ラヴニカ:灯争大戦――絢爛の聖堂へ

更新日 Magic Story on 2019年 5月 15日

By Greg Weisman

Greg Weisman is best known as the creator and producer of Gargoyles, and the writer-producer of Young Justice, Star Wars Rebels, and The Spectacular Spider-Man. He's the author of five novels: Rain of the Ghosts, Spirits of Ash and Foam, World of Warcraft: Traveler, World of Warcraft: Traveler - The Spiral Path, and War of the Spark: Ravnica.

 前回の物語:古き友、新しき友

 以下の物語には、グレッグ・ワイズマン/Greg Weisman著の小説「War of the Spark: Ravnica」(英語)のネタバレが含まれています。

 この物語は年少者には不適切な表現が含まれている可能性があります。


 ヒカラは死んだ。

 私にわかるのはそれだけ。

 思うに、永遠衆からの攻撃を受け流すテヨとケイヤ様に挟まれているのは幸運なのかもしれない。今の私には、猫の攻撃すら受け流せるとは思えなかった。

 そうする気になれるとも思わなかった。

 それから数分間の記憶はひどく曖昧だった。ザレック様が標について何か言ったような気がする。自分やケイヤ様やジュラ氏やベレレン氏やテヨみたいなプレインズウォーカーを沢山呼び寄せた、とか。周りにプレインズウォーカーが沢山現れた気がする。一人はミノタウルスだったような。わからない。

 ヒカラは死んだ。

 あの人もプレインズウォーカーだったかもしれない。プレインズダンサーだったかもしれない。その様子を想像できた。宙返りで多元宇宙を渡って、色んな世界を訪れて、出会った全員を笑顔にする。少しだけ血を流して、それとも、沢山の血かな。

 それに、もしヒカラがプレインズウォーカーだったなら、何かに殺されそうになっても逃げ出せる。

「死因は?」 私はそう尋ねた。けれどこっちに意識を向けていたのはテヨだけで、知ってるはずもなかった。

 そしてその時、何かが起こった。私は誰も何も見ていなかったけど、誰かが呪文を唱えたみたいだった。テヨが盾を消して両目を覆った。

 そこで私の何かが弾けた。動かないと。一体の永遠衆が私のテヨを、私の新しい友達を――たった一人の友達を――鎚で殴り殺そうとしている。

 怒り狂って、私はそれに飛びかかって両目を突き刺した。それはふらついて……倒れた。

 沸騰するくらい熱くなっていた。これほど怒ったことは今までなかったと思う。

 今の私は生粋のグルール。両親が見たなら誇らしく思うだろう。

 バラードさんが言った。「全てのプレインズウォーカーがゲートウォッチ向きとは限らないよ。ただただ不愉快な奴だっている」

 ジュラ氏がそれに返答した。「不愉快かどうかはともかく、大体のプレインズウォーカーはニコル・ボーラスを好いてはいないでしょう。手分けした方が良さそうです。街じゅうに散って、可能な限り多くの人々を助けて、見つけられる限りのプレインズウォーカーを集めるんです」

 何人もが叫んだ。「了解!」

 ケイヤ様はテヨと私に向き直った。「あなたたち二人がいてくれればかなり助かるわ。一緒に来て」


 ありがたいことに、テヨはすごく素直な子だった。それにヒカラみたいに死なせる気はなかったので、この子がケイヤ様の命令通りに後を追うと、私もついて行った。それはいいことだと思った。外はどこもすごく危険で、少しの間ヒカラのことをほとんど忘れることができた。

 ほとんど。

 ケイヤ様はギルドの戦力を集めるためにオルゾヴァへ向かおうとしていた。けど絢爛の大聖堂は遠くて、戦慄衆の隊列や群れがラヴニカの街路を漁りまわるみたいに進んで、見かけた者は全員殺していた。唯一の救いは、理由はわからないけど、永遠衆はどんな建物にも入らないってことだった。その中にいれば安全だった。

