これが私の帽子だ。

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 あなたと帽子、帽子とあなた。

 この帽子を一度も見たことがない人もいるかもしれないし、よく知っている人もいるかもしれない。何人かは、この帽子を過去にかぶったこともあるだろう。

 これは私にとって、スーパーマンで言えば彼のマントに当たり、バンジョーで言えばともにいるカズーイであり、キブラー/Kiblerで言えば彼にとっての愛犬シロのような存在なんだ。

 そして今日は、なぜそうなったのかを語りたい。


 話は2012年の12月に遡る。

 私はクリスマスの翌日にヨーロッパへと向かい、そこで父からクリスマス・プレゼントとして、ヨーロッパのファッションセンスを伝授された。私は何年も帽子を着用していなかった――だけどコーディネート的に、洗練されたニューサー・キャップ(訳注:ハンチング帽の一種)が全体に合ったいい雰囲気を出すと思ったんだ。

 この帽子についてはちょっと不思議なところも多い。今では、これをどこで買ったのか覚えていないんだ。ブランド名やモデルから見つけ出そうと試みたものの、いまだにわかっていない。(もし誰か知っている人がいたら、メールで教えてもらえると嬉しい。)しかしこの帽子について、ずっと忘れずにいることがある。これをかぶったときに、父がこう言ってくれたんだ。「おお、こいつはどうだ。ばっちり似合ってるぞ」ってね。

 翌日にはヨーロッパを発った。そう、きっと……この帽子をかぶってね。かぶっていなかっただなんて考えられない。

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 それがすべての始まりだった。

 ……それはすべて2002年の4月から始まった。

 私は当時12歳だったが、ついに折れた。ついに手を出してしまった。ソーシャルの圧力に屈したんだ。

 私はついに……「ネットのデッキ」を試すことにした。

 私はいつも独自の戦略を組み立てていた。独自の戦略で勝つことを誇りに思っていた。しかしこのときは、別の思いがあった。

 私の小さな手は、60枚からなる自分の青緑マッドネス・デッキを扱うので手一杯だった。他の誰かが使っていたデッキを選んだことはこれまでになく、これがこの手段へと踏み込む最初の侵略だった。通常は自分の考えにこだわるのだが――この日ばかりは違った。

 学校でほかの誰かの宿題をただ写すだけのようなもので、ほかの誰かのデッキを使うという考えは嫌な感じがしていた。そうする価値はあったんだろうか?

 フライデー・ナイト・マジックに参加して、初めて4-0という結果を出せたんだ。

 勝利の味は美味だった。私はいつしか、それを味わうことにも慣れていった。

 私は帽子のことを常に機能的なアイテムとして認識していた。シアトルとフェニックスに住んでいた間、帽子は寒さから頭を守ってくれた。しかしこれまでに、帽子のことをファッションの一部として考えたことはなかった。

 帰宅してからの私は、ピーコートを身に着ける時に帽子も着用するようになった。ほかの人たちが見たときに、帽子を含めていい感じに思われるかどうか、気にするようになった。ある時には、帽子の話を皮切りに女性にデートに誘われるということがあり、それ以降はもっと頻繁に帽子をかぶるようになった。そのうちに、試してみたくなった。帽子をかぶっていることが自然であるように見えるには、どうすればいいだろう? これまで、この手のニューサー・キャップを着用することはなかったからね。

 では、不自然でないと思わせるには、どのような状況で帽子を着用すべきだろうか? 答えはすぐに出た。「常に着用する」だ。

 人前でスピーチする場合は? 帽子をかぶる!

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 モデル撮影する時は? 帽子をかぶる!

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 ディズニーランドに遊びに行く日は? 帽子をかぶる!

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 仕事がある? 帽子をかぶる!

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 ハイキングに出かけるって? 帽子をかぶる!

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 ショーのために正装しなきゃならない? 帽子をかぶる!

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 マジックをプレイするなら? もちろん、帽子をかぶる!

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 私はほぼ毎日――誇張ではなく、数百日もの間連続して――同じ帽子をかぶるようになった。そのうちに皆が私のことをこの帽子で認識するようになってきた。2013年のグランプリ・ラスベガスでは、複数のプレイヤーが私を見つけて挨拶してくれたよ――この帽子で気が付いたと言ってね。

 思わぬところから、私についての新しい印象を生み出すこととなった。


 最高のデッキを入手したのならば、誰が独創性を求めるのだろうか?

