『カラデシュ』製作秘話
カラデシュの中心を成すのは発明精神です。進歩を享受し新しいものを祝す楽観的な世界、たゆみない努力と工夫によってあらゆることが可能となる場所。事実、それらはマジックのゲームプレイそのものと共鳴するテーマです。皆さんは新たなデッキをプレイする度に、もしくは二枚のカードの相互作用を発見する度に、発明のスリルを感じていることでしょう。その発明のスリルはマジックの世界観・物語担当チーム(クリエイティブ・チームと言います)がその心にしっかりと抱いているものでもあり、発想の閃きから一人前の次元が完成するまで、チームの発明工程へと喜んで皆さんを招待する理由のひとつでもあります。ここに、カラデシュが生まれるまでの物語を記します。
ですがまず、皆さんが物語に追い付いていない場合は、以下のリンクから電子書籍で全ての物語をダウンロードすることが可能です(英語)。
チーム
大がかりなプロジェクトには頼もしい頭脳を持つチームが必要です。そのため、マジックで何らかの新たな世界を創造する際にも、多種多様な人々と多くのステップが必要となります。カラデシュを製作するため、ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社の内外から多くの才能ある人物を頼りました。この活動の中心となったのは世界観・物語担当チーム。アートと物語展開の専門家集団です。
我々のチームを率いるのは主席知的財産・世界デザイナーであるジェレミー・ジャーヴィス/Jeremy Jarvis、デザイン・マネージャーのジェンナ・ヘランド/Jenna Hellandとコリン・カワカミ/Colin Kawakami。次にチームにおけるアート専門家であるアート・ディレクターのシンシア・シェパード/Cynthia Sheppard、マーク・ウィンターズ/Mark Winters、ドーン・ムーラン/Dawn Murin、主席コンセプト・アーティストのサム・バーレイ/Sam Burley、グラフィック・デザイナーのリズ・レオ/Liz Leo、コンセプト・アーティストのタイラー・ジェイコブソン/Tyler Jacobsonが並びます(写真左上から右下へ)。
そして最後に、我らが物語専門家ダグ・ベイアー/Doug Beyer(『カラデシュ』ストーリー主導)、ケリー・ディグス/Kelly Digges、マット・ニクル/Matt Knicl、キンバリー・クライネス/Kimberly Kreines、アリ・レヴィッチ/Ari Levitch、メル・リー/Mel Li、ジェイムズ・ワイアット/James Wyatt(写真左上から右下へ)。
世界観・物語担当チームがともに世界創造の長い道のりを歩み始めたのは2012年、『マジック・オリジン』にてチャンドラの故郷の次元の姿を探る所からでした。それから数年をかけて、この合同チームはコンセプト・アーティスト、ライター、顧問を追加しながらカラデシュ次元の風景、発明、住人を生み出しました。やるべきことは多く、ですがいかにしてそこにたどり着くかという計画はありました。
次元を創造する
チームを集めたら、次は動き出す時です。通常、マジックの各世界は実際の発売よりも何年も前に始まります。シンプルな見出しに過ぎないものから始まり(例:「ゴシックホラー×コズミックホラー」)、R&D内の多種多様なチームによって検討され、より大きな物語構成とゲームプレイ構造の中、正しい場所に置かれます。その次に「デザイン探究」という段階に移り、ここではセットのカードとメカニズムを作るデザインチームと協力します。
デザイン探究
この段階はひとつの見出しから始まります――世界の核となるコンセプトです。核となるコンセプトから始まり、一貫した原理原則とアイデアを探究します。この段階の目的は、デザインチームが実際の仕事を行うための発想を提供し、そのブロックのカードのために提供されたデザインをどのようにしてルールやメカニズムとして表現するかという大まかな構想を試すことです。
カラデシュの場合、最初の見出しは「楽天的スチームパンク」でした。この時点で、デザインチームはアーティファクトを通して「発明」というテーマを表現したがっていると我々は知っていました。そして彼らが最初に提示してくれた主要メカニズムは「エネルギー」でした。私達を虜にした最初の発想のひとつは、明るく眩しい色彩を用いること、インド文化から発想を得るというものでした。そこから生まれたカラーパレットを、その世界の美を、そしてマジックでまだ訪れたことのない場所を探索する機会を、我々は気に入りました。
次に我々は「スチームパンク」というテーマについて検討しました。スチームパンクは限界へと突き進むことに熱意を抱く、新しくも創造的な発明品と人々をしばしば扱います。同様に我々はこの世界の人々は、希望をもって未来を見つめる非凡な発明家であれと求めました。
