『イニストラードを覆う影』のデベロップ

更新日 Feature on 2016年 3月 21日

By Dave Humpherys

Dave Humpherys has been managing the development team for Magic R&D since 2010. He led development for the Avacyn Restored and Gatecrash sets. He was inducted into the Magic Pro Tour Hall of Fame in 2006.

 私がマジック開発部に入ったのは、2010年5月のことでした。『イニストラード』が、私がデベロップ・チームの一員として最初から最後まで関わった最初のセットです。それ以来いくつものチームに参加してきて、参加しなかったセットは『ドラゴンの迷路』と『戦乱のゼンディカー』の2つだけです。つまり、私の計算が間違っていなければ、『イニストラードを覆う影』は私にとって13個目のデベロップ・チームとなります。

 『イニストラード』は、特に愛されたセットです。そのため、再訪するのは恐ろしいことですが、同時にエキサイティングなことでもあります。旧『イニストラード』を作ったときの個人的経験を『イニストラードを覆う影』に活かせるのは喜ばしいことです。もう1つ偶然にも、私のデベロップ・チームには旧『イニストラード』のリード・デベロッパーだったエリック・ラウアー/Erik Lauerが参加しており、前回リミテッドや構築があれほどうまくいった理由に関する洞察を共有することができたのです。

 旧『イニストラード』は様々な意味で直接的でエレガントなセットでした。陰鬱、フラッシュバック、部族シナジー、両面カードが派手なメカニズムとして存在しました。他のブロックに比べて理解するための複雑さの低いメカニズムでした。確かに、呪いや墓地関連のカードなどもありましたが、このセットの魅力は芳醇なデザイン、そして自由度の低いカードと高いカードのいいバランスから来ていました。デザインからカードが届いて、私はこの機能性を『イニストラードを覆う影』でも再び再現するための道具が揃っていると思ったのです。

『イニストラード』の再録メカニズム

 デザインから届いた両面カードは、美しい物語を描いていました。この部分については、デベロップはマーク・ゴットリーブ/Mark Gottlieb率いるデザイン・チームが渡してきたものをそれほど改善する必要はなかったのです。私たちはそのいくらかをさらに洗練し、最も楽しいものを強化し、物語の上で注目されていないものを特定の目的のために作りました。

 内部的には、両面カードについて新しい要素が足りないのではないかという懸念がありました。単にパックごとの枚数や総枚数を増やしただけだったのです。結果として、開発部は《驚恐の目覚め》/《絶え間ない悪夢》のような普通でない変種であるカードは作りましたが、究極的には車輪の再発明は避けることにしました。早いうちに、サム・ストッダード/Sam Stoddardはこれらのデザインのために小チームを運営しました。我々が世界にお披露目した両面カードへの最初の反応は、まだまだ充分な魅力が見つけられると示唆していたのです。

 人間、スピリット、ゾンビ、吸血鬼、狼男は『イニストラードを覆う影』でも重要な部族の役割を担います。皆さんはこれらの部族のことを懐かしく思い出すでしょうが、これはこのセットの一面にすぎないということが重要です。そして、リミテッドでも構築でも部族を活かしたデッキは存在しますが、部族は起こりつつあることの一面、一要素に過ぎないのです。前回の『イニストラード』では、シナジーと実用的カードの密度の両方において『闇の隆盛』で最盛を極め、部族が最大のインパクトを持ちました。

 人間と狼男は前回とよく似た動きをします。装備品は今回も人間の手にあるときに強くなります。今回はさらにオーラにも拡張されました。ただし、これらの強化を使って1体を強くするという方向性を取らず、《サリアの副官》のようなカードを使って大量の人間で広く進めることもできます。

サリアの副官》 アート:Johannes Voss

 狼男は夜が来ると(メカニズム的には呪文を唱えないでターンを終えると)、やはり脅威です。私たちは、特に序盤戦で対戦相手が何もできないことを狼男が罰するようなものにしないように特に注意を払いました。その状況はそうでなくても失望するものだからです。一方、自分のターンに何もしないという選択が有意義になるように、そして相手の終了ステップに唱えると特に有効になるカードがそういったプレイを妨げないように、ファイルに多くの調整を加えました。

 ゾンビは全体としては墓地からカードを追放しなくなりました。これは昂揚との相性の問題です。ただし、リミテッドにおいてもっとも墓地に存在するカード・タイプはクリーチャー・カードなので、墓地から何度も何度も蘇って相手を苦しめるゾンビは見かけることでしょう。

 スピリットは相変わらずいくらか定義が曖昧です。今回も飛行クリーチャーの部族です。私たちはスピリットを捉えどころがなくて予測できないものとしています。スピリットは危険を「明滅」してかわし、瞬速でどこからともなく現れるのです。

 『イニストラードを覆う影』の吸血鬼は、マッドネスのメカニズムとかなり重複しています。この変更により、今回も非常に攻撃的な部族ではありますが、前回とはかなり違うところに焦点を当てることになりました。また、前回あった「+1/+1カウンターを置く」というメカニズム空間を多く引き継いでいます。

『イニストラード』になかったメカニズム

 セットでリードを務めるにあたって、もっと重要な性質は客観性でしょう。リードにとって肝要なのは、何が楽しくて何が楽しくないのかに関する大量の情報を評価し、ノイズを除去してマジックのために最善のものを見つけることです。マッドネスと昂揚の2つのメカニズムを評価するのが難しかったのは、それらが私の愛した『オデッセイ』ブロックのセットにあったメカニズムに非常によく似ていたからでした。

 私がトーナメント・マジックで過ごしていた中の最後の数年は、まさにそのブロックのメカニズムと一体化していました。2003年の世界選手権のトップ8で、私は緑青のマッドネス・デッキを使い、4位に入賞しました。20020年の世界選手権でも、青黒の《サイカトグ》デッキを使い、4位に入賞しました。この時、スイスラウンドの最終日のブロック構築では、《日を浴びるルートワラ》を使った緑青のスレッショルド・デッキで無敗を達成しています。

 これは単なる自慢話ではなく、これを伝えることで私とこのデザイン空間の個人的な繋がりを強調できると思います。この領域を掘り下げることで、今でもはっきり思い出せる当時の私の興奮を再び創りだすことができると確信していました。そして幸いにも、これらのメカニズムについて私が冷静に考えているかどうか教えてくれる同僚や上司を信頼することができました。

 マッドネスはデザイン中はいくつかの変種がありましたが、デベロップ中に、私たちは単純に再録することに集中しました。マッドネスという名前はこの設定にどんぴしゃで、私たちはそれを使えるようにしたいと考えました。最大の課題は、皆さんの想像通り、《ヴリンの神童、ジェイス》でした。

 テスト中にこの《ヴリンの神童、ジェイス》がどれほど強いかはよく理解できていました。その時点ではまだこれとシナジーのあるメカニズムは登場していないのです。この視点から、私たちはずっと《ヴリンの神童、ジェイス》を監視し、同時に他にプレイヤーが使えるシナジー相手がないか探していました。

 異なるゲームプレイ上の戦力を生み出すため、他の色にも、異なった弾力性のシナジー相手が必要でした。この調査の間に、カードそれぞれのパワーレベルは大きく変化しました。例えば、デベロップの初期のころは、《癇しゃく》は他のものに比べて強すぎるので名前を変えてもっと弱いカードになりました(カード名については既にアートが決まっていて差し替えたカードの名前決め大会を行いました)。しかし、数か月後、他にいくつもの変更を経て、《癇しゃく》が存在するほうが幸せになると考えました。そこで私はこのセットに《癇しゃく》を戻し、それはその後の精査でも生き残ったのです。

 昂揚はデザインするのがとてもエキサイティングなメカニズムでした。私は個人的に、新しいメカニズムにおいて必要な性質は、方向性と後方互換性を持つメカニズムを見ることだと考えていて、それは複数でもうまく働きます。方向性という軸では、昂揚は魅力的です。

 多くの新しいメカニズムは、全てを、アーティファクト、あるいはインスタントやソーサリー、あるいはクリーチャーを対象にするカード、あるいは複数の色マナ・シンボルを持つカード、あるいはパワー4以上のクリーチャー、などにしたくなるものです。

 昂揚はそれらとは異なります。昂揚は、デッキ内のバランスを取ることを求めます。本質的に、各カード・タイプでのお気に入りを探すということになります。いいですか。そう考えると、これ以上の後方互換性はありません。このメカニズムは他のカードに何も求めないのです。様々なカード・タイプに昂揚を持たせれば、それだけ複数でもうまく使うことができるようになります。

 昂揚は、シナジー相手という意味ではまた別の条件を必要とします。どれだけ早く条件を満たしたいか次第では、例えば自分のライブラリーを削ったり、マッドネスでそうするように、自分から手札を捨てたりすることもできます。複数のカード・タイプを持つカードを見つけるのも有効です。プレイテスト中、ピンチに陥った私は《搭載歩行機械》を0マナで唱えることがよくありました。《精神壊しの悪魔》のためだったりもしました。このメカニズムのおかげで、両面カードほど明白でない形での変化を描くことができました。

 調査メカニズムは、デベロップが作り直す必要があると感じたファイル内唯一のものです。これとよく似たメカニズムは過去にもありましたが、それについてここで詳しく述べる気はありません。私はショーン・メイン/Shawn Mainに小チームを任せ、新しいメカニズムを探してもらいました。私が彼に託した、このセットに必要だと感じていたものに基づくこのメカニズムに関する目標を順番に書いたのが以下のリストです。

  • インスタントとソーサリーにつけられること。パーマネントにもつけられたらなお良い。
  • 長期戦で判断を提供すること。
  • 昂揚と矛盾しないこと。昂揚の助けにはなってもなりすぎないこと。中立であっても良い。
  • 変化を減らす(か、変動しない)こと。変化を増やさないこと。
  • 強い謎の要素を持つこと。
  • 盤面上の複雑さや記録を過剰に増やさないこと。
  • 青、白、緑に多く、理想的にはコモンでもすべての色で使えること。
  • カードの流れや選択を増やすものであること。
  • 長期戦でマナを活用する方法を提供すること。
  • 魅力的/新奇であること。

 このセットの調査メカニズム、つまり手がかり・トークンを生成するというものはこのチームの提案した第一候補ではありませんでしたが、私のデベロップ・チームはカードを引くための中間体を作ることがかなり有望だと考えました。他のメカニズムと違い、手がかりは他のカードで参照することで実用的にすることができます。この実装は、上のほとんどの目標を達成していた上に非常に単純でした。

 私たちは最初、安全のためにカードを引くのに3マナ必要にしていましたが、比較的すみやかに2マナへと移行しました。ここで、上記の目標のほとんどは『イニストラード』で大きな役割を果たしていたフラッシュバックでも解決できますが、追放することは昂揚と相性が悪いのでここではふさわしくありませんし、旧『イニストラード』をそのまま繰り返すことからは離れたかったということを述べておきます。私たちは、調査が望ましい体験へと繋ぐ楽しい方法だと発見したのです。

 潜伏はこのセットでは比較的目立たないメカニズムです。私たちは、より広範にフレイバーに富んだ形で使える新しい回避能力を探していました。これがあれば、強力なクリーチャーが登場して戦場で役立たずになるクリーチャーを助けることができます。これは《棲み家の防御者》の回避能力のちょうど逆にあたるもので、《シルムガルの暗殺者》という前例があります。これがもっと頻繁に登場するようになってから、皆さんの反応が楽しみです。

《罪を誘うもの》

 今日私がお見せするプレビュー・カードは、上記のメカニズムのどれとも関係なく、単純に楽しくクールなカードです。もちろん私たちは各セットに楽しくクールなカードがたくさんあるようにしたいと思っています。《罪を誘うもの》は、馴染みのあるあるものを一捻りした、確かデベロップの初期にエリック・ラウアー/Erik Lauerが提案してきたものです。デベロップ中に、マナ・コストやサイズが元ネタから変遷しているので、点数比較は少し難しくなっています。どうぞ、ご覧ください。

http://media.wizards.com/2016/aksdjciawolkcc0_soi/jp_SfS7BRzipg.png

 その元ネタが、こちら。

 ご静聴ありがとうございました。

デイブ・ハンフリー/Dave Humpherys

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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