 ネットのデッキはすごかった。

 ネットデッキへの探訪が始まったことで、私の青緑マッドネス・デッキは、すぐさま知ったデッキを試してみたいという欲望に取って代わられた。構築戦のプロツアーが開催されるたびに、期待しながらトップ8デッキリストを待ち望んだものだ。そのプロを優勝へと導いた新しいカードの組み合わせを、どうにか真似して組み上げるのには興奮したね。それがどんなデッキであってもだ。

 《霊体の地滑り》? やってみよう!

 親和デッキ? ああ、いいね!

 《創造の標》? いいとも!

 グッドスタッフ? どんなやつかな!

 エクステンデッドで《壌土からの生命》? やるぞ!

 時がたつにつれ、私のデッキ構築に対する扱いはますます偏っていく。自分で組んだデッキでどうやって勝つかに腐心するのではなく、最高のデッキから学びつつ勝利することを重視するようになった。フライデー・ナイト・マジックという舞台で、私は強いと言われているプレイヤーすら打ち負かしていった。カジュアルプレイヤーが私に持つ印象はすぐに確立され、対戦相手はただただ倒れ続けていった。

 私の友人、ダン・ハンスン/Dan Hansonの言葉を引用しよう。「君は、単に対戦相手より上手だと思いたいだけかもしれないけど、ここではマッチポイント以外に得られるものはないよ。」

 これらのデッキをより大きな舞台へ持ち込む準備が整った、と私は確信した。プロツアーという目標に挑戦する時だ。

 最高の帽子を入手したのならば、誰が独創性を求めるのだろうか?

 それは、私が服飾店で帽子を手に入れた運命的な祝日から2年以上経っていた。その帽子はいまだ、私の日常的な衣服の一部分として使われていた。

 それは私と一緒に世界中を回った。ニューヨークのにぎやかな通りやアイルランドの広原、ローマのコロッセオやフランスのエッフェル塔、流れの激しい滝から熱帯の火山までも巡ってきた。

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 私が大きな人生の転機を迎えたときも、帽子は常に共にあった。笑顔を取り戻せるかわからないほどに衝撃的だった、破局のときも。二度と落ち込むことは無いのではと思うほどの、新しい親交を得たときも。新しい場所に行った時も、新しい趣味に手を出したときも、どんな時でもだ。

 その帽子はいろんな人の頭に乗った。この帽子をかぶったことがある人は、100人を超えているんじゃないかな。間違ってたらショックだよ。パーティーでは時々、この帽子をただなんとなく手に取ってかぶる人もいる。ダンスに参加している時に、この帽子で写真を取りたいので貸してくれ、と知らないグループに頼まれたこともある。理由はよくわからないけど、そういうこともあった。

 年ごとにテーマを設けて開催する私の誕生パーティー、通称ガヴィンコンでは、地元の絵描きが即興で帽子の絵を描いてくれた。今それはマジックの開発部、ヨニ・スコルニク/Yoni Skolnikのデスクに置かれている。帽子との関係性を示すために着用するガヴィンコン・ボタンというものがあるのだが、その作品の人気ぶりから言って、それがボタン・コレクションにすぐさま加わるのも当然のことだった。

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 そして物語が紡がれ、思い出が積み重なるにつれて、私の帽子は親友のような存在になっていった。強い風に煽られたときは、自分の態勢を整えるよりも先に帽子を押さえるようになった。アイルランドの名所、モハーの断崖に訪れたときは、帽子を下の海に落とさないよう荷物袋に入れ、荷物袋の中身を手で持っていた。ディズニーランドのトワイライトゾーン・タワー・オブ・テラーで一番驚いたのは、フリーフォールによって帽子が頭から浮き上がりそうになったことだ。帽子が永遠に失われるかと思って、焦ったよ。

 これらすべての出来事が、カリブ海での運命の日に繋がるんだ。

 私はスティーブ・ポート/Steve Portが主催する、年間を通してのマジック・クルーズに参加していた。私と友人数人はセント・マーチン島を迂回し、マホ・ビーチを訪れた――飛行機が頭上すれすれを飛ぶ、あのビーチだ。

