史を簡潔に記そう。
《ウォジェクの古参兵、アグルス・コス》 アート:Donato Giancola
そう遠くない昔、ボロス軍ウォジェク連盟所属の老練なるアグルス・コスは、長らく忘れ去られていたディミーア家のギルドマスター、ザデックの陰謀を暴露した。彼はギルドパクトを破壊しラヴニカを支配することを企んでいた。アグルスは根気強い調査によってゆっくりとその秘密のカーテンを引き戻していたが、彼はその間ずっとザデックの総合計画の役割を知らず知らずのうちに担っていた。創設者の一人であるザデックはギルドパクトについて脳が麻痺するような細目までを理解しており、その中に生じうる矛盾を発見した。魔法的契約を打ち砕き、強制的な均衡を破壊してラヴニカ次元の支配が可能となるような。まるで熟練のくぐつ師のように、ザデックはアグルス・コスがその矛盾を生み出すよう、巧みに操った。
しかし、ザデックの企みはすべてアウグスティン四世大判事によって予測済みであり、彼はザデックの計画が成功した暁になにが起こるかをも正確に理解していたのだった。
《アウグスティン四世大判事》 アート:Zoltan Boros & Gabor Szikszai
ギルドパクトを破壊する計画の一つとして、ディミーアの創設者ザデックはゴルガリを支配するためにサヴラという名のデヴカリン・エルフを操った。サヴラはゴルガリを掌握した後、主ザデックの目的を叶えるべく、自らが議事会の合唱者に加わることでセレズニアをも入手しようとした。だが、サヴラは自らの死もザデックの計画に不可欠な部分であることを知らなかった。ザデックの計画はコスの介入により阻まれる。コスが古代の吸血鬼を逮捕したとき、アウグスティンの計画どおり、ザデックにはできないことを達成していたのだった。ギルドパクトは崩壊した。
ラヴニカの他のギルドも混乱に巻き込まれるまで時間はかからなかった。事前に用意されていた構想と計略の範囲に収めることはもはや不可能だったが、それは必然だった。アグルス・コスはオルゾフの貴族テイサ・カルロフ達の支援を受けて幾つもの計略を食い止め、ギルド魔道士、エレメンタル、力に飢えたスピリットの王、ドラゴン、そして都市をも押し潰すネフィリムといったあらゆるものに遭遇した。
その一方、シミックのギルドマスターであるモミール・ヴィグは、ゴルガリの創設者であり神にも等しいゾンビのスヴォグサーと共にラヴニカを征服する計画を準備していた。ヴィグの創造物、クラージ実験体はデーモンのギルドマスター、ラクドスとの壮大なる戦いへと解き放たれた。砂塵が収まった時、クラージ、モミール・ヴィグ、スヴォクサーは全員滅ぼされており、昏倒したラクドスはリックス・マーディの溶岩孔へと再び運ばれていった。
《穢すものラクドス》 アート:Zoltan Boros & Gabor Szikszai
アギレム――ラヴニカ次元に生じた「水疱」――の領域内で、死者の霊達がザデックの統率の下に集結していた。ディミーアの創設者である吸血鬼ザデックはアギレムへと逃れており、力を回復するとともに集めていた。だがそこでも彼はボロスの追跡を受けていた。ボロスのギルドマスターにして創設者のラジアは空戦艇パルヘリオンに搭乗すると、ザデックとその幽霊軍と戦うべく裂口と呼ばれる空の裂け目を通ってアギレムへと飛んだ。そして起こった戦いの中、ラジアは無数のボロスの天使たちと共に殺害された。無人となったパルヘリオンは裂口から姿を現すと、アゾリウスの庁舎へと真っ直ぐ落ちていった。
これらの全てが起こっている間に、アグルス・コスは死ぬ羽目となった。だがアゾリウスとの契約によって彼の仕事は死者の領域で続くことになった。多くの華々しい成果の中、彼は霊を捕獲する為の特別製の装置、「ゴロ」(訳注:ボロス軍ウォジェク連盟の警官が捜査の際に使用する携行品の一つ)を使ってザデックを逮捕することに成功した。最早物理的な肉体を持っていなかったザデックは、こうしてアグルスに捕らえられた。
《秘密の王、ザデック》 アート:Donato Giancola
パルヘリオンがアゾリウスの庁舎へと衝突した後、全ての断片が一つに組み合わさった。瓦礫の中、アゾリウスのギルドマスター、アウグスティン四世はついにコスとテイサ、そして彼らの仲間達と対峙した。アウグスティンの話の後、コスは捕らえていたザデックの霊を彼へと向けて解放した。ザデックに魂を貪られ、アウグスティンは死んだ。墜落したパルヘリオンの残骸は爆発し、アゾリウスギルドの庁舎プラーフは修繕不可能なまでに破壊された。