 少なくとも、今のところは。

 だから私達は街を横切って、大通りや横道や裏道を駆けながら、きちんと人々を助けていった。隠れ場所を見つけて建物の中にいろって伝えれば、その後の心配はあまりしなくていい。それに私達も永遠衆を追いかけなくていい。狭い所で戦うよりも、開けた所の方がちょっとは安全だから。

 というか、こっちの戦力は三人だけで、テヨが作る光の盾は防御しかできなかった。

 ううん、役立たずって意味じゃない。私達にはこの子が必要。

 テヨは私達の背中を、前を、横を守ってくれていた。けど永遠衆は一体も殺していない気がした。

「ね、きみは今までさ、誰も、何も殺したこととかないんじゃない?」 私はそう尋ねた。

「蜘蛛を一匹殺したことならあります」

「大蜘蛛を?」

「大、とはどれほどですか?」

「きみの親指より大きかった?」

「いえ」

「つまり普通の蜘蛛ってこと」

「そうです。ごく普通の蜘蛛です」

 テヨは失望されたと受け取ったみたいだった。けど私は心のどこかで嬉しく思った、テヨはすごく……何て言えばいいんだろう?

 純粋。そう、すごく純粋だってこと。

 今既に危なっかしいこの子を、更に動揺させたくはなかった。だからヒカラの件は少し置いておこうとすぐ決めた。永遠衆を相手にしなきゃいけないし、テヨは今私を必要としている。悲しむのは後。

 永遠に悲しむんだろうけど。

「きみが殺し屋なんかじゃなくて嬉しいよ」 私はそう伝えた。

「ええと……ありがとうございます。そんなことを言われたのは初めてです」

 ともかく、永遠衆の大軍は避け、個体や小さな集団を片付けていった。ケイヤ様は言わば一番厄介な仕事を請け負っていた。永遠衆はケイヤ様の透明なダガーにすごく弱くて、それに身体を幽霊みたいにすれば触ることもできない。でもその姿は見えてるから、ケイヤ様とテヨの白く光る大きな盾は私にとってすごくいい感じに永遠衆の目を逸らしてくれた。実際、永遠衆は殺されたってわかるまで、誰も私をほとんど気にしなかった。

 私はテヨが張るダイアモンド型の盾から抜け出して、二体か三体の永遠衆を避けると私が迫ることに気付かない一体を刺した、いつも通りに両方のダガーを両目とその脳まで。それが地面に倒れる頃には、私はもうそこにはいない。

 そんな小競り合いが数度あった後、広いけれど誰もいない道を横切った――あるのは少しの死体だけで、つまり永遠衆はもうここを通ったってことだった――その時テヨがケイヤ様へ尋ねた。「つまり今の僕達はゲートウォッチなんですか?」

「わからない。『ゲートウォッチ』って名前も初めて聞いた。それが何なのか、きちんとわかってるわけでもないしね」

「正義の味方、かな?」 私はそう言った。

 テヨが頷いた。「盾魔道士団のラヴニカ版ですね」

 ケイヤ様は首を横に振った。「ラヴニカに限定していないんじゃないかな。構成員は全員がプレインズウォーカーだから。きっと、君の盾魔道士団の多元宇宙版」

 私は肩をすくめた。「つまり……正義の味方、ね」

「ええ」

「じゃあ、二人ともゲートウォッチだよね」 私は続けた。「もちろん、私は入ってないよ。プレインズウォーカーじゃないもん」 そう笑ったところで、一つの考えがいつもの脳を叩いた。「ゲートウォッチじゃないよ、そもそも門なしだし。私はラット、どこにも入らない」

「ラットさんは僕よりずっと沢山の永遠衆を倒してますよ」 テヨがそう言った。私は呆れた顔をしないように我慢した。この子は一体すら倒していないのだから。

 代わりに私は言った。「いいこと言ってくれるじゃん、テヨ君。きみはほんといい子だよ。ケイヤ様、そう思いません?」

「ええ、本当に」

 テヨは私を少し睨んで言った。「僕の方が年上だと思うのですが」

 それを無視して私はケイヤ様へと続けた。「そういうわけで、この子を養ってあげることにしたんです」 テヨは何か言い返そうとしたけれど、私はそれを遮った。「傷はどう? 見た感じもう無いっぽいけど」

