2025年11月10日 禁止制限告知
スタンダード
《迷える黒魔道士、ビビ》 禁止
《叫ぶ宿敵》 禁止
《プロフトの映像記憶》 禁止
パイオニア
《心火の英雄》 禁止
モダン
変更なし
レガシー
《納墓》 禁止
《有翼の叡智、ナドゥ》 禁止
ヴィンテージ
変更なし
パウパー
《満潮》 禁止
アルケミー
変更なし
ヒストリック
《否定の力》 事前禁止
《大あわての捜索》 事前禁止
《神秘の教示者》 事前禁止
《納墓》 事前禁止
《暗黒の深部》 事前禁止
タイムレス
変更なし
ブロール
《露天鉱床》 禁止
《マナ吸収》 禁止
《金属モックス》 禁止
《古えの墳墓》 禁止
発効日:2025年11月10日
次回告知予定日:2026年2月9日
制限カード、禁止カードのフォーマット別一覧はこちら。
ゲーマーの皆さん、こんにちは!
私はカルメン・クロンペアレンズ/Carmen Klomparens、マジックのプレイ・デザイン・チームに所属する上席ゲーム・デザイナーです。今回が2025年最後の禁止制限告知となります。今年の夏の告知では、スタンダードにおいて複数のカードを禁止しました。それから時間が経った現在、いくつかのフォーマットにおいて追加の措置が必要とされる状況になっています。そのため本日は、私カルメン・クロンペアレンズとジェイディーン・クロンペアレンズ/Jadine Klomparens、エリック・エンゲルハルト/Eric Engelhard、ガヴィン・ヴァーヘイ/Gavin Verhey、ダニエル・スー/Daniel Xuより、テーブルトップとデジタルのさまざまなフォーマットにおける変更をお伝えします。先日お伝えした通り、私たちは告知の頻度を増やし必要に応じてフォーマットを調整できるような方向で計画を進めています。詳細につきましては、年内にお伝えする予定です。それではマイクをジェイディーン・クロンペアレンズに譲り、スタンダードの変更について話していただきましょう。
次回の禁止制限告知は、2026年2月9日を予定しています。なお今回の変更については、太平洋時間11月11日10時(日本時間27時)よりtwitch.tv/magicでの公式配信(英語)でも詳しくお伝えします。
スタンダード
(この項はジェイディーン・クロンペアレンズよりお送りします。)
《迷える黒魔道士、ビビ》 禁止
《叫ぶ宿敵》 禁止
《プロフトの映像記憶》 禁止
スタンダードはここ数か月、芳しくない状況が続いています。「イゼット大釜」が環境最強デッキの地位を完全に固め、勝率/使用率ともに受け入れられない値が持続しています。このデッキは以前「ジェスカイ眼魔」のような強力なデッキで見受けられた《プロフトの映像記憶》 を中核に据える構築を継承し、そこへ《迷える黒魔道士、ビビ》と《アガサの魂の大釜》のコンボを組み込むことで新たなパワーレベルへと到達しています。「イゼット大釜」は『久遠の終端』の発売にともなうローテーション後のスタンダードにおいてトーナメント・シーンを支配し、以降に開催されたスタンダードの「マジック・スポットライト」3回すべてで5人以上の使用者をトップ8へ送り込んだのです。
このデッキはフェアゲームに強く、効率的な干渉手段を持ち、そして他のデッキでは追いつけないレベルのコンボを備えています。すべての基盤がしっかりした戦略であり、明確に反撃が通る角度がありません。そのためメタゲームはこのデッキに適応できず、また今後も適応できないでしょう。
スタンダードに革新の余地やデッキの多様性を与えるためには、《迷える黒魔道士、ビビ》と《アガサの魂の大釜》のコンボに手を入れることが必要であるのは明らかです。その2枚が生み出す相互作用は、フォーマット全体を見渡しても他に類を見ない強力さです。私たちは、《迷える黒魔道士、ビビ》の禁止を選択しました。このカードをスタンダードに残すと、将来的にもバランス上の問題を起こす可能性が高いという判断です。《迷える黒魔道士、ビビ》の禁止によって、スタンダードはより楽しく多様性に富んだものになると私たちは信じています。
《プロフトの映像記憶》には、6月に禁止された《豆の木をのぼれ》との明確な類似点があります。それらはどちらも1枚でゲームプランを立てることができ、ゲームを通して大きな力を発揮します。加えて、戦場に出たときにカードを引ける2マナのエンチャントという点も共通しています。これにより対処されてもカード1枚分の得は残り、対処する側が有利になりにくいのです。こういった性質を持つカードが環境最強のデッキに入るのは危険であり、その戦略と戦えるデッキの数を大きく制限してしまいます。
