公正な話

更新日 Making Magic on 2013年 9月 10日

By Ethan Fleischer

Ethan Fleischer works for Magic R&D as a designer. He can sing, but not dance, and is an indifferent fencer. He lives near Seattle with his wife, three sons, and mother-in-law.

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 マジックのゲームとは、物語だ。最初はゆっくりと始まり、山や島、森といった場所を紹介していく。やがて主役が現れ、対立が起こり、そしてクライマックスに雪崩れ込む。やがて状況が解決されて、プレイヤーはデッキを切り直して新たな物語に臨むのだ。

 マジックの最新セット『テーロス』では、私たちは私たちの文化に存在する最古の物語、古代ギリシャの神話からヒントを得ている。それらの物語は驚くほどわかりやすく、西洋の物語が従っているテンプレートはここで作られたと言える。他の多くの古代文明にも物語はあるが、それらは動機が不明瞭であったり行動が奇妙であったりと、私たちの目には奇抜に見える。ギリシャ神話はそうではない。

イーサンというインターンの物語

 あれは私が弱冠35歳の若いインターンだったときのこと。私の上司、マーク・ローズウォーター/