 少し混乱したように、けどテヨは傷のあった額に触れた。「大丈夫みたいです。もう全然痛くありません」

「黄金のたてがみさんがいい感じに治してくれたね。あの猫さんも他のことで忙しかったのに、そこらじゅうの永遠衆を殺しながらさ。黄金のたてがみさんも凄いって思いません?」

「ええ、とても」

 その頃には、近くの低い建物の上に絢爛の大聖堂の尖った塔が顔を出していた。そこで突然、ケイヤ様は二つの建物の間を斜めに走る小路へ向かった。奇妙な選択だと思ったけれど、私はケイヤ様の判断を信じて、テヨの手を掴むと続いた。

 百ヤード程行った所で私は気付いた。ケイヤ様はただ大聖堂を見上げて、一番まっすぐな道を進んでいるんだって。内心うめいて私は言った。「こっちから行かない方がいいと思います」

「行くのよ、オルゾヴァに早く着けるなら」

「行き止まりですけど」

 ケイヤ様はすぐに立ち止まって振り返った。「もっと早く言ってくれれば!」

「すごく自信ありそうだったから。隠し通路を知ってるんだろうって思ってました。ラヴニカには至る所にそういうのがあるじゃないですか。すごく沢山。私も全部……じゃないけど沢山知ってます。でもギルドマスターのケイヤ様は私が知らないのを幾つか知ってると思ったんです。違いますか?」

「ラット、私はギルドマスターになってほんの数週間なの。ラヴニカに来てほんの数か月なの。この街についての知識はテヨ君と大差ないのよ」

「僕は今朝来たばかりです」 いくらか不必要にテヨが言った。

「わかってるわよ!」

 私は頷いた。「いいから、いいから。じゃあ今から現地人が案内してあげますって。こっち!」

 テヨの手を掴んだまま――何故かはわからないけど、ただそうしていたかった――私は来た道を引き返した。テヨは引かれるままについて来た。ケイヤ様が後から続いた。

 そして目で見るより先に、足音が聞こえた。

無情な前進》 アート:Stanton Feng

「ん。戻って別の道を行きます!」

「どうして?」 ケイヤ様が言って、けれどすぐに状況を把握した。また別の永遠衆の群れが裏道に入ってきた。この狭い場所で戦うには多すぎる数が。私達を見つけた瞬間、そいつらは襲いかかってきた。私達は背を向けて逃げ出した。

 ケイヤ様が叫んだ。「こっちは行き止まりだって言ったじゃないの!」

「そうです!」

「じゃあ、どこに逃げるの!」

「突き当たりに、もぐり酒場の入口があるんです。大聖堂に着くことはできなくても、しばらく中に隠れてればこいつら諦めてくれるかも!」

 ともかく今はそれしかなかった。

 永遠衆の足は速かったけど、命がけで走ってるわけじゃなかった。私達は割とたやすく突き当り、クルメンの酒場へ続く分厚い鉄扉の前まで来た。ようやくテヨの手を放して、私は開けようとした。鍵がかかっていた。

 当たり前じゃん、昼間に開いてるわけがない。

 両の拳で扉を叩いても、返事はなかった。膝をついて私は言った。「わかった。私が開けてあげる」

 ケイヤ様が言った。「私もできるけど、そんな時間はないわよ」

「僕が時間を稼ぎます」 テヨがきっぱりと言った。肩越しに振り返ると、テヨは詠唱とともに白い光の大きめのダイアモンド型の盾を張って、永遠衆が私達に殴りかかる寸前にそれを防いだ。そして苦しそうにうめいたけれど、盾を保つことはできて、それだけじゃなくて道幅もある長方形に広げて、永遠衆が横から入り込んでくるのを防いだ。