全て終わった後、アグルス・コスはアギレム――ラヴニカの幽霊街――の番人となり、フェザーという名で知られる天使がラジアの死後にボロスのギルドマスターの地位を引き継いだ。オルゾフの法術士テイサ・カルロフは新たな脆い均衡に至ることを見込みながらも、魔法によらない新ギルドパクトを作成した。
《ボロスの大天使、ラジア》 アート:Donato Giancola
十のギルド、ディセンション後のそれから
ラヴニカのギルド/ギルド庁舎・本拠地 | ディセンション終了時に何が起こったか |
アゾリウス | ギルドマスターのアウグスティン四世大判事はザデックの霊に攻撃されている間に起こった爆発によって殺害された。アゾリウスの庁舎はパルヘリオンの衝突とエンジンの暴走による爆発によって破壊された。アゾリウスギルドは混乱状態に陥っている。 |
ディミーア | ギルド創設者、吸血鬼ザデックはアギレムへ追放された。それは裂口と呼ばれる塞がりつつある裂け目に引っかかり、ラヴニカ上空に魔法的に浮かんでいる。本拠地全体がアグルス・コスの監視下に置かれた。ディミーアギルドは滅ぼされたと考えられており、テイサが立案した新たなギルド協定からは排斥された。 |
ラクドス | ラクドスが溶岩孔で眠りについている間、ギルドマスター代理である血の魔女リゾルダはドラゴンの髄液とジャラド(現在のゴルガリのギルドマスター)の息子の血を入手し、それらを用いてデーモンを目覚めさせる呪文を唱えた。ラクドスは目覚め、立ち塞がる全てを打ち壊しながらラヴニカの街路へと突き進み、クラージ実験体との戦いへと飛び込んだ。クラージとの戦いの後、昏倒したラクドスの身体はリックス・マーディの溶岩孔へと戻された。ラクドスがクラージによって倒されると、リゾルダも倒れ伏し、彼女はラクドスのギルド員達によってその場で貪り食われた。 |
グルール | 腹音鳴らしが今もグルール一族を統べており、彼はギルドパクトが破壊された知らせを聞いて喜ばしく思っている。更なる自由は更なる成長を意味する。 |
セレズニア | マット・セレズニアは危うくザデックに殺害されるところだったが、彼女が完全に吸収され尽くす前にアグルス・コスと彼の仲間達が吸血鬼ギルドマスターを食い止めた。セレズニア議事会は揺らいだが、ギルドマスターが回復し、ドライアドの新たな集団によって再編成されたために滅びることはなかった。 |
オルゾフ | オブゼダート(幽霊議員)はオルゾフの階級構造の頂点であり続けているが、オルゾフの法術士テイサ・カルロフは公然と幽霊議員に反抗し、彼らへの忠誠の誓いを破った。二者の関係は危うく不穏なものとなっている。 |
ゴルガリ | モミール・ヴィグが彼の傑作であるクラージ実験体を制御する前にアグルス・コスがシミックのギルドマスターを殺害し、クラージは暴れ狂った。荒れ狂うクラージによってノヴィジェンが破壊された時、魔法によって一つの体に繋がれていたゴルガリのギルドマスター、サヴラとギルド創設者スヴォクサーは共に殺害された。 サヴラの弟ジャラドは血の魔女リゾルダに殺害されたが、リッチとなって蘇りゴルガリのギルドマスターとなった。 |
シミック | ノヴィジェン及びクラージが破壊される前にモミール・ヴィグはアグルス・コスに殺害された。シミックのギルドマスターの死亡と本拠地の大規模な破壊という大惨事が一度に起こり、ギルドとしてのシミックはほとんど滅んでしまった。 |
イゼット | ニヴ=ミゼットはネフィリムとの戦いで傷つき、恐らくは回復するためにラヴニカの何処かへと撤退した。 |
ボロス | ボロスのギルドマスターであるラジアは、天使達とアギレムの幽霊との戦争の際にザデックによって殺害された。フェザーとして知られる天使がボロスの次のギルドマスターとなった。 |
アギレム | 裂口として知られる裂け目が塞がった時、アギレムと呼ばれるラヴニカ次元の「水疱」は次元全体を覆う層となった。それはアグルス・コスの庇護の下、ラヴニカの幽霊達――ザデックも含む――が住む一地区となった。 |
《Agyrem》 アート:Todd Lockwood
ギルドパクト無きギルド