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 いい感じだった。私は海岸に座って、数百メートル離れたところに飛行機が着陸するのを現実感なく眺めていた。飛行機が離陸するのを見物に集まった群衆を見かけたのも、その時だ。

 着陸する飛行機よりも、離陸する飛行機のほうが少なかった(少なくとも私にはそう思えた)。私たちはフェンスを越え、もっと近くで見ようと歩き始めた。私は自分の携帯電話を取り出して、動画を撮ろうと両手で構えた。みんな、じっとしていた。

 そして……嵐が起こった。

 驚くようなことではないと思うが、飛行機は離陸するときにはエンジンをかける。そして、同じく驚くことでもないが、何にもない状態から一瞬で突風が巻き起こる。さらに、これで驚くに値しないことは3つ目になるが、もちろん、誰もこの明白な2点に気づいていなかった。

 私たちは吹き飛ばされ、あたりを粉塵が舞った。飛行機が離陸する間、誰もが目を瞑った。

 私は帽子で塵を防ごうとした……が、それはすでに吹き飛んでいた。

 最も恐れていたことが起こった。

 私は必死になってあたりを見回した。帽子は周りにはなかった。飛行場にも見当たらず、砂に埋もれたわけでもなく、フェンスにひっかかってもいない。

 それは海の彼方に浮かんでいた。小さい、灰色のブイ。かすかなる希望の光。私はそれを取り戻すために疲れ果ててしまった。

 私は帽子を取り戻した……しかし帽子は完全に駄目になっていた。私が本当に愛した帽子、その水浸しの死体のあらゆる隙間に砂が入り込んでいた。

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 これでこの話は終わりだ。終わったんだ。

 私は嘆きつつ、次のプロツアー予選へと着手した。これでこの話は終わりだ。終わったんだ。

 私はトーナメントに参加しようとしていた。プロツアーに参加したかった。それはとても近い目標だと思っていた――そう、その時までは。

 私はインターネットでデッキを知り、その使い方を学んでいた。それはフライデー・ナイト・マジックで勝てるぐらいに優れたデッキリストではあったが、実際にはプロツアー予選で勝つことができなかった。

 それでは足りなかった。私はプロツアーを目指していたからだ。

 どうすれば勝てるようになるか、長い間考え続けた。それまでネットデッキは私を捕らえて離さなかった! 私はうまくやっていた。デッキ構築に必要な労力を減らし、その分デッキをどうプレイするかについて学ぶ時間を増やすことができた。フライデー・ナイト・マジックの結果はロー・スコアからヒーロー・スコアへと変わった。私はネットデッキが大好きだった。

 一方で、私の周りで最も成功しているプレイヤーたちについても考えてみた。私が憧れていた地元のプレイヤーについてだ。彼らはあらゆるデッキ構築に精通しているようだった。常に新しいデッキを持ち込むわけではなかったが、サイドボード技術やカードの選択肢などから、トーナメントに備えてさまざまな角度から計算し、時間を費やしてデッキに磨きをかけていることは明らかだった。

 そこで、私は決心した。初心に立ち返り、手を付けていなかった要素を試すことにした。デッキ構築だ。

 取り掛かり始めたが、先行きは不安だった。これまでの練習不足がたたり、今あるようなデッキを組むことは難しいと感じた。先は長そうだ。

 そして興味深い展開が起こる。私は、結果を出したデッキの調整版を組み始めたんだ。

 オリジナルのデッキも組んでいた。その上で、ほかの人が使って結果を出したデッキの調整もしてみた。両方行うこと、それが私の求めていた、足りなかった強さの源だったんだ。

 私は突如結果を出した。自分のウルザトロン・デッキに《シミックの空呑み》を採用し、国別選手権の参加資格を得た。

 次に、その後すぐ、エクステンデッドの《突撃の地鳴り》デッキに《燃え立つ願い》のサイドボード技術を組み合わせて、プロツアーの参加資格を得た。

 さらに続けざまのことだ。デッキ調整の達人コンリー・ウッズ/Conley Woodsと共に新しいデッキを調整して、大型トーナメントに持ち込んだ。その日の夜、午後8時になってから、前述のプロツアー参加権利を得たことについて知ったんだけど……その日のトーナメントの結果? 《深淵の迫害者》と《深き刻の忍者》の組み合わせで、プロツアー予選を優勝したんだ。

 私は変わろうと思った。

 今までの状態から脱却したかった。

 私の帽子は壊れてしまった。私という存在にぽっかりと穴が開いたかのようだった。たかが帽子にそこまでの思い入れを持つのは、まったくばかげているかもしれない――しかし、何かが欠けてしまったように感じたんだ。

 それは乳歯を失ったときのようだった。自分に必要だと考えていたものが、突然失われたんだ。

 この先大丈夫だろうか?