「そんな事できたんだ!」 鍵をいじりながら私は言った。

「僕も知りませんでした。こんな事ができたのは初めてです。けど壁が形を安定させてくれます。寄りかかる感じに」

「そうなんだ」

 永遠衆の武器が盾に叩きつけられる音が聞こえた。テヨは小声で詠唱を続けながら、攻撃のたびに少しうめいていた。どれだけもってくれるのかはわからなかった。

 何かが小さく鳴った。「やった」 けど立ち上がって取手を掴んでも、まだ動かなかった。「鍵はあいたのに! 何かが中で塞いでる!」

「それは私が」 ケイヤ様が言って、幽体になって扉を抜けていった。そしてすぐに扉から顔だけを出した。「開けられるけど、もう少し耐えてもらわないと」

 私は振り返った。テヨは何も言わず、けれど目をきつく閉じて一度だけ頷いた。もう詠唱はしていなかった。ただ歯を食いしばって両手を盾に押し付けていた。ラゾテプのミノタウルスが頭突きを繰り返していて、他の永遠衆は鎚や鎌みたいな剣の柄で殴りつけていた。その度に白い光が閃いた。盾はもう持ちそうになかった。

 ケイヤ様も同じことを思ったのだろう。幽体の状態から身体を戻すとダガーを抜いて身構えた。

 幸運にも、そこに助けがやって来た。今回も、目で見るよりも先に音が聞こえた。吠え声と叫び声。私は笑みを浮かべてテヨの肩に手を置いた。「もうちょっとだけ頑張って。もう大丈夫」

 グルールの戦士たちが――ガン・ショクタ、ドムリ・ラーデ、アカマル・クレイ、ゴヴァン・ラドリー、シェーザとジャディーラ、ボバップ、他にも――全員が背後から永遠衆に襲いかかって、斧がラゾテプを叩き切っていった。牙が突き刺し、鎚が振り下ろされた。ガン・ショクタは永遠衆二体の頭を叩きつけるとその力で頭蓋骨を砕いた。ラゾテプと骨の破片が散った。

 永遠衆はすぐに私達のことを忘れてグルールに対峙した。テヨは膝を折り、盾が消えた。私はダガーを抜いてテヨを守るみたいに立って、ケイヤ様は背後から永遠衆へ攻撃を始めた。

 ドムリが永遠衆の首を長く偏った鎌で落とすと、肩越しに振り返って甲高い声を上げた。「あんたはギルドマスターのケイヤだろ、万能の幽霊暗殺者。ドムリ・ラーデがここにいて混沌の血祭りを楽しんでることをありがたく思えよ!」

「君がラーデ?」 ケイヤ様はそう尋ねた。

 ドムリはその言葉に侮辱されたと感じたみたいで、私は笑いを噛み殺した。「当然だ、俺がラーデに決まってるだろう!」

 ドムリは今も昔も馬鹿な小僧だった。こいつがあの腹音鳴らしみたいないい戦士を倒してグルールの新しいギルドマスターになったなんて、今も信じられなかった。それにガン・ショクタがこいつに従っているってのも全く信じられなかった。それはそれとして、ドムリが皆を率いてここに来てくれたのはありがたかった。

 それはケイヤ様も同じで、不承不承お礼を言った。「感謝するわ」

「当然だろう!」ドムリは自分に浸って言った。その頃には、永遠衆のほとんどは破片になって地面に転がっていた。ドムリは鼻を鳴らして戦士たちへと叫んだ。「よし、お前ら。ここの遊びは終わった。次を探しに行くぞ!」

 グルールの戦士たちはドムリを追って道をひき返して、ガン・ショクタが最後尾についた。けど運悪く、永遠衆の一体がきちんと死んでいなかった。それは腕を一本失いながらも困った様子はなく、残った手で剣を掴んで飛び上がると、ガン・ショクタを後ろから突き刺そうとした。

 けど私以上に素早くテヨが動いた。片手を伸ばして小さいけれど固い光の球を、その永遠衆の後頭部へ投げつけた。それは勢いよく当たって、永遠衆は少しだけよろめいた。けどその音にガン・ショクタは気付いた。振り返ると、ちょうどテヨが相手に次の球を当てたところだった。