ギルドパクトが崩壊した後、テイサ・カルロフは魔法に拠らない新たなギルド間協定を作成した。それはラヴニカへと協調と安定をもたらすはずだった。だがこれはむしろ甘い考えだった。富裕な権力の亡者達がラヴニカの支配を掌握し始めるまでに長くはかからなかった。ボロスは最も高額を支払う者達――大抵はオルゾフの一門で、中にはオブゼダートの許可無く仕事をしている者もいた――の用心棒や守衛程度までに落ちぶれた。グルールは増大する混乱を歓迎し、ギルドパクトという魔法の枷を失ったことから弱者を餌食とし、文明化された縄張りの深くまで猛威を振るい、社会の富を略奪した。ラヴニカ人全般がギルドに不信を抱き始めるにつれ、セレズニアのように改宗者によって仲間を増やすギルドは衰退した。イゼットは指導者の不在により解散したと思われた。
だが、一万年続いた慣習は破壊され難かった。時間はかかったが、人々のギルドへの不信は薄れていき、彼らはゆっくりと元に戻っていった。
古えよりのギルドの権威が真に消滅することは決してなかった。それは再び結集し始め、ギルドの勢力を完全に取り戻そうと新たなギルドマスター達が台頭した。リックス・マーディの地獄の孔は轟き、ラクドスはデーモンの王を待つ者達の本拠地へと疾風の如く駆け戻った。不可思議な陥没孔、マーフォークのゾノットが発見され、ラヴニカにおいて自然なままの場所の保護者という新たな独自性を持った新生シミックギルドが台頭した。天使オレリアは、犯罪はボロスの鉄拳によって何よりも確実に罰せられるであろうと誓言し、ボロスは彼女の強力なリーダーシップの下に隊列を組み始めた、アゾリウスは法による統治を回復し、他のギルドを調停し続けることを求められた。そしてイスペリアは法令遵守を強制するアゾリウスの魔法によって法を施行させる法魔道士隊を設立した。オルゾフはラヴニカ市民の冷笑的な疑念に対し、新たな方針で取り組んだ――信仰を育むよう飾り立てられた大聖堂を修復し、彼らの建物を豪華な芸術品と儀式で満たした。セレズニアはギルドパクト破壊が妥当だったと正当化するための平和的努力に従事した。それはオルゾフからヒントを得たのかもしれない。彼らは堅固な建築物の中に美を創造することを選んだ。ラヴニカの全ての者達へと自然の驚異を啓蒙し、黙想させるための場所を――願わくばマット・セレズニアの祝福とともに。これら全てが進行する中、ディミーアは、ギルドが互いに監視し続け、競争相手全ての動向を知ろうとする継続的な需要によって財政的に後押しされ、完全なギルドとして静かにそして整然と再結集した。
アート:Chippy
十のギルドは今――ラヴニカへの回帰
ラヴニカへの回帰での多くの追加情報をここに要約する。ラヴニカへの回帰におけるあと4つのギルドの、とても味わい深い全容については「プレインズウォーカーのためのラヴニカへの回帰案内」その2とその3で明かされるだろう。チャンネルはそのまま。
ラヴニカのギルド/ギルド庁舎・本拠地 | ディセンション終了後に何が起こったか |
アゾリウス | スフィンクスのイスペリアがアゾリウス評議会の現ギルドマスターとなっている。 新たな目的意識とともに瓦礫から立ち上がり、アゾリウスギルドはその新ギルドマスターの統率の下に新プラーフを建造した。イスペリアの崇高なる目的はギルドの特権と法を再構築するだけでなく、新アゾリウスこそが都市へと平和と安定をもたらすのだとラヴニカ市民に向けて示すことにある。 |
ディミーア | シェイプシフターのラザーヴが今やディミーア家の現ギルドマスターとなっている。 ディミーア家の散り散りになった小片から謎めいたギルドマスター、ラザーヴが出現した。彼の知性と野心は新たなディミーアの情報網を築き上げた。ラザーヴは正気ではなく、見えざる存在から洞察を得ていると主張している、そういった噂も流れている。ディミーアは再び情報収集の役割を得て、敵についての秘密を破ることで、そして最も高額の入札者へと情報を提供することで九つのギルドを支えている。 |
ラクドス | デーモン・ラクドスが今もラクドス教団を統べている。 デーモン・ラクドスはリックス・マーディにある自身の地獄穴の中で治癒を終え、ラクドス教団の支配者の地位を主張している。ラクドスはラヴニカ人の中でもゆがんだ、そして好奇心旺盛な者達を、大暴れを表現する新たな方法として彼らが発案した気晴らしのナイトクラブへと誘い込んでいる。 |
