領事府の思惑

更新日 Magic Story on 2016年 10月 19日

By James Wyatt

James Wyatt joined Magic’s creative team in 2014 after more than 14 years working on Dungeons & Dragons. He has written five novels and dozens of D&D sourcebooks.

 前回の物語:かの闘技場にて

 金属魔道士テゼレットはピア・ナラーと公衆の面前で対決し、見せしめにしようとした。だがゲートウォッチのプレインズウォーカー達がこの地でのテゼレットの存在を懸念して競技に乱入し、ピア・ナラーを領事府の拘束から解放した。だがテゼレットの計略は決して見た目通りではなく、その華々しい見世物にすら別の目的があった――ドビン・バーンは今、それを学ぶこととなる。


 ドビン・バーンは苛立ちにかぶりを振った。そこかしこで、深刻な欠陥だらけの計画が完全な混沌を振りまいていた。

 博覧会会場の至る所で、執行人長ラナージの兵士達が思い思いの不器用な手法で発明品に掴みかかっていた。彼ら執行人らの公的権限を支えるあからさまな圧力として自動機械が付き添っていた。あらゆる場所で口論が弾け、乱闘が勃発し、そして発明家達は怒りの爆発から打ちひしぐような絶望まで、予想通りの感情を声高に発露させていた。その全ての水面下には狼狽の暗流が、テゼレットが改革派ピア・ナラーに示威したであろう闘技場から退出する群集の圧迫感があった。だがテゼレットは領事府旗艦に乗って霊気塔に向かい、そのためドビンは自力で動かねばならなかった――この何もかもが混乱した中を。

 もし執行人らを動かす前に私に一言言ってくれれば、全てはもっと円滑に進んだだろうに。

「君!」 彼は近くの執行人へと叫んだ。その飾り帯が彼女を士官だと示していた。「市民の集団を散らさねばなりません、彼らの失望がもっと暴力的な感情に変わってしまう前に」 その士官は彼の指示する手を追い、理解に頷いた。彼女は命令を復唱しようと口を開きかけたが、ドビンはまだ言い終えていなかった。

「加えて、剣を持つあの男への執行は特に注意してください。手足を切断してしまうかもしれません――自身かもしくは別の市民の。あの車はいわゆる『魔力の櫃』を積載していますが重量を支え切れません。そしてあなたがたは決してあの中に足を踏み入れる気を起こさぬように」 彼はその装置、霊気学会の作品を確保した一人だった。博覧会においては見物人の安全のために柵に囲まれていた。その重量に一本の車軸が折れる音に彼はひるみ、取り囲む六人の屈強な兵士達がよろめきながら転落を防いだ。

 士官は他の警告を何もかも忘れ、その惨状へと駆けた。ドビンは溜息をついた。ならば次の災害を防ぐのは自分の役割。彼は反抗的な発明家の一団へと急いだ。近づくと、執行人二人が肘を掴まれていた。

「市民の皆さん、こちらへ移動して下さい。安全のためです」 彼はそう言って兵士二人を前方へ押し、そして彼らは人々を誘導して離れていった。よし、次は。

 しまった、遅かった! 剣を持ったあの不器用な男は既に自身を切っていた。だが幸運にもその傷は想定よりもずっと浅く、そして何者かが既に隣に膝をついて腕の傷に止血帯を巻いていた。過不足ない対応に満足し、ドビンは頷いた――とはいえそれを必要としたことには苛立った。

 近くで、一人の発明家が優雅な飛行機械装置を、まるで自身の子供のように腕に抱えていた。一人の執行人が彼女へ踏み出すと、何が続くかをドビンはすぐさま見通した。執行人はその腕から発明品をもぎ取り、発明家は怒りに悲鳴を上げて取り戻そうと掴みかかり、そして執行人の背後に立つ砦の自動機械が彼女を抑える。適切に行うためにそんなにも時間を要するものだろうか? 身分証を見せ、目的を説明し、細心の注意を払って取り扱うことを約束し、その作品に添えられた発明家の名を確認すればいい。

 だがどうやら尋ねることが多すぎるらしかった。そこへ辿り着くよりも早く、ドビンが予想した通りの展開が正確に繰り広げられた。自動機械はその発明家をかろうじて抑えていたが、彼女は振り払って別の方向へと駆けていった。明らかに何らかの行動に移るために。

慮外な押収》 アート:Joseph Meehan

 欠陥だらけの計画が不器用に実行されていた。敬愛する領事府はもっと上手くやれると彼は予想していた。だが彼は後の惨状を急ぎ始末するのではなく、計画が進行する前に意見を求めて洗練させることの方に習熟していた。領事府は自分の才能を評価しており、そのため新たな設計を調査して安全基準を定める主席検査官の地位にまで上がった。そしてテゼレットも同様に自分の可能性を見た。発明品だけでなく領事府の官僚組織や発明博覧会、そしてテゼレット自身が権力を得るにあたって複雑な仕組みの中での欠陥を見つけ出す。そう、ドビンはそれも見ており、あの金属魔道士の策略を一つか二つ正すべく曖昧だが助言した。そしてテゼレットは報いてくれた。

 何が起こったのだろうか?

 自分は何かあってテゼレットを失望させてしまったのだろうか? 敵対するあのプレインズウォーカー達の到着を把握していたのだろうか? ドビンは釈明をする自身を感じた。あのプレインズウォーカー達、『ゲートウォッチ』に接触することは、当時自分が持っていた情報と状況の中では最良の行動だった。テゼレットはその件で自分を罰せはしないだろう。

 確かに、損害は既に起こってしまった。プレインズウォーカー達はやって来て、執行人達はテゼレットの命令を実行している。そしてそれを正すのがドビン・バーンの役割――確かに自分は都市のあらゆるものを正すために、能力の限りに奮闘してきた。この才能には嫌な一面があり、目にした欠陥を正しくないままに放っておくことがどれほど困難かもまた判ってしまう。だが都市が、領事府が混乱へと駆け下りていく様を放置して見ていることはできなかった。

 塔へ向かう中、トランペットのような爆音が広場に響き渡った。すぐ前方で、象に似た絶妙な造命構築物が――製作者ですらも繰り返し鳴り響くその音に逃げ出してしまっていた――頭部を左右に振り回し、螺旋形の巨大な牙で執行人らを地面に打ち倒していた。兵士達はその前から逃げ、もしくは手に持った槍でその獣を突いていたが、金属の槍先は象を覆う金属板で無益に音を立てた。ドビンは唇を噛み、その動乱へと急いだ。

 この不十分な意思決定の全てを修正するには、自分の身体がいくらあっても足りない。

 彼は一人の執行人の腕を掴み、象の鼻を避けながら後ろに引いた。「聞きなさい」

「立て込んでおります!」 その執行人は言い放った。

「計画無しに立て込んでいるのであれば、それは遊んでいるも同然です。聞きなさい。あれをご覧なさい」

 その執行人は混乱に目をしばたたかせ、そしてドビンは説明の機会を得た。「ご覧なさい。槍で喉を切られた時、あの造命動物は後ろ脚で立ち上がります。必ず。そして前脚で蹴る。それを皆に伝えなさい」

「喉を狙え!」 その執行人は叫び、仲間の一人が従った。

 いななき音と共に、その象は後ろ脚で立ち上がって両前脚で攻撃し、忠実な執行人らを敷石に吹き飛ばした。ドビンは溜息をついた。

「あれをご覧なさい」 彼はそう言って象の腹部を示した。「作品の品質は粗悪なものです。改革派の構築物の典型です。あのように立ち上がった際、臀部近くのケーブルが一本露出します。それを切断するだけで、あの自動機械そのものが倒れる筈です」

 その執行人は頷いて殺戮の中ににじり寄り、ドビンが教えた通りに近づこうとした。ドビンは腕を組み、片目を象に留めたまま、この惨状の責任を持つ改革派の造命士を群集の中に探した。

「ああ」 彼は群集の中に一人のエルフを確認した。

 ドビンは踏み出し、別の執行人の肩を掴んだ。「そのケーブルを切断する役割は君に」 彼はその耳へと言った。そして最も新しい弟子が象を再び立ち上がらせるべく挑発すると、彼女を少し左に動かした。

「今です」 そして彼女を優しく押した。

 その象は彼女の接近にわずかに身体を向け、鼻を振り回した。彼女はそれを避け――良い動きだ――そして露出したケーブルを利き手でかろうじて掴んだ。拳を引き、刃がケーブルを切断し、象は倒れ――

 そしてその鼻がエルフの造命士を地面に打ちのめした。

 ドビンは執行人達へとそのエルフを示した。「このエルフを確保し、今の騒動に関して聞き出すように」そして大股で歩き去った――もう妨害はないことを願う!――テゼレットを見つけるべく、霊気塔へ。


 塔に到着すると、テゼレットが命令を叫びながら広間を闊歩する姿が見えた。彼は急いで審判長へと追い付き、その腕に手を触れた。

 だがその袖の中に尖った金属を感じ、彼は手を引っ込めた。勿論以前から推測していた、その袖口から見える輝く鉤爪はおそらくテゼレットの腕に取り付けられた一つの装置なのだろうと。だが今、それは腕の一部だと実感した――僅かな接触からでも、緩い衣服の下の形を推定することができた。義肢だろうか? そして審美眼的には優雅とは程遠いながら、高い機能を有しているらしかった。興味深い、そして今まで自分がそれに気づかなかったことは奇妙に思えた。テゼレットはこれを隠していたのだろうか?

「何だ、バーン?」 テゼレットが尋ねた。その表情は揺るぎない冷静さを映そうとしてはいたが、彼の姿勢は苛立ちを叫んでいた。

「これは何なのですか?」 ドビンは言い返し、解体されつつある発明博覧会の完全な混乱を示すように背後へと腕を振った。「どのような状況を想定して、これほど過酷な行動が必要とされたのですか?」

 テゼレットは金属の手でドビンの肩越しに指をさした。「闘技場で起こったことを知らないようだな」

「改革派との発明対決ですか? あれはとてつもない被害の可能性を秘めた劇的すぎる行動です。私が審判長の意向を把握していたなら、すぐさま注意喚起をしたでしょう」

「私が言っているのは、ならず者のプレインズウォーカー六人が決闘に乱入し、改革派とともに消えたということだ」 テゼレットの表情は憤慨をはっきりと示していた。「この被害の可能性をお前が描いていた記憶はない」

 ドビンは自身の指を数えた――ナラーの娘は当然のこと、この次元に到着したなら様々な結果をもたらす可能性があった。そしてテレパス、エルフ、戦士、屍術師……だが最後の指が残っていた。六人目は誰だ?

劇的な逆転》 アート:Eric Deschamps

「奴等は改革派を活気づけた。状況は手をつけられなくなっている」

「ですがこの全てが必要だったのですか? 何故発明品を押収する必要が、しかもこのような不器用かつ高圧的な手法で。広場を見ただけでお判りになるでしょう、あのような行動は更なる刺激になるだけだと。審判長が仰る通りに、領事府の権限に抵抗する者を活気づけてしまったではありませんか」

「いきり立つな、バーン。私達は発明品を盗んでいるのではないのだ。守っているのだよ。あのような素晴らしい価値のある発明品を改革派の攻撃で傷つけられたくはない」

「それは私も心から同意します、ですが――」

「そして君もよく知っての通り、そういった装置は徹底した試験を通されていない。つまり安全ではない。そういった無許可の技術を都市じゅうに沢山放置してはおけない」

 ドビンは答えた。「無論、それは無責任というものです。とはいえもっと理論的根拠に基づいた、友好的な説明があった筈です。ラナージの執行人らを送り出して悲嘆にくれる持ち主の手から装置を奪い取るのではなく、完璧な様式の書類を持たせた職員を送り出し、詳細な保証を提示し、無意味な言葉を宥めれば」

「そのような時間はない」 テゼレットは小声で唸った。

 興味深い。ほんの一瞬、テゼレットの態度が完全に変化した――まるで怒りに捕われたように。彼の身体を掴み、そして素早く手放したように。

 ドビンは宥めるような声色で返答した。「平和と公的安全を確保するために余分の時間を取る価値はあります。あれらの装置の幾つかには人物や財産に害を成す莫大な可能性があるのは確かですが――」

「そうだ、凄まじい可能性がある。わからないか? あのような作品を誰とも知らぬ者の手元に置くよりは、領事府の調査課に技術を手渡して可能性を探求させる方が遥かに善いではないか。我々はそれを発展させ、精錬させ、完全なものにできる」

 ドビンは少し黙っていたが、やがて口を開いた。「勿論です。そういった発展は発明博覧会の当初からの計画の欠くことができないものです。領事府の注意深い管理下、よりよい社会のために技術を進歩させる。では何故――」

「そしてその努力を率いるためには君以上の人材はない」

 ドビンは瞬きをし、一瞬言葉を失った。「私ですか?」 確かにそれは理にかなった選択だった。だが先程、自分はいかにしてかテゼレットを失望させたと考えていた。今、テゼレットは自分にとてつもなく重要な地位を提示している。

「だがそのような重大な任務を任せる前に、はっきりさせておきたい事がある。あの他のプレインズウォーカー達だ。君が連れて来たのか?」

「そうですね、厳密かつ実際に私が連れてきたのではありません。彼らの何人かはここに招待しました、発明博覧会を計画するにあたり、私が見極めた潜在的失敗の防止策として――特にピア・ナラーのような改革派による危険を。ですがプレインズウォーカー達は私の提案を断りました。ナラーの娘だけが察し、自力で来ました。私が連れてきたのは一人だけです――エルフのニッサ嬢を」

「私にとって重要なのはそれだ、バーン」 テゼレットはそう言って、肉と骨の手をドビンの肩に置いた。「君の先見を評価している。だが君があのプレインズウォーカー達へと接触したことは、どうやら想定不可能の誤りだったようだ」

 誤り? ドビンはいきり立った。「事実、私の決定は最適なものでした。審判長が私に提示して下さった情報の中では。改革派の脅威の危険性を示され、その処理にあたってあのような大きな力を持つ自称英雄達よりも適した者はおりますか? 彼らが改革派の側についてしまう確率は極めて小さいものでした――個人的遺恨が関与しない限りは。それは私にも先見のしようがありません」

「だが結果はこの通りだ。奴等は闘技場で私に挑んできた。私はもっと素早く動くことを強いられた――まさに君が先程言った通り、あのように不器用に。奴等は私の手を煩わせた」 彼は金属の手を動かし、ドビンは無意識に一歩後ずさった。

「バーン、これを修正しろ。この出来事で改革派が調子に乗るというのは君の言う通りだ。奴等を止めろ。私は安全な調査室が要る、改革派の攻撃を怖れることなく仕事ができるような。押収した発明品を安全に保管し、君の調査のために目録を作るように。砦の警備段階を上げ、あらゆる脅威に備えねばならない。権威を持つのは誰か、それを知らしめねばならない」

「調査室ですか?」 ドビンが尋ねた。「何のために?」

「私は自分で追究すべき研究がある」 テゼレットはそう言って広間を進み続けた。ドビンは急ぎ追い付いた。「ラシュミが出した作品は眩暈がするほど大きな意味を含んでいた。この些細な反乱よりも大きな、カラデシュそのものよりも大きな。私はそれだけに集中する。残りの発明品は君のものだ」

 本当に? ドビンは考えた。博覧会でテゼレットの注意をここまで引いたものは他に見ていなかった。「わかりました」

「この惨状を片付けてからな」

「勿論です」 まずは、あのプレインズウォーカー達を。

 テゼレットはそれ以上何も言わず、背を向けて去った。そしてドビンは近くの執行役員へと手招きをした。

「熟練の兵団を集めなさい」彼は指示をした。「望むならば一定以上の技術を持つ者らを、そして……異邦人を、闘技場から脱出した改革派を追跡しなさい。そして心に留めて下さい、彼らには欠点があります。適切に突けば確実に失敗を引き起こすような」 ドビンは指で彼らの人数を数えた。「彼らには明確な先導者がいません。そのため異なる方向を目指そうとする可能性があります。ナラーの娘は移り気で容易に挑発され、無謀な行動をします。黒髪の女性は他の何人かには完全に信頼されてはいません、特に兵士には。彼らには悲しい信念があります、自分達は英雄であり、そのように行動すべきであると。オビア・パースリーのような、自分達よりも弱い同行者を守ろうとします。そして最小限の犠牲で勝てると思っています。そういった弱点をあらゆる手段で突きなさい。さあ!」


 外へ戻った瞬間、ドビンは眩暈を感じた。どうやら闘技場から出てきた観客で、広場は先程以上に混雑していた――その多くが発明家であり、執行人達が大切な発明品を奪おうとしている、もしくは既に持ち去ったことを今しがた知った様子だった。ドビンは再びこの完全な惨状にかぶりを振った。誤って進む、もしくは進もうとしている物事全体を把握するために広場を見渡す必要すらなかった。まさにテゼレットが言った通りの惨状であり、だが彼自身には何の過ちもなかった。とはいえテゼレットはこれを片付ける役割を自分に任せ、更には誰も――自分の謙虚かつ正確な見積りでは――自分以上にこの役割に適した者はいない。

 彼は再び、この時は急ぐことなく縫うように広場を進み、同時に砦の士官を数人集めていった。起こってしまった今となっては、最も重大な失敗は領事府への公的意見を反抗的なものへ変えてしまったことであり、そしてそれは一つではなく何十もの可能性となって、ギラプールそのものである一つの優雅な機械の完璧さを脅かしていた。不機嫌な発明家達の集団が幾つか、まるで吸血蠅のように彼の意識にとまった――自分の指導下で執行人達に解決させるべき問題。彼らを喜ばしい安心とともに穏やかに解散させられれば今は十分かもしれないが、少しの戦略的な逮捕もまた必要と思われた。彼はそれぞれの問題点へと士官達を送り出した。

 他の問題については個々の介入がもっと適していた。彼はある感情的な爆発の現場へ赴いた。砦の自動機械が二体、精巧な装置を持ち上げようとしていた。その発明品の目的は一見してはわからなかったが、頭に血の昇った人間の発明家が声高にドワーフの執行人への不満をわめいていた。

「すみません、お力になれるかもしれません」 彼はそう言って、その発明家と執行人の間に割って入った。このような状況では、ヴィダルケンならではの静けさは他の種族が顕著に発露させる強い感情に効くとドビンは知っていた。

「お前らにそんな権限はない!」 その発明家は叫び、赤ら顔をドビンに著しく近づけて一本の指で彼の胸骨を突いた。

「この素晴らしい装置への愛着は私も心から理解できます」 ドビンはそう言って、その発明品の複雑な金属加工に手を滑らせた。今や彼はその目的を把握した――飛行機械を加工するための設計だった。巧妙な品。勿論、多くの欠陥も直ちに明らかになったが、今はそれらを列挙する時ではない。「真に驚嘆すべき作品です。ドゥジャーリの原理をこのように応用するとは実に独創的だ」 そして、研究室へと安全に確保したならこの装置をもっと調査しようと心に留めた。間違いなくグレムリンを引きつける危険な霊気漏れを封じた後に。「素晴らしい可能性を秘めています」

 その発明家の不機嫌は和らぎ、誇りに肩を正した。「あ、ありがとうよ」

「貴方の装置は領事府の手で、最大限の注意を持って取り扱われます。私が保証致します」

「だが――」

「領事府に発明品を提出する際の、安全基準に照らした評価と詳細な調査についてはご存知かと思います。そして確かに認識されていると思います、このような特殊な状況においては――」 彼は曖昧な、だが掃くような身振りをした、発明博覧会そのものからこの領事府の押収行為を示すような。「――何らかの原因で手順が変更される場合があると。ですが結果は同じです。そして貴方の作品はとても素晴らしく、加工技術の革新へと繋がるかもしれません。領事府は喜ばしく思います」

 その発明家からの反応を待たず、顔をしかめてそのやり取りを見つめていた執行人へとドビンは向き直った。「それでは、業務を遂行して下さい。少なくとももう一体の自動機械を用いてこちらの装置を動かす事をお勧めします。その価値のある作品です。もし待っていただけましたら、私が手配しましょう」

 待つ事だけは嫌、ドワーフの執行人はそう言っているように見えた。だがドビンは礼儀正しい言葉使いで拒絶の選択肢を失わせるとともに、断固たる視線で黙らせた。

 これこそ、ラナージの執行人に欠けている類の技巧。そしてドビンはその結果が引き起こすであろう破滅を心から怖れていた。

 同じようなやり取りが、霊気塔から発明品が置かれている貯蔵倉庫へ向かう彼の脚を遅らせた。彼は片手ほどの発明家をなだめ、改革派になりかけた三つの群集を解散させ、切断された霊気管から漏れ出る霊気めがけて造命の象へと降りてきたグレムリンの群れを対処する捕獲隊に手を貸した。

 だが、都市の不安と緊張とは対照的に、全く異なる類のエネルギーが貯蔵倉庫に満ちていた。そしてそれはすぐさまドビンの鼓動を速めた。都市内のあらゆる領事府調査室からの最高峰の科学者と発明家からの作品が、一つの目的をもってここに送られてきていた。一覧を作り、安全に保管し、これら全ての発明品を研究するという記念的任務に着手するために。この壁の中にあるものは、飛躍的な技術的進歩の可能性を秘めている。六十年前、現在の革新時代の出発点となった大霊気ブームに匹敵するほどの。

 そしてその全てを自分の手で。テゼレットの信頼に対して抱いたあらゆる疑念は消え去るだろう。

 取りかかるのが待ちきれなかった。プレインズウォーカー達を確保し、改革派を黙らせたらすぐに。

 砦の権限の増加、あるいは夜間外出禁止令。改革派の活動を阻止するために、必要とあらば霊気供給の制限も。そしてゲートウォッチ、組織としての欠点を突けば彼らもまもなく捕え監禁できるだろう。そして安全と秩序が回復する。

 そうしたら、この全ての研究を開始しよう。

(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)


『カラデシュ』 物語アーカイブ

プレインズウォーカー略歴:テゼレット

プレインズウォーカー略歴:ドビン・バーン

次元概略:カラデシュ

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