最初に行ったことのひとつは、装置の外見に関する幾つかの視覚的探究です。この新しい世界に合わせて、何か独特で特徴的なものへとモデルチェンジをしたかったのです。コンセプト・アーティストたちはまず装身具から発想を得て、そこから発展させられると気付いたのです。この芸術性を我々のものにして、今創造しているインド的新次元カラデシュに属するものにする。そして上がってきた繊細かつ美しい職人技と、心尽くしの極めて複雑な品々やデザインを我々は気に入りました。それらは完璧に現地の発明家によって作られたアーティファクトであり、ミラディンのように有機物質と融合してはいないものです。代わりにカラデシュのアーティファクト、飛行機械や自動機械、構築物は住人の日常生活の一部に組み込まれているべきなのです。生物的ではなく技術的、です。
ですがスチームパンクというジャンルには煤と埃がつきものであり、我々も産業革命やカラデシュの前に来る筈のイニストラードを想起させるような灰色の憂鬱な世界は求めませんでした。そうではなく、世界そのものに結びついたクリーンエネルギーと芸術によって生まれた発明品を欲したのです。世界が綺麗で輝いたままでいられるようなエネルギーの形を見つける必要がありました。そして霊気を選んだのです。霊気は魔法的エネルギーとされるものと同一の材料であり、各次元の空隙に存在します。ですがここカラデシュにおいては、次元環境の至る所に凝集し豊富にあるのです。産業革命の煤や埃とは異なって、それに近づこうと山腹に身体を曲げる木々から渦巻き模様を模倣する生物に至るまで、霊気は自然世界に吹き込まれ、活力をもたらす資源なのです。
執筆準備
デザイン探究が終わると、次はそれらコンセプトの骨組みに肉付けをしていきます。やがて、アーティストや外部ライターに渡される世界観資料集となるものです。これはセットのテーマ、その世界に存在するであろうクリーチャー・タイプと種族、もしくは勢力を決定する段階にあたります。この段階の主目的は、どのようなクリーチャーが存在するのか、目にする場所はどのような風景か、霊気そのものについての歴史と使用法を決定することです。とはいえこの時点では多くの視覚的資料は無いため、執筆準備においては存在しそうなもの、しなさそうなものを提案して次の段階で加わるであろうコンセプト・アーティストらへと明確なガイダンスを与えられるようにします(「コンセプト進行」です)。
カラデシュでは、独特のアプローチをとりました――「発明家の世界」と「霊気」の構想を取り入れる所から始め、これが5段階の「発明のサイクル」としてどのようにマジックの5色の中に存在しうるかを考えました。それは「発想」から始まり、「革新」、「建造」、「解放」、「回収」、そして再び最初から始まるものです。ここからひとつのテーマと各色に関連する種族が生まれました。
「発想する者、エルフ」(主に緑)
周囲の世界と繋がり、霊気そのものやそれが自然世界へ及ぼす影響と深く同調する。
「革新する者、ヴィダルケン」(主に青)
深く理論的な作業に携わる。彼らは几帳面であり、細部にこだわり、反復と改良を喜ぶ。
「建造する者、ドワーフ」(主に白)
カラデシュの手であり筋肉である。我々はそれまでに見て来た山住まいの赤いクリーチャーとは異なる、熱くなるような形でドワーフをマジックに戻す時を長いこと待っていた。彼らは道具を持ち運び、常にその仕事に相応しい道具は何かをわかっている。
「解放する者、グレムリン」(主に赤)
アライグマ大の生物であり、飽くことなく霊気へと飢えている。この生物は発明品を動かすエネルギーを喜んで摂取することに大いに満足しているが、他のカラデシュ人自身は彼らとの共存を常に喜ぶわけではない。
「回収する者、霊基体」(主に黒)
全く新しいエレメンタル種族、霊気精製の過程で生まれる副産物である。霊気精製プロセスはカラデシュの都市に直接関係するものであることから、霊基体は都市生活の喜びを満喫する典型的な都会人であり、その儚い生涯のあらゆる瞬間を味わう。
コンセプト進行
執筆準備が完了すると、アート・ディレクターらはコンセプト・アーティストらを連れてきてそのアイデアを次元の視覚的様相へと翻訳させます。数週間に渡って、コンセプト・アーティストたちは何百ものイメージを生み出しては研鑽し、世界をあらゆる角度からその見た目と雰囲気を探究します。
コンセプト進行期間中のアートレビュー
カラデシュはコンセプト・アーティストのオールスターチームを集合させました。サム・バーレイ/Sam Burley、スティーヴン・ベレディン/Steven Belledin、クリス・ラン/Chris Rahn、シンシア・シェパード/Cynthia Sheppard、ダーケン/Daarken、タイラー・ジェイコブソン/Tyler Jacobson、キーラン・ヤナー/Kieran Yanner。彼らの奮闘によってこの次元の一貫した見た目と雰囲気を創造するクリーチャー、装置、衣装、武器、建築の最初のイメージが生み出されました。議論と精錬を数度経て、これらは次の段階、ワールドガイドにて使用される視覚的資料となるのです。