グルール | サイクロプスの腹音鳴らしが今もグルール一族を統べている。 ギルドパクトという魔法的拘束から解き放たれ、腹音鳴らしは彼のグルールの支配権を奪おうとするあらゆる試みを叩き潰しながら、文明世界の奥深くあらゆる場所までも破壊し略奪し、彼のギルドをより獰猛に導いている。イゼット団によるウトヴァラ地域の所有権主張は二つのギルド間に縄張り争いをもたらした。いくつかの新たなグルールの一門の指導者達がその戦闘技術によって最前線に立っている――すなわちゴーア族の双頭の指導者、ルリック・サールである。 |
セレズニア | 三位一体のドライアド、トロスターニが現在のセレズニア議事会を導いている。 ギルドが散り散りになった後、マット・セレズニアは深い眠りにつき、彼女に接触できるほど十分に世界心の奥深くへと入って行ける者は誰もいないように思われた。セレズニアギルドは完全に消滅するかに思われた。トロスターニはセレズニアの創設者との繋がりを修復し、彼女の意志への深い理解を発揮するようになった。トロスターニを通じてセレズニア議事会は再び設立され、セレズニア文化と建築の再興が進み、ギルドは消滅の瀬戸際から立ち直った。 |
オルゾフ | 幽霊議員がオルゾフ組を今も導いているが、オブゼダートの背後で真の力を持つのはテイサ・カルロフであると言う者も存在する。 署名されてそう時が経たぬうちに、テイサの契約はあまりに弱いことが証明され、各ギルドは崩壊した。この結果、各ギルドは可能な限り自身で新たな好機を探し求めた。オルゾフは暴力と詐欺から芸術の後援と利己的な慈善活動まで、彼らの最善を尽くし続けた。 イゼットが再建を始め新たな研究施設のために広大な地域を探す時になって初めて、テイサはオブゼダートの強力なシンボルを使用し、オルゾフへと再結成を呼び掛け始めた。遥か昔に制定されたその古の土地の権利はオルゾフが所有すると合法的に主張するために、そしてニヴ=ミゼットの拡大計画から利益を得るために。 |
ゴルガリ | 死者の王ジャラドがゴルガリ団の現ギルドマスターである。 ギルドの分解の後も、ゴルガリは彼らのままでありそれ以上でもそれ以下でもなかった。一万年の間、彼らはラヴニカ都市を動かす不快だが不可欠な部分を保つ、物言わぬ機構であった。そして地下都市のじめじめしたトンネルを除いて他のどんな生き方も知らなかった。 ジャラドは怪物達の反乱や異議といったあらゆる不平不満や反対意見を無慈悲に鎮め、彼の権力を維持している。彼は地表世界がギルドの組織と支えなくして苦しんでいるのを知りながら好機を待った。通常業務に戻るのはただ時間の問題だった。 |
シミック | 言論者ゼガーナがシミック連合の現ギルドマスターとなっている。 クラージ事件の余波で、シミックは完全に瓦解した。しばらくの間ギルドの後継者はいなかったが、一連の巨大な陥没穴がラヴニカ都市の辺境に開き始めた。その下には多層からなる都市に長い間覆われていた古の海があった。マーフォーク種族がそこに生きており、彼らは隠れながらも地表の住人達のことを知っていた。ひとたび地表人達の前に姿を現すと、彼らはシミックギルドに居場所を見つけた。 |
イゼット | ドラゴンのニヴ=ミゼットがイゼット団のギルドマスターであり続けている。 ネフィリムとの戦いの後、ニヴ=ミゼットは長い間姿を見せなかった。この新発見の自由を行使することはイゼットのためになるかもしれないと、かつてのギルド魔道士達は思案した。だがギルドマスターからの命令を失ったことから、イゼット団は散開し無秩序となった。 ラヴニカ住人のほとんどは、ニヴ=ミゼットの失踪をイゼットギルドの終焉とみなした。だが建造されつつある巨大なイゼットの工場と、螺旋形マナ管が夜通し機械音を立てる奇妙な倉庫が出現するに至って、ラヴニカ住人達は彼らの推定を撤回し始めた。古より生きるそのドラゴン、ギルド創設者は彼のギルドを統べるためにそこにいる必要はなかった。不在の間、彼は火想の力を使用してギルド魔道士達へと接触していた。イゼット団が動き続けるための、複雑な配列をなす新たな神秘的計画とともに。 |