パワーレベルの観点から見ると、《プロフトの映像記憶》はスタンダードで使える強力なエンジンであることを証明しています。「プロツアー『霊気走破』」の「ジェスカイ眼魔」デッキでブレイクを果たした《プロフトの映像記憶》は、以来スタンダードのあらゆるところに潜む1枚となっています。以前はメタゲームに健全なアクセントを加えていた《プロフトの映像記憶》を使うデッキですが、最近《冬夜の物語》や《量子の謎かけ屋》のような戦力が加わり、中核部分の最適化も進んだことで、今後《迷える黒魔道士、ビビ》なしでもベスト・デッキの一角であり続け、一強デッキにもなり得るのではないかという懸念を私たちに抱かせます。スタンダードのメタゲームに新たなデッキや革新的な戦略が登場する余地を持たせるため、《プロフトの映像記憶》は禁止となります。
私たちは今回、「赤単アグロ」デッキに対しても行動を起こすことにしました。赤単は、「イゼット大釜」デッキに食らいついていけるデッキであることを証明しています。「イゼット大釜」による支配を妨げられる存在であることは証明できていないものの、競技イベントにおける使用率と、私たちが持つデータに記録される勝率は、「イゼット大釜」後のスタンダードでは赤単が独走するのではないかという懸念を私たちに抱かせます。アグレッシブなデッキが明確にベスト・デッキであるメタゲームでは遅いデッキの多くが競争力を持てず、得てして多様性が損なわれるものです。そのような結果を避けるため、私たちは《叫ぶ宿敵》の禁止を選びました。
《叫ぶ宿敵》は通常の「赤単アグロ」デッキにおいて最も強力なカードであり、このデッキと対戦して特にフラストレーションを感じるカードの1つです。これ1枚で赤単に対する反撃手段のほとんどが封じられ、ライフゲインや大型ブロッカーという赤単の天敵に対しても優れたゲームプランを立てられます。《叫ぶ宿敵》を取り除くことで、メタゲームにおける赤単の健全なバランスを見出せる可能性がぐっと高まり、倒すべきデッキではなく風景の一部になると私たちは信じています。
赤単には、《叫ぶ宿敵》ではなく《残響の力線》や《精鋭射手団の目立ちたがり》のようなカードを選択してより速さを追求したバージョンもあります。数週間前にボルチモアで行われた「マジック・スポットライト:スパイダーマン」ではまさにそういう形のデッキが優勝しましたが、この戦略は《叫ぶ宿敵》を採用したバージョンの赤単よりも対抗しやすいと私たちは考えています。
教訓と今後
本日のスタンダードにおける3つの禁止措置には、共通する要素があります。それは「反撃」を強調している点です。私たちがスタンダードに望むのは、明確なアイデンティティや強みを持ち、戦略がはっきりしているデッキが競い合うフォーマットであることです。明確で強力なゲームプランを持つデッキの世界で健全なメタゲームを築くには、それらのデッキに対する強烈な反撃手段を用意する必要があります。有効な反撃の手立てがない強力なデッキが存在するフォーマットは、失敗するでしょう。本日の私たちの選択を支えるのがこの理念であり、これは今後のカード・デザインにおいても留意されます。
強力なデッキには適切な反撃手段を用意するという理念は、つまり《叫ぶ宿敵》のようなカードに一層の注意を払う必要があるということです。私たちが《叫ぶ宿敵》に求めた役割は、「赤単アグロ」に逆風が吹くメタゲームでもこのデッキを使いたいというプレイヤーに、そのための戦略と一定の割合で勝てるチャンスをもたらすことでした。《叫ぶ宿敵》はその役割をあまりにうまく果たし、代わりに赤単を攻略したいプレイヤーを否定しました。当時の私たちは、ライフゲインとブロックの脅威から赤単を守るカードをリスクを取って作成し、評価を見誤ればまさに最近のスタンダードで見受けられるような状況になる可能性を環境に生み出しました。すなわち、十分な反撃手段に欠けた強力な赤単デッキの存在です。
新しいカードのパワーレベルを見誤るのは完全には避けられないことではありますが、精度を高める方法はあります。その一例が《迷える黒魔道士、ビビ》でしょう。《アガサの魂の大釜》との相互作用を見落としたことで、カード単体のパワーレベル設定ミスの影響が途方もなく拡大したのです。スタンダードのメタゲームは、カード単体のパワーレベルではなく複数の強力なカードが生み出すシナジーの上限によって定義されることが多くなってきています。これに適応できるよう、デザインの変化が進行中です。私たちにはまだ成長の余地があります。