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 まあ、もちろん、帽子を失った私に対して対応を変えるような人はいなかった。(「帽子はどうしたの?」と聞かれるようになったことは除いてね。)それでいて、私と付き合いがあった人たちからの反応は大きく変わった。私はいつもと同じだった――単に、私には頭髪があり、帽子がハゲを隠すための巧妙な策略ではなかったということが、突然明らかになっただけさ。

 振り返ってみれば、これらの出来事は良い経験だった。これにより、私は自分の日課を再評価するべし、という教訓を学んだ。この顛末があってから、今日は何曜日だから帽子をかぶろう、と思うだけでなく、常に帽子を着用し続けたりはしなくなった。そして同じ帽子を何年もかぶり続けていたなら、どんな時であっても目新しさは全く得られなくなる、というようなことが古傷として残っている。

 かぶったほうが良い時もあり、悪い時もある。そうやって、着用するべき時を知るんだ。

 そして、もちろん、私はまだ帽子を愛用している――特に、今みたいに寒い時期はね。

 そう、この物語はハッピーエンドさ。時間をかけて砂を丁寧に取り除き、元の形に整えて一か月半もの間しっかりと乾かすことで、私の帽子は最終的に衣服の集中治療室から生還した――元通りにね。

「もし出来なかったら、自分の帽子を食べてやるよ」だなんて慣用句は、二度と軽々しく口にしないと決めた。

 今でも、帽子から砂が落ちてくることがある。これは正に思い出の船だ。私はいつかこの帽子を未来の私の子供たちに見せて、帽子にまつわる物語を聞かせようと思っている。これは多くのものを見ていて、そして何が起こるかを知っているからね。

 今の私は、ペンギンから安全を確保する必要があるかな……

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 ネットデッキが良い時もあり、悪い時もある。そうやって、その過程から学べることを知るんだ。

 私はこの過程で、うまく調整されたデッキのプレイ方法を身に着け、サイドボードの使い方を判断し、各デッキとの対戦について何から何まで学習していった。それは、自分で自己流のデッキを適切に構築するために必要な、すべての技術を私に与えてくれた。それはより良いプレイヤーとして飛躍するためのものだった。

 自分でデッキを構築するプレイヤーが、よそからコピーしてきたデッキを使うプレイヤーをけなすことがある。プロツアーのトップ8に入ったデッキをすぐに試すプレイヤーが、結果を残していないデッキを使うプレイヤーを笑うことがある。しかしどちらのやり方も有効な手法であり、どちらかを批判するのも馬鹿馬鹿しい話だ。どちらの手法とも成功している。どちらも劣っていない。その手法をどう使うか――そしてそこから何を学ぶかがすべてだ。

 私は、まずそのフォーマットに存在するデッキを触ってみることを常にお勧めする。例えば今のスタンダードなら、白青フラッシュや黒緑昂揚などを試してみよう。そこから学ぶんだ。何がそのデッキを機能させているのかを理解しよう。

 そこから何らかの知見を得たら、それを使いこなす最善の方法をより正確に判断できるようになるだろう。

 このトピカル・ジュースを楽しんでもらえたなら嬉しいよ! みんなの投票で、「私の帽子」と「オリジナルデッキ対コピーデッキ」の項目が選ばれた――私がどんな記事を書こうと思ったかは、見てきたとおりだ。

 何か思いついたことがあるかな? ぜひとも聞かせてほしい! Twitterでつぶやいたり、Tumblrで訪ねてくれ。いつでも拝見するよ。

 いい年末を。皆も「帽子をプレゼントされること」があるかもしれない――それがあなたにとって、どんな形の出会いとなるかはわからないけどね。

 また会おう!

Gavin / @GavinVerhey / GavInsight / beyondbasicsmagic@gmail.com

(Tr. Yuusuke "kuin" Miwa / TSV testing)