ボロス | 天使オレリアがボロス軍の現ギルドマスターとなっている。 フェザーが一時的にボロスのギルドマスターとなっていたが、彼女はギルドの統率を得た指導者オレリアに戦いで破れ失脚した。 オレリアは、不名誉な天使は権威や尊敬を占有することはできないと主張し、フェザーの支配権に挑戦した。多くの者が同意し、そうでなかった僅かな者達も速やかに面目を潰され沈黙した。今や彼女の地位は安泰となり、オレリアは創設者ラジアと同等の尊敬と畏怖を得た。ラジアはある種の看板であり、超然として人を寄せつけなかったが、オレリアは活発で精力的な指導者として軍勢と直接関わりを持っている。 |
アギレム | ラヴニカ次元におけるアギレムの被覆は、大修復まで残った。大修復はアギレムをラヴニカとは別個の、離れた存在――一種の「変次元」にしていた。 アギレムについてわかっている事はほとんどない。それが多元宇宙の何処にあるのかは謎である。 |
アート:Raymond Swanland
ギルド無所属民の生活
ラヴニカは広大で、小説やカードで見られた一片は全次元のごく一部でしかない。ギルドの存在がさほど強く感じられない地域が存在する。それはラヴニカの「田舎」地域と言ってもいいかもしれない――もちろん、ラヴニカの「田舎」はこの次元ではまた別の都市を意味する。ギルドが解散した時も、ラヴニカのいくつかの地区では何の変化も感じられず、その住人達の生活は通常通りのままだった。弱みを見せたならいつでも組み入れられ、ギルドの構造をその地にもたらすことを待っているような、ギルドの支配の及ばない地域が多少存在する。ラヴニカ内のこういった地域の者達はギルドを、支配を得て富を蓄え、それらに反抗する人々をばらばらにすることだけを追い求めるエリート層とみなしている。ギルドに加入し、古のギルドマスターの信念を支持することは、分離運動ではない――「門なし」とも呼ばれる者達は、自発的に受け入れている。そのためギルドが再建された時は、彼らに対抗して手当たり次第の暴力行動が発生した。ギルドのほとんどは、ラクドスでさえ、公的な事業に深く関わっており、民衆の賛成をより多く得るべく働いている――。
ジェイスと新イゼット団
アート:Noah Bradley
ジェイス・ベレレンは多忙である。
小説「Agents of Artifice」で語られているように、ジェイスは無限連合のラヴニカ支部を屈服させ、その過程でテゼレットの精神と肉体へと大打撃を与えた。そしてジェイスは久遠の闇へと姿を消した。
ラヴニカへと帰還した時、ジェイスはしばしの間多元宇宙を忘れる場所を探し求めた。彼が接触しようとした全てのものは、解明しようとするたびによりもつれた結び目となるのだった。テゼレットとリリアナから、ウギンの目とエルドラージまで、ジェイスはその手に余りすぎるもの達に耐えてきた。そして彼の知るただ一つの故郷のような場所、ラヴニカへと帰ってきた。だがその大都市の数えきれない人々と路地の中に迷ってさえ、ジェイスはまだ不安だった――彼は異邦からの訪問者であり、単純に忘れてしまうには、彼は多元宇宙のあまりにも多くを見てきた。
彼は気晴らしを必要とした――壁の中に閉じ込められた精神を連れ出してくれるような、無意識の深淵から這い登って知られざる過去や未来の恐怖といったもののいくらかを気付かせる精神の蜘蛛を取り払ってくれるような何かを。ラヴニカで、まさに彼はそのような気晴らしを発見した。
彼はギルドを、街路の果てしない迷路を、そしてとりわけ、竜英傑ニヴ=ミゼットについての研究を始めた。新たなイゼットの研究室と仕事場は無秩序なパターンで開かれていたが、ジェイスは知っていた。表面上はでたらめな活動をしているドラゴン指導者のギルド、そこにはいくつかの根本的な法則があるに違いないと。
アート:Todd Lockwood
ディミーアの復活は精神魔術師のもう一つの関心となった。ジェイスは異なる衣服を身につけた無限連合の姿を彼らの中に見た。ディミーアは公的な顔を持つが、彼らは不吉な秘密主義という同じ内部を今も隠している。
ジェイスはこれといった特徴のない地区のこれといった特徴のない区画に店を立ち上げた。彼は自身の肉体の目と精神の目が詮索好きであることを知っており、精神魔術師が存在する意味と、彼の関心事の性質をどうにか見抜こうとしている。この都市次元には何か特別なものがある、そしてジェイスは全くもってそれが何なのか、的確に指摘することはできない。だが古の秘密は、彼の調査がラヴニカの隠された過去と不確かな未来を深く掘り下げるごとに開かれていく。
(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)