同様に《プロフトの映像記憶》も、強力な相互作用が増え続けるがために私たちの手から逃れた強力なエンジンの一例です。私たちが《プロフトの映像記憶》のデザインと『カルロフ邸殺人事件』入りのスタンダードのテストを行った当時は、環境に強力なシナジーを生み出すものがほとんどありませんでした。私たちはその選択肢の少なさに気づき、《プロフトの映像記憶》と相性抜群の《蒸気核の学者》を作成し、同セットに収録しました。《プロフトの映像記憶》との強力なシナジーが少なかったため、カード単体のパワーレベルが高くとも安心していました。強さは中程度ながら本当に楽しいデッキだと私たちは考えていたのです。私たちが特に楽しいと感じた部分は、カードを引くこととシナジーする一方で、バリューをすべて引き出すにはタップアウトが求められる点です。あちこちで姿を見かけることはあっても、メタゲームの頂点に立つ可能性は低いと予測していました。
そしてその予測は、当時の環境では当たっていました。《プロフトの映像記憶》がスタンダードの中核を担うようになるには、『ダスクモーン:戦慄の館』の発売にともない《逸失への恐怖》とのパッケージが確立されるまでの7か月を要したのです。新たなカードが登場しパッケージ全体が強くなっていくにつれて、このデッキを相手にする楽しさは損なわれていきました。例えば《逸失への恐怖》の登場により、このデッキは私たちがテストした当時にはなかった一気に大ダメージを与える手段を得ました。これによりデッキはさらに強化され、対戦相手はさらに厳しい戦いを強いられるようになったのです。
《プロフトの映像記憶》はカードを引けるクリーチャーや複数枚のカードを引ける軽量呪文と組み合わせると極めて強力になり得ることを認識した時点で、私たちは将来的にそのようなカードが増える可能性を自身に問いかけるべきでした。このケースで言えば、その答えは「極めて高い」ということになります。今後は、同様の高い水準を持つエンジンを世に出す前に問いかけるつもりです。
スタンダードについてのお話を締めくくるにあたり、私からお伝えしたいことがあります。今年の禁止制限告知の頻度は理想的であったとは言えず、特にここ3か月はスタンダードの競技シーンに苦しい思いをさせていました。私たちは、スタンダードの禁止リスト更新に関する根本的な理念は変えません。スタンダードの更新は予測可能なものであり、スタンダードは安定感を感じられるフォーマットであることが私たちの望みです。根本的な理念は変わりませんが、私たちが今年取った措置は苦痛をもたらすものであり、対処の必要があると認識しています。
この記事のはじめにお伝えした通り、来年は禁止制限告知の頻度を上げる予定です。これにより、メタゲームのバランスが再び大きく崩れたときに素早く対応できる柔軟性を持てるでしょう。スタンダードで行動を起こすハードルは高いままですが、今回のように明確な反撃手段のない飛び抜けた強さのデッキが環境を明確に支配している状況にはしっかりと介入するつもりです。先述の通り、次回の禁止制限告知は2026年2月9日を予定しています。今回の変更については11月11日に公式配信(英語)でもお伝えしますので、そちらもご覧ください。
パイオニア
(この項はカルメン・クロンペアレンズよりお送りします。)
《心火の英雄》 禁止
パイオニアは興味深い状況になっています。外から見る分には、かなりうまくいっているように見えるでしょう!今月開催された「Magic Online Showcase Challenge」では決勝ラウンドに5種類のアーキタイプが並び、有力なデッキは数多くあることが見受けられます。
このフォーマットが抱える(特にMTGアリーナで顕著な)核となる問題は、「赤単アグロ」デッキとそれを標的にするために構築されたデッキが占める割合が大きすぎることです。それもそのはず、「赤単アグロ」の勝率は圧倒的に高く、とりわけBO1に注目すれば2番人気と3番人気のアーキタイプの使用率を合わせてもなお赤単の使用率が上回っているのです。
今回の禁止措置の目標を総じて言うなら、赤単の勝率を下げることです。なかでも《心火の英雄》が環境に与えている「第1ターンに対処できるかどうか」の(あるいは第3ターンに負けてしまうという)プレッシャーを緩和することをターゲットにしました。パイオニアの懐は深いため、「赤単アグロ」は特に苦労なく適応できるはずです。ゲーム序盤のプレッシャーに由来する必然的な展開が減ることで、プレイヤーの皆さんの探検の余地が広がることでしょう。
モダン
(この項はカルメン・クロンペアレンズよりお送りします。)
変更なし
今こそ、モダンをプレイする絶好のチャンスです。「プロツアー『久遠の終端』」やモダンで行われる地域チャンピオンシップなど、ここ数か月は競技の舞台が数多く用意され、イベントごとに大きく異なる風景が見受けられました。