協議
現存する文化から発想を用いる場合は、例えばテーロスのように遠い過去の神話に基づく文明の時とは異なる手法を取ることを我々は決めています。追加して、デザインチームが提出したアーティファクト中心のテーマは、過去からの発想に基づくよりも更に未来的なスチームパンクの雰囲気を我々にくれました。
尊敬と気配りをもった文化的引用を扱う我々の力になってもらうべく、ウィザーズ社のインド系職員から助力を取り付けました。ジシ・コッタクジール/Jisi Kottakuzhiyil、サンディープ・ケドラヤ/Sandeep Kedlaya、ナラヤナン・ラグナッサン/Narayanan Raghunathan、サティッシュ・ラマムース/Sathish Ramamurthy、バーシャ・モイディーン/Basha Mohideen、トリナッド・ネマニアット/Trinadh Nemaniat。開発の複数段階において彼らの助言を得ながら、カラデシュにインドの要素を反映させようと我々は世界の姿を研ぎ澄ませました――基本土地の《平地》に広がる風景の見た目、次元の種族の姿、名前の音素に至るまで。彼らはコンセプト進行の期間中ずっと、カードセットに使用されるアートを検討することで進行を監督しました。心躍るものはどれか、避けるべき点は何かを教えてくれました。《鎧作りの審判者》が騎乗するサイの模様を、北と西インドの要素の面白い混合だと彼らが感じるものになるべく教えてくれました。そしてサフラン色の外套や緑色のドーム型建築物といった、宗教的な意味を強く含む色と形状の使用について警告してくれました。
これらの現実世界の引用と一緒に、インド的な人々、衣装、言語の形、色彩のパターンといった様相を見せることで、この新たな舞台というファンタジー世界に、デザインチームがセットのメカニズムとして構想したエネルギーとアーティファクトを持ち込もうとしました。これは、プレイヤーにとっては我々のゲームの中に自分自身を見る機会であり、我々にとっては彼らを新鮮でエキサイティングなファンタジー世界へ連れて行く機会だとわかりました。
ワールドガイド
執筆準備とコンセプト進行から絵が上がってくると、世界の詳細を創造するために深く潜るための十分な材料が揃ったことになります――その文化とキャラクターから風景やランドマークまで。カラデシュにおいては、ギラプールという都市がその住人を獲得した瞬間にあたります。鮮やかな緑輪地区、ボーマットの港湾地区、芸術的な速接会地区。そして大胆な操縦士のデパラ、狡猾なゴンティ、独創的な霊気科学者ラシュミ、そして名高い技術者サヒーリといったキャラクター。
こういった全ての素材が編集され、互いにかみ合って補完し合うアートやテキストとともに、ひとつの文書としてまとめられます。それがワールドガイドです。皆さんはこの記事でワールドガイドからいくつかの作品を、そして来たる製品「The Art of Magic: The Gathering - Kaladesh」においてさらに多くを目にすることができます。完成したワールドガイドはアーティスト、ライター、デザイナー等、このブロックのカードを作り出すべくそれぞれの仕事を行う全員に、アートと物語の参照として渡されます。
ワールドガイドの製作に加えて、ここは物語の核となる事件を決める段階でもあります。皆さんは気付いているかもしれませんが、このセットには最も重要な出来事のいくつかを表現した「注目のストーリー」があり、カードに表記されるとともに『マジック・デュエルズ』の1人用キャンペーンにもなっています。現在の「注目のストーリー」とそれに伴って進む物語は全て、『カラデシュ』の物語ページにて読むことが可能です。
『カラデシュ』の新たな「注目のストーリー」カード(全5枚)にはプレインズウォーカーのシンボルが透かしで入っています。
委託
ワールドガイドを製作している間に、デザインチームはそのセットの仕事を終えてデベロップ・チームがカードに表記するルールテキストを決定する作業を進めています。この時に、世界観・物語担当チームはアート枠にどのような絵を入れるかを決定します。何よりもその世界を見せてくれるものです。我々はアーティスト向けにアイデアを伝える構想を書きます。この構想の束は個々のアーティストへ渡されるもので(多くはウィザーズ外で活動しています)、彼らの名は各カード左下のアーティスト名に参照することができます。それぞれの構想とワールドガイドを同梱し、アーティストへと発想を与えるとともに他のアーティストとの共同制作を助けたりもします。ひとたびこれらの構想が委ねられたなら、それぞれの作品がスケッチから完成品に至るまで、世界観・物語チームによって監督され、他のアートやカードのメカニズムと確実に一致するようにします。
例を見てみましょう。これはスティーヴン・ベレディン/Steve Belledinの《破砕》のために書かれた構想です。ページ数で示されているのがワールドガイド掲載の該当するコンセプト・アートです。ここではスティーヴの完成品とともに掲載しましょう。
舞台:カラデシュ
色:赤のクリーチャー
場所:カラデシュの都市内のどこか
行動:一体のグレムリン(p.71-73参照)がいる。複雑な、かつては美しかった飛行機械を破壊している。グレムリンの鉤爪は飛行機械の車台を引き裂いており、内部の霊気を食したことで鼻先と腹部が青く輝いている。あるいはそれは我々へ向けて顔を上げているかもしれない、「あ、君も食べたかった?」というふうに。
中心となるもの:そのグレムリン
雰囲気:破壊的、それでいて純真無垢
こちらにはコンセプト・アートから完成品のカードアートに至るまでの、カラデシュの他種族いくつかを挙げます。
アートの構想が各アーティストへと委託されている間にも、我々はカードに記されるフレイバーテキストとカード名を生み出すべく、別のライターチームとともに動き始めています。
カラデシュのフレイバーテキストチームには熟練のベテランが名を連ねました。ベン・アレクサンダー/Ben Alexander、MJ・スコット/MJ Scott、コリー・エルキンス/Corey Elkins、ジェイムス・ピアンカ/James Pianka、ジョシュ・フランケル/Josh Frankel、ベン・プラゼック/Ben Placzek。そしてウィザーズ内部からマーク・プライス/Mark Price、ティム・アーテン/Tim Aten、アリソン・ルース/Alison Luhrs、マイケル・イーチャオ/Michael Yichao。彼らのフレイバーテキストと常駐の物語チームが生み出したそれをともに、我々はカードアートとルールテキストを一つに結び付けるのです。くっきりとしたイメージを持つ、フレイバーに満ちて、記憶に残るものを、ほんのわずかの力強い言葉によって(Twitterの140文字制限に挫折したことがあるなら、これは平凡な技術では務まらないとわかるでしょう)。
簡潔とは機知の魂である。
そして委託の段階が続いているこの間、セットに必要とされる特定の画像的要素が加わります。エネルギーを示す記号、セットのエキスパンションシンボル、Masterpiece Inventionsや機体のための特別なカード枠、そして新たな「注目のストーリー」カードのためのデザインといった、カラデシュの新メカニズムの理解を助ける画像を我々は求めます。これらは全てウィザーズのグラフィック・デザイナー、リズ・レオ/Liz Leoに委ねられ、長い道のりを経て我々のカードという視覚的言語となります。
エピソードガイドと物語の執筆
ワールドガイドがカラデシュの見た目について確固とした雰囲気を提供するように、我々は「Magic Story」のためにエピソードガイドを作成します。これはワールドガイドが書かれている間に始まり、ストーリーの強調部分が描き出され、最終的にはカードセットの完成近くにできあがります――とはいえそれでも、物語の第一回が執筆されて提出されるよりも何か月も前です。ここはキャラクターの造形、プロットの進行、そしてPAXやプレリリースといったイベントとの兼ね合いを確認する段階でもあります。
『カラデシュ』の物語には「注目のストーリー」で示されるような重要な場面がありますが、《安堵の再会》に描かれるような少々軽めの、ですがキャラクターにとって重要な瞬間もあります。
その最終的な形として、エピソードガイドはマジックの小説を執筆する者達のために毎週の物語を計画します――言葉鍛冶のニック・ダヴィッドソン/Nik Davidson、クリス・レトアール/Chris L'Etoile、アリソン・ルース/Alison Luhrs、ケン・トループ/Ken Troop、マイケル・イーチャオ/Michael Yichaoら、世界観・物語チームの執筆専門家集団です。そのブロックを通して各執筆者がエピソードガイドから物語を担当し、他のメンバーがその作品を検討して物語間の連続性を調整し、それはブロックの物語が終わるわずか数週間前まで続きます。
ふう。以上です――世界観・物語チームとデザインチームの話し合いから始まり、画像とテキストがカードになって皆さんに届くまで、カラデシュ次元を創造する数年がかりの仕事です。これは執筆者、アーティスト、ゲームデザイナー、そして霊気動力の発明家の脳、ウィザーズ社内外の全員の愛に溢れた骨折り仕事です。そしてこの創造に至る青写真のいくらかを共有できることを嬉しく思います。
(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)