 そしてケイヤ様が迫って、二本のナイフで突いた。その永遠衆は死んで――けどまだそのことがわかっていないみたいだった。それはまだガン・ショクタへ剣を振るった。

 だから私はそれの肩に飛びつくとダガーを両目から頭蓋骨に深く突き刺した。それでやっと、その永遠衆は私の下敷きになって崩れた。

 ガン・ショクタは……顔をしかめた。この人は余所者に助けられるのが嫌い、それは知っていた。だから少し不本意な感じで、ケイヤ様とテヨへと低い声でお礼を呟いた。そして私を見ずに、背を向けるとドムリや他の戦士に追い付くために急いでいった。

「今のは誰ですか?」 テヨが尋ねてきた。

 私は肩をすくめた。「あの大男? ガン・ショクタ。私の父さん」


 というわけで、私達は今や集団で進んでいた。

 私とテヨ・ベラダ、ケイヤ様、ガン・ショクタ、オーガのゴヴァンとボバップ、アカマル。シェーザとジャディーラ(双子のヴィーアシーノ)、それと幾らかのグルールの戦士やシャーマンやドルイドが、今や全員ドムリ・ラーデに率いられていた。

 私達はまもなく永遠衆の隊列に突入した。そしてその戦いの途中で、敵は全員左のシミックと右のイゼットに挟み撃ちにされた。

「彼らは?」 テヨが尋ねてきた。

 私は左へ頷いた。「あれはシミック連合の軍。地形造りとか超人兵士とかマーフォークとか、率いてるのは生術師のヴォレルね」そして右を。「あっちはイゼット団の機械魔道士軍団――ああザレック様のギルドね――率いてるのはあの人の副司令官、マーレー侍従」

「そのマーレーさんはどの方です?」

「あのゴブリン」

「わかりました」

「あとで全員の名前覚えたか試験するからね」

 テヨは狼狽した視線を私に向けて、けどすぐにからかわれていると気付いた。そしておどけるように睨み付けてきた。

 この子、私にからかわれて嬉しく思ってくれたのかな?

 私達はその隊列をさっさと片付けて、ギルド三つ分の勢力になった。けど更に大きくなり続けた。

 また別の戦いから人員が、この時はプレインズウォーカーが加わった。ゼンディカーって世界から来たマーフォークのキオーラさん、アモンケットって世界から来たサムトさん。どうも永遠衆は全部そこ出身らしかった。

「あいつらをそっちの世界に閉じ込めておけなかったの?」 私はそう尋ねた、なるべく皮肉っぽく。

 けどその人は聞いてなくて、私の姿も見ていなかった。思うに、戦っては悼んで、悼んでは戦って、忙しすぎたんだろう。永遠衆を殺しながら、一人一人の名前を呼んでいた。きっと友達同士だった頃に知ってたんだろう(その悲しみ具合を見て、ヒカラのことを思い出さずにいるのは難しかった)。その人は一体を殺しては苦しそうに言った。「エクネト、もう自由だよ」そしてもう二体を。「テムメト、ネイト。もう休んでくれ」

 ヒカラが心のない、殺しの機械みたいな永遠衆になって現れたとしたら、私は殺せるのだろうか?

 それとも、殺される方が楽?

 その戦いが終わると、沢山の仲間に囲まれて私達は進み続けた。

 ケイヤ様は今もオルゾヴァに向かいたがっていた。

 テヨはキオーラさんを見つめていた、じろじろ見ているって気付かれないように努力しながら。

 嫌な考えを振り払うみたいにかぶりを振って、私はくすくす笑ってみせた。

 テヨが気付いて尋ねてきた。「どうしたんですか?」

「マーフォークを見たことないの?」

「ゴバカンに水は少ないんです」

 私は笑い声をあげて、イゼットの機械魔道士を指さした。「じゃあヴィダルケンは?」

「黒や茶や黄や褐色の肌の人なら知っています。けど青い肌の人を見るのは初めてです」

 もう少し笑って、私はジャディーラを顎で示した。「ヴィーアシーノは?」

「トカゲが成長したらヴィーアシーノになるのでしょうか?」

「鼠は?」

「ゴバカンにも鼠は沢山います。けどどれもあなたとは違いますね」

 私はもう一度笑い声をあげて、テヨの腕をなるべく優しく殴りつけた。

 ちらっとガン・ショクタを見ると、全然嬉しくなさそうにドムリのすぐ後ろを進んでいた。私の父親は腹音鳴らしに従っていた、長であり戦士として尊敬できる相手に。ギルドマスター・ラーデの副官みたいに振る舞うのはどう見ても嫌そうで、父はドムリの背中のダガーを見つめた。あのドムリは糞みたいな奴だって言ってあげたかった、すぐにグルールを支配できなくなるだろうって。けどその話に正しく持っていける自信がなかった。だから私はただ溜息をつくと、テヨとケイヤ様の間を歩き続けた。

 それはともかく、すぐに次の戦いがやって来た。

 敷石に覆われた丘へ向かうと、戦慄衆が高い所を占拠していた。

 ヴォレル氏が命令を叫んだ。「あいつらを追い払え! 全員だ!」

 マーレー侍従はヴォレル氏を見て、その命令について何か言おうとした。けど馬鹿ドムリがそこにグルールの悪口を無意味に浴びせると、叫びながら丘を駆けのぼっていった。「お前ら、来やがれ! 実験室のネズミどもに頭の叩き方を教わることなんてねえ!」

 マーレー侍従がどう思ったかはすぐにわかった。そのゴブリンはヴォレル氏と一緒にいるよりもと、馬鹿ドムリに続いた。

 そして、最高に統制のとれた攻撃ではなかったけど、それでもグルールとシミックとイゼットは揃って丘を駆けのぼった。ギルド間の仲に幾らか進歩が見られたような気がした。

 もちろん、私達もついて行った。私とテヨ、ケイヤ様、キオーラさん。サムトさんを探したけれど、もう先の方で戦っていて、声を上げていた。「ハク、カウィト。もういいんだ」

 丘の頂上に着くと、手の届く距離にもう二人のプレインズウォーカーが現れた。ファートリさんとサヒーリ・ライさん(名前は後で知った)、二人とも濃い肌の色をした女の人で、けど見た感じそれ以外に共通点はなかった。ファートリさんは武装していて、長い編み髪をくくって兜の下から伸ばしていた。背は低くて――私と同じくらいに――けど強そうな筋肉と鋭い目つきに固く口元を引き締めていた。ライさんは長く緩やかなドレスを綺麗な金糸で飾っていた。ケイヤ様よりも背は高くて、頭の上で髪を巻き上げているので更に高く見えていた。しなやかで優雅、両目に好奇心が溢れていて口元は微笑んでいた。

 全然違う二人だったけれど、明らかに友達同士なのはわかった。状況を把握しようとして二人は素早く視線を交わしたけれど、そこに立ったままでどちらの側につくべきか判断できずにいた。テヨはその無言の疑問に答えるみたいに、盾を張って永遠衆の斧がライさんの頭蓋骨を砕くのを防いだ。

「ありがとう」

「私からも」 その二人は続けて感謝を口にした。

 もう大丈夫だろうと、私は戦いに加わろうとする二人を追い越した。一体の永遠衆を倒した所で三人目のプレインズウォーカーが現れた。この人はどうやってか状況を知っていたようで、すぐに戦いに加わると魔法で永遠衆の一体を支配して他と戦わせていた。長い蜂蜜色の髪の女性で、青と白のフードの外套に、長く曲がった杖を持っていた。隣にいたキオーラさんに言った名前は確かカズミナ、いやカズミリだったかカズマゴリカとか何か……うん、最後のは違うね。

カズミナの変成》 アート:Uriah Voth

 つまり、私ですらこの時点で全員の名前を覚えるのは大変だったってこと。

 すぐにその人は見失ったけど、支配した永遠衆を使ってあちこちできちんと活躍していた。

 ファートリさんも、すごく的確に永遠衆を倒していた。

 そしてサヒーリさんが黄金の小鳥をまっすぐに永遠衆の額に向けて飛ばすと、それは頭蓋骨を貫いて後ろから出てきた。永遠衆はふらついて倒れた。私はその便利な機械の鳥を捕まえたくなったけど、それは全然速さを緩めずに、次々と永遠衆を攻撃していった。

 いいことばっかりじゃなかった。可哀想なボバップが一人で先に行きすぎていた。石の鎚でラゾテプの頭蓋骨を五つか六つ叩き潰したけど、すぐに永遠衆が群がって引き倒されて、誰かが追い付いて助けるよりも早く三十回くらいも刺された。

 シミックのシャーマンも――名前は聞かなかった――呪文を唱えるのに時間がかかりすぎて、首を切られてしまった。落ちる頭が息絶える前に最後の数語を何とか喋って、その人を殺した永遠衆は爆発してラゾテプと腐った肉の雨になった。

 これはちょっとやばくない?

 けれど戦いはもう終わりだった。私達は勝利して、永遠衆は一体すら生き残っていなかった――元から生きてないけど。

 皆、小休止して息を整えた――けどその時遠くで、けどものすごい音に全員が息を飲んだ。バリーン! って。揃って振り返ると、この低い丘からも、四体の巨大な永遠衆が世界の裂け目から現れたのが見えた。遠くの第10管区広場、そこに立つ塔にそびえるみたいに。

 私は唖然として呟いた。「うわ……でっか」

 サムトさんが苦しそうに呪った。

「あれは?」 ケイヤ様が尋ねた。

「私達の神」 サムトさんは苦々しく答えた。「けれどボーラスが殺したか殺させた。永遠神、今やあいつの下僕だ」

 ああ。なんてひどい日だろう、とすら言えなかった。永遠神。

 そして神の怪物がヴィトゥ=ガジーらしきものを引き裂くのを、私達は言葉を失って見つめていた。幾つもの意味で奇妙で恐ろしい光景だった。そもそもあの世界樹がどうやってセレズニアの領土から広場へ移動したのかもわからなかった。

 私はまた泣きたくなった。

 けどその時、馬鹿ドムリが実際嬉しそうに声を上げて、私は叩かれたみたいに驚いた。「ヒューッ! 見ろよ! あいつらヴィトウ=ガジーをやりやがった! セレズニアの意気地なしをわからせてやったんだ!」

 仲間の少年数人が頷いて同意を呟いたけど、他はただ唖然としてドムリを見ていた。

 ドムリは続けた。「グルールよ、俺達は違う側に味方してた。あのドラゴンは全部ぶっ潰してくれる。ギルドを! ラヴニカを! 俺達はずっとそれを望んでいたんだろ? ギルドが倒れたなら混沌が満ち、混沌が満ちる時、グルールが支配する! いいか? あのドラゴンと一緒に戦うぞ!」

 私は父がどう動くかを見つめることで、馬鹿ドムリの両目を刺してやりたい衝動をこらえた。ガン・ショクタは失望してはいなかった。ただ黙り、苦い顔をして睨んで言った。「ラーデ、お前はあの主人に仕えているのか?」

「相棒で仲間だ。仕えてるんじゃねえ!」

「お前はその違いがわかっていない。お前は一族の長ではない。あのドラゴンの手下だ。俺は腹音鳴らしの所へ戻る」

 馬鹿ドムリは何も言えずにいた。ガン・ショクタはそれを軽蔑とともに見下ろすと、背を向けて歩き去った。グルールの誇りで一杯になりながら、私はそれを見送った。

 うん、今日の私はグルールだった。

 テヨが私を見た。ガン・ショクタは娘にもっと気を配るべき、そう思ったんだろう。私は肩をすくめた。テヨはいい子、けどうちの事情を理解してるわけじゃないのだから。

 それはそう。かなり変な話だし、実際私はテヨにそれについて何も言っていないのだから。

 正直、誰かにこれを教えるのは慣れていないし、どう切り出せばいいのかもわからなかった。けれどテヨはそのうちわかってくれると思った。

 ともかく、馬鹿ドムリは一つ二つすねると声を上げた。「ガン・ショクタは忘れろ。あいつも意気地なしだ、今こそ俺達の時代だ、そうだろ?」

 ケイヤ様が言った。「ラーデ、あなたは愚かよ。ボーラスは取引相手として選んだ者に約束を守ったりはしない。あれが見返り無しに良くしてくれるって本当に信じているの?」

 けれど馬鹿ドムリはそれを無視して、何人かの戦士を率いて丘を駆け下りて広場へ向かっていった。「ドラゴンさんよ、助太刀してやるぜ! 一緒に全員ぶっ潰すぞ!」

 ケイヤ様は怒って、それを追いかけて連れ戻そうという気にすら見えた。私もあの馬鹿な舌を切り落としてやりたいくらい怒っていた。

 けれど丘の別側からまた永遠衆軍団が現れた。だから、皆で溜息をつくと、次の戦いに身構えた。


 私にその言葉は聞こえなかった――それは私みたいなのじゃなくてプレインズウォーカーに向けられたもの――けどベレレン氏の精神的接触が、水面を跳ねる石みたいに意識の表面を滑るのを感じた。

 けれどケイヤ様には、しっかり聞こえたのは間違いなかった。ベレレン氏が送り込んだものに取り乱して――少し苦しそうにしたくらいに――ミノタウルスの永遠衆に真っ二つにされかけた、すんでの所で私がケイヤ様を引き寄せた。

「聞こえました?」 テヨが混乱して尋ねてきた。

「聞こえたって何が?」 私はすぐそう答えて、その間にもミノタウルスの背中に飛んで、目を突き刺すために角に掴まろうとしたけど届かなかったので、首にダガー二本を突き刺した。

 私達は今もこの集団の中にいた。グルールは去ってしまった。何人かは馬鹿ドムリを追って、何人かは父を。けどシミックとイゼットの戦士は今も一緒に戦ってくれていた。サムトさん、キオーラさん、ライさん、ファートリさんも。

 牛頭の永遠衆は特に効いた様子はなかったけど、ケイヤ様から狙いを外すには十分だった。何にせよ私の狙いはそれだった。私は飛び降りてテヨの盾の後ろへ急いだ。

 混乱したそのミノタウルスはきょろきょろとして探した……私を。その間にケイヤ様は立て直すと幽体のダガーを使って永遠衆を永遠に眠らせた。

 不意に、また別のプレインズウォーカーが――黄緑色の皮膚をした大きなヴィーアシーノが――目の前に現れた。

「これは何……」 その言葉も終わらないうちに、女性の永遠衆が後ろからそのヴィーアシーノを掴んだ。武器は使わず、けれど続いたのは純粋な恐怖のショーだった。その化け物はヴィーアシーノの生命力を背中から抜き取ったように見えた、まるでイゼットの換気扇が炎を吸い込むみたいに。永遠衆はその炎を吸収して、ラゾテプの身体が眩しく輝いていった、少なくとも色が薄くなって――そしてラゾテプの殻にひびが入った。

 そのヴィーアシーノは命のない抜け殻になって倒れ、永遠衆は炎とともに内側から弾けた。そしてその炎が宙へと飛んで、まるで彗星みたいに第10管区広場とあのドラゴンへ向かっていった。燃え尽きた永遠衆は死んだヴィーアシーノの上に倒れた。まるで恋人同士が、最後に抱き合って心中するみたいに。

 ファートリさんが最後に残った怪物を倒したのは幸運だった。何故なら全員、すごい衝撃とともにそこに立ち尽くしていたから。

 そしてその時、ベレレン氏の精神的接触をまた感じた。顔をしかめるテヨを見ると、私の疑問を察したようだった。「ゲートウォッチのベレレンさんからです。『退却しろ、作戦を立てる必要がある。あらゆるプレインズウォーカーとギルドマスターに可能な限り接触し、アゾリウス評議会に集合。今すぐだ』……とのことです」

 新しい命令が来たってこと……


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