「プロツアー『久遠の終端』」ではトップ8に7種類のデッキが並び、モダンのメタゲームの多様性が示されました。マイケル・デベネデット=プラマー/Michael DeBenedetto-Plummer選手の手に栄冠をもたらしたのは、唯一トップ8へ2人を輩出した「タメシ・ベルチャー」でした。使用率最多の「エスパー御霊」はトップ8に1人を送り込むに留まり、勝率も強力なデッキが見せる数値として好ましいラインにあります。
プロツアーが閉幕した後も、このフォーマットがどこへ向かうのか、環境はどのように適応していくのかという問いが尽きることはありませんでした。幸運にも、モダンは特定のデッキに対する強力な対策カードがあるフォーマットです。その後は「アミュレット・タイタン」や「イゼット親和」が地域チャンピオンシップで活躍を見せ、旧勢力も決して侮れないことを示しました。
「アミュレット・タイタン」は、いくつかのカードが禁止措置を受けながらもメタゲームの最上位層にあり続ける、モダンの歴史を語る上で欠かせないデッキです。最近は《変容する森林》と《事件現場の分析者》を用いて無限に《原始のタイタン》を生み出し、《天上都市、大田原》で大量のパーマネントをバウンスしたり《耐え抜くもの、母聖樹》のループで対戦相手の土地の大半を破壊したりする無限コンボを搭載する形になっています。
その種のコンボ自体は特に問題を引き起こすものではありませんが、「アミュレット・タイタン」のような複雑なデッキが勝率を高め勢力を広げると、トーナメントにおける管理上の問題が生まれるのではないかと意識するようになっています。このデッキの過去や、モダンがこれまで数多くのコンボ・デッキを取り込んできたことから、現時点でこのフォーマットに変更を加えることには消極的です。それでも今後数か月は、「アミュレット・タイタン」が与える影響に注目していきたいと思います。このデッキが競技イベントのラウンド時間に過度な影響を与え続けるようなら、私たちが取るべき行動を模索し始めるかもしれません。
とはいえ、モダンに起きた変化はプロツアーにおけるメタゲーム占有率の入れ替わりだけではありません。
ヒューストンで行われた地域チャンピオンシップでは、「プロツアー『久遠の終端』」王者のマイケル・デベネデット=プラマー選手が「ブリンク」デッキの新たな形を手に参戦し、「どこまでやれるかちょっとわからない」と言いながらも開幕を勝利で飾りました。そして日曜日の午後には、ヴィニー・フィーノ/Vinnie Fino選手が「ジェスカイ・ブリンク」デッキがモダンで通用することを世界に証明したのです。《儚い存在》を《量子の謎かけ屋》や《孤独》と合わせて使う「ブリンク」パッケージに《敏捷なこそ泥、ラガバン》のような優れた脅威を加え、さらにサイドボードに広く搭載される《記憶への放逐》をメインデッキで積極的に使用する「ジェスカイ・ブリンク」には、優秀なカードが満載です。プレイヤーが新たに探検し成功する余地がまだあるモダンを、私たちは前向きに捉えています。現行シーズンの地域チャンピオンシップがモダンで行われているのは素晴らしいことです。
レガシー
(この項はカルメン・クロンペアレンズよりお送りします。)
《納墓》 禁止
《有翼の叡智、ナドゥ》 禁止
今こそ、そのときです。
レガシーを象徴する《納墓》と《再活性》のプレイ・パターンを守るべく多くの時間と労力がかけられてきましたが、いよいよ終止符を打つときが来ました。「ディミーア・リアニメイト」は何年にもわたりレガシーのメタゲームの頂点に君臨し続け、複数回の禁止を経てもなおほとんど揺るぎませんでした。今年はじめの更新で私たちは《納墓》の周りを禁止し、「リアニメイト」デッキを安定した「フェア」なゲームプランか悪用可能ながらインパクトの強い派手なコンボ・プランかを選ぶ形にしようと試みました。前回の禁止制限告知 にて、私たちはこのフォーマットが現行バージョンの「ディミーア・リアニメイト」(と「Oops! All Spells」デッキ)に適応する時間を取ろうと述べました。レガシーに存在するような強力なデッキへの対抗策を見出すのは時間がかかるものですが、「Oops! All Spells」の場合はその後メタゲーム上のシェアを大きく落とし、今年行われた「North American Eternal Weekend Legacy Championship」でも苦戦していました。
一方「ディミーア・リアニメイト」は、大いに目を付けられメタゲーム上のシェアも大きいにも関わらず見事な結果を収めたのです。
《納墓》の禁止は決して安易に決められたものではなく、踏み切った一歩は喜びに満ちたものではありません。《納墓》は数年にわたり、ゲーム・デザインの観点から素晴らしいことを多数成し遂げてきました。デッキのアイデアを生み出し、象徴的な存在となり、ときにレガシーでの使用に耐えるカードの幅を広げたこともありました。しかし残念ながら私たちが今いる世界は、《納墓》のために「リアニメイト」使いたちが《墨溜まりのリバイアサン》や《武勇の場の執政官》、《潮吹きの暴君》を1枚入れておくべきかどうかを判断する世界ではありません。効率的な打ち消し呪文で脅威をバックアップするという伝統的なゲーム展開を成功させられるのは、ひと握りのクリーチャーに限られるのです。
この数年間で「ディミーア・リアニメイト」の細かい部分は変わってきましたが、大枠の部分に変化はありません。デッキ構築における《納墓》の存在は、コンボの手段と目的がシナジーを生むデッキにつきものの「コンボ失敗」の状態に陥ることなく、インパクトの強い脅威を活用することをあまりにも容易にしています。《納墓》はカード1枚で歴代最強クラスのクリーチャーを墓地に置くことができ、コンボ・デッキが抱える問題を回避することに特に長けているのです。
こうして、レガシーは賛否両論、最悪の場合は酷評の声が上がる状況になりました。今回の変更により、通常でない手段でデッキから大型クリーチャーを繰り出すことを狙うデッキと、より伝統的なマジックのゲーム展開を目指すデッキの区分けが進むことを願います。その2つのハイブリッド化が進み、片方への対策が立ちはだかっても簡単にもう片方へ切り替えられるような形は、私たちの望むところではありません。
《目くらまし》やキャントリップ呪文を手に戦うのが好きなプレイヤーの皆さんは、「イゼット・デルバー」や「ディミーア・テンポ」で引き続きお楽しみいただければと思います。
また短期的に見れば、「リアニメイト」デッキの「通常でない手段で大型クリーチャーを繰り出す」側の部分が好きだった方は、細部は以前と異なる形になっても、そのプレイスタイルに合う道をレガシーで見つけられるはずだと私たちは信じています。
「リアニメイト」系のデッキが《納墓》を使用できたときの役割を果たせる新たな構成を見つけ出すには、おそらく時間がかかるでしょう。ですがレガシーには、他にも「実物提示教育」デッキや「自然の秩序」デッキなど、あなたのお気に入りの巨大モンスターを通常より早く繰り出せるデッキはあります。
一方、《有翼の叡智、ナドゥ》の禁止はまったくの予想外だったかもしれません。こちらは《納墓》と比べてもう少しわかりやすい存在です。これまでレーダーを潜るように飛んできましたが、そのパワーレベルは異常値を指しています。昨年の「プロツアー『モダンホライゾン3』」を迎える前のタイミングと同様に、「ナドゥ」デッキは高い勝率を記録しながらもオンライン上にそこまで多く姿を見せていません。オンラインでは管理上の煩雑さがあることもその理由の一部でしょう。少し先走ってしまいましたが、現在レガシーには2種類の「ナドゥ」デッキが存在します。1つは《セファリッドの幻術師》に由来する「セファリッド・ブレックファスト」の名で親しまれるデッキに適応した形です。
これは先ほども話題に挙げた「North American Eternal Weekend Legacy Championship」において、「ナドゥ」デッキの中で最高成績を収めており、私たちがエターナル・フォーマットのコンボ・デッキとして好ましく見ている形に近いものです。《ナルコメーバ》と《戦慄の復活》、《タッサの神託者》の組み合わせを使うため《有翼の叡智、ナドゥ》と相性の良いカードも多く、《セファリッドの幻術師》を何度も対象に取ってコンボが決まればそのまま決着することが多いデッキです。このデッキについては、対抗手段が効果を発揮するポイントが非常にはっきりしています。その干渉しやすさのおかげでパワーレベルは週ごとに上下し、そういうデッキが環境の一部になるのは素敵なことです。しかしその一方で……
ミッドレンジ版の「ナドゥ」デッキは、相手だけコンボをしていると感じられるほど他のデッキの上を行く動きを見せ、しかもその「コンボ」は確定で決まらず、解決までに長い時間を要し、管理が物理的に難しく、またゲームが実質的に決着しているにも関わらず対戦相手を倒すまでに時間がかかります。《コーの遊牧民》は0マナかつインスタント・タイミングで対象に取れるため、対戦相手のアップキープ中に起動を繰り返すことで《有翼の叡智、ナドゥ》の「毎ターン2回」の制限を擬似的に4回に増やすことができます。そこに《忍耐》や《大鎌猫の仔》も絡み、たとえ追加ターンを除いたとしてもゲームは長期化するのです。
さらに、このデッキは他のコンボ・デッキと比較して伝統的なコンボ対策への耐性が圧倒的に高いことも挙げられます。クリーチャーの群れで構成されているため、「コンボ」への反撃を狙う《真髄の針》のようなカードを目の前にしても、コンボなしの普通のゲーム展開を続けられるのです。デッキ自体のパワーレベルと反撃のしにくさ、そして望ましくないプレイ・パターンが混ざった「ナドゥ」に対しては、通常私たちがレガシーにおいて行動を起こすとされるカードよりももう少し積極的に行動を起こすことになりました。それがレガシーの健全さのためになると私たちは信じています。
ヴィンテージ
(この項はエリック・エンゲルハルトよりお送りします。)
変更なし
「North American Eternal Weekend」で明らかになったヴィンテージのメタゲームは、非常に健全に見えます。カテゴリ分けの方法にもよりますが、トップ8には7~8種類のアーキタイプが並びました。「イニシアチブ」や「ドレッジ」といったこのフォーマットの柱があり、「Shops」には2つの味があり、加えて3つの「ルールス」デッキはいずれも特筆すべき違いがありました。このイベントでは、『タルキール:龍嵐録』で他の戦略を抑える力になる《鳴り渡る龍哮の征服者》を獲得した「白単イニシアチブ」が、2022年以来の戴冠を果たしました。
ヴィンテージのメタゲームは、全体的にこの大会に似た形になっています。《夢の巣のルールス》を「相棒」に据えたデッキが引き続き大きな勢力を誇っているものの、《夢の巣のルールス》は複数のアーキタイプを支え続けています。私たちの中にも『久遠の終端』の《冷酷な船長、テゼレット》がヴィンテージに居場所を見つけるかもしれないと考える者がいましたが、実際にテゼレットがトップ8の舞台に立ち、さまざまな「Shops」デッキで枠を確保し、「ルールス」戦略に対抗するための力を与えている姿を見ることができて嬉しく思います。監視の目は向け続けていますが、現状は安定してるように見受けられます。ヴィンテージは素晴らしい状況にあります。メタゲーム上の問題は発生しないと予想され、今年開催される2つの「エターナル・ウィークエンド」も楽しみにしています。
パウパー
(この項はガヴィン・ヴァーヘイよりお送りします。)
《満潮》 禁止
3月に、私たちは《満潮》と《予言のプリズム》を「試験的に禁止解除する」という新たな試みを行った。これはパウパー・フォーマット委員会発案の、便利で新しいアイデアだ。《予言のプリズム》の方は特に大きな議論を呼ばずに終わったのだが、《満潮》の方はまったく異なる物語をたどった。
まず禁止解除されるなり、みんながデッキを組み出した。パウパーの精鋭たちが出した結論は、「秘儀を連繋する」メカニズムを存分に活かすものだった。《精神のくぐつ》を繰り返し連繋し、大量のマナを生み出すのだ。Magic Online challengeを制した最新のリストがこれだ。
パウパーに起きたことを精査し、時間の経過にともないどのように発展していくのかを観察するために、私たちはしっかりと時間を取りたかった。試験的禁止解除の間、私たちが慎重にフォーマットの変遷を追っていくのを待っていてくれてありがとう。
堅実な成績に、コンボ完遂までにかかる時間の法外な長さ、楽しくないプレイ・パターン、そして極端な展開がフォーマットに生まれることを鑑みて、私たちはここで再び《満潮》を禁止することにした。試験的禁止解除は素晴らしい実験であり、やってよかったと思う。しかしながら結果として、《満潮》を使用できることがパウパーに全体的に良い影響を与えるとは私たちには思えない。
この決断に至るまでの経緯をもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事も読んでみてくれ。
アルケミー
(この項はダニエル・スーよりお送りします。)
変更なし
《迷える黒魔道士、ビビ》や「応召」を持つ複数のカード、そして《噴水港のスター》を対象に行われた最新の再調整により、アルケミーの最上位層のデッキのパワーレベルは使用に耐えるレベルを維持しながらも下がりました。私たちはこれからの環境の発展を見守るつもりです。ここ数か月で人気を高めている「コーナ全知」デッキの監視を続け、またこのフォーマットのトップ層にあるのは好ましくないと私たちが考える「手札から出していきなり勝利する」プレイ・パターンにも注目していきます。
なお《叫ぶ宿敵》がスタンダードで禁止されましたが、アルケミーのメタゲームでは支配的なカードではなく、再調整の予定はありません。
ヒストリック
(この項はダニエル・スーよりお送りします。)
《否定の力》 事前禁止
《大あわての捜索》 事前禁止
《神秘の教示者》 事前禁止
《納墓》 事前禁止
《暗黒の深部》 事前禁止
「アリーナ・アンソロジー」の豊富なカードに、今年MTGアリーナへやってきたセットのボーナスシートやスペシャルゲストなど、ヒストリックのカードプールは急速に拡大しています。現在私たちが目指しているのは、1つのデッキがラインを越えないようにメタゲームを監視しつつ、事前禁止でフォーマットの不安定化を防ぐことです。《エルドラージの寺院》を獲得した「エルドラージ」はハイレベルなBO3の舞台でも成功を収め、人気を博しています。私たちは「ルールス」デッキ(「エネルギー」や「オーラ」)や高速コンボ・デッキ(「ヴァル・コンボ」や「睡蓮の原野コンボ」、「頑強コンボ」)とともに、「エルドラージ」にも目を向けています。
ランク戦の各レベルにおけるメタゲームはバランスの取れたものになっていますが、最上位層で人気のデッキとそれより下の層で人気のデッキの間にあるパワーレベルの差は、かつてないほど大きくなっています。ヒストリックについては、今後数か月の間にフォーマットの理念と禁止リストを再検討する中でさらなる変更が予想されるでしょう。
マナ・コストを支払わずに唱えられるカードに関する現行の理念に則り、ヒストリック・プレイヤーの皆さんはゲームを通してマナ・コストの支払いなしに繰り出される打ち消し呪文の脅威に晒されるべきではありません。そのため、《否定の力》は事前禁止となります。
《大あわての捜索》は、コンボ始動に使えるフリースペルとして主に縁の下の力持ちの役目を果たしています。しかしヒストリックにいて嬉しいコンボの強さを再検討する中で、《大あわての捜索》にはこのフォーマットから離しておくべきリスクがあると私たちは考えています。
《神秘の教示者》はヒストリックで最も強力な呪文にアクセスできるカードであり、特にコンボ・パーツを持ってくるときにその威力が最大限に発揮されます。相手とのやり取りが発生しない戦略に効率的なバックアップを与えるのは、ヒストリックに望ましいものではありません。
《納墓》は《神秘の教示者》よりは使い道が狭いものの、「頑強」と《ネクロマンシー》があるフォーマットでは2~3ターン目に安定してリアニメイトを行うことができるようになり、強力すぎます。そのような効率的な2枚コンボは、タイムレスに限るべきものでしょう。
ヒストリックは《暗黒の深部》を安定してプレイできる土地サーチ手段を有しており、《演劇の舞台》と組み合わせることで相手とのやり取りが発生しない勝利手段を手にすることができます。インスタント・タイミングで現れるマリット・レイジの脅威を対処できるデッキはほとんどなく、《輪作》によるサポートもあるならなおさら厳しいでしょう。
タイムレス
(この項はダニエル・スーよりお送りします。)
変更なし
タイムレスは《露天鉱床》や《古えの墳墓》の追加に適応し、《水耕栽培の設計者》と《用心深い領域守り》を中心に進化した戦略がこのフォーマットの主軸たる「実物提示教育」や「マルドゥ・エネルギー」と並び立たんと名乗りを上げています。《露天鉱床》が生み出す極端なゲーム展開はよく知られているため、必要とあれば変更を加える準備はしています。しかしながらこれまでのところ、タイムレスはこれらの強力な土地を非常にうまく取り込んでいるように見受けられます。私たちは今後もイベントを通してタイムレスの観察を続け、ハイパワーなマジックを楽しんでいる皆さんのために楽しく多様性にあふれたフォーマットをご提供できるよう取り組んでいきます。
ブロール
(この項はダニエル・スーよりお送りします。)
《露天鉱床》 禁止
《マナ吸収》 禁止
《金属モックス》 禁止
《古えの墳墓》 禁止
ブロールはここ数か月にわたり、大きな流れを体験する状況になっています。「アリーナ・アンソロジー」やボーナスシート、スペシャルゲストによりブロールには強力なカードが幅広く追加され、プレイヤーたちはこれまでのブロールのゲーム・スピードを加速させる新たな主力カードやプレイスタイルへの適応を求められました。このフォーマットの管理については、プレイヤーの皆さんに使いたいカードや統率者を使ってもらいたいという精神のもとであまり触りすぎないようにしてきた歴史があります。しかしながらブロールはカジュアル・ファンにとって安全な場所であってほしいと私たちは考えており、一部のカードは影響が大きすぎることが明らかになっています。そこで私たちは、絶えず変化を続ける中でも楽しく自由に遊べることを約束するというブロールのフォーマット理念に則って、禁止カードリストを改めて精査することにしました。
今回の禁止措置では、以下の3つの条件を満たしたカードを検討しました。画一化を進めること、効率的であること、極端な展開を生むことの3つです。画一化を進めるカードとは、その人気や強さゆえに環境で高い存在感を発揮するカードのことです。強力な無色のカードや土地はどのデッキでも採用できるため、画一化を進めやすいと言えるでしょう。現行の禁止カードリストでは、《死者の原野》と《精霊龍、ウギン》がこれに該当します。効率的なカードとは費用対効果が高いカードのことであり、ゲーム序盤に大きなインパクトを与えることが多くあります。低コストのカードすべてが効率的なわけではありませんが、効率的なカードのほとんどは低コストです。極端な展開を生むカードとは、そのコストで得られる結果として通常の範囲を逸脱した上振れがあるカードです。プレイした時点でゲームの勝利を決定づけることも多いですが、状況によっては役に立たないこともあります。ゲームがそれ中心になってしまうカードと言い換えることもできるでしょう。以上の3つの条件を組み合わせると、それ単体でゲームを左右し常にプレイヤーの前に立ちはだかるカードということになります。そういったカードは、私たちができる限り推し進めたいデッキ構築やゲームプレイの多様性を損なってしまいます。
《露天鉱床》は最近ブロールへ追加されたカードの中でも特に多くの議論を呼んでおり、私たちとしてもより競技志向のフォーマットにいるべきたぐいのカードだと考えています。これは土地であるためデッキ構築の面でもゲームプレイの面でも負荷をかけずにあらゆるデッキに採用でき、画一化を圧倒的に推し進めます。これを差し向けた相手が土地に困れば呪文を唱えるのも困難になり、極端な展開につながる一方で、土地を重ね引きすればちょっと後退した程度に留まるでしょう。このカード単体でも効率的ですが、墓地から何度も繰り出す構築を実現すれば妨害手段から勝利手段へと変貌します。全体的に見て、《露天鉱床》はブロールから取り除いた方がこのフォーマットはより楽しく多様性に富んだものになると私たちは予想しています。
《マナ吸収》はMTGアリーナでのデビュー以来物議を醸してきました。全体的な勝率は決して高くないのですが、示されたデータと私たちのフォーマット理念を詳しく照らし合わせたときに、《マナ吸収》は禁止が妥当であるとされる条件を満たしていると私たちは気づきました。このカードは打ち消し呪文としての性質から青のデッキには自動的に採用され、画一化を進めます。またタイミングよく放たれた《マナ吸収》は、しばしば交渉の余地を失わせます。統率者(やゲーム序盤にプレイすると有益な呪文)を使うタイミングで《マナ吸収》が決まれば、ゲームの状態が大きく傾くのです。これはデータによっても裏付けられており、初期手札に《マナ吸収》を引き込んだプレイヤーの勝率は10%高くなっています。まさに極端な展開を生むカードの特徴です。ゲーム後半になれば《マナ吸収》ももう少し落ち着いた一対一交換のカードになりますが、青のデッキに対しては序盤の《マナ吸収》を回避できなければ負けるという体験は、このカードをブロールから取り除く十分な動機になります。
《金属モックス》と《古えの墳墓》は、同様のカテゴリに分けられます。両者ともマナ・コストを支払わずに使える無色のマナ加速手段ですが、片方はカード、もう片方はライフという極端な展開を生みやすいコストの支払いが求められます。積極的に攻める側にいるなら得られるマナ加速に対して支払うコストは小さく、生み出せるマナの差で勝利を引き寄せられるでしょう。一方で攻撃を受け後退する側に立つと《古えの墳墓》は使えなくなり、急に土地の数が減ることになります。《金属モックス》の方はその状況でも使えますが、こちらはトップデッキした場合が極端に弱く、引きによってはすぐに無意味なカードになってしまいます。どちらのカードもどんなデッキでも採用できるため画一化を進め、他の追随を許さないほど効率的で、ゲームの状況に過敏に左右されます。ブロールをよりカジュアルに楽しめるフォーマットにするという精神のもと、《金属モックス》と《古えの墳墓》は禁止となります。
今回の禁止措置は、ブロールの管理に関する新たな試みであることにご留意ください。私たちは今後の状況の推移を見守り、コミュニティの声に耳を傾けていくつもりです。例えば10月には実験的に「メタゲーム・チャレンジ:ブロール」イベントを開催しましたが、これは通常のカジュアルなブロールとより競技志向のブロールを区分けし、競技志向のブロールに対する皆さんの関心の度合いを測るのに役立ちました。ゲームモードの1つとしてサポートするだけの人口を集められるかどうかを探り、プレイヤーの皆さんの関心を確認できたことに手応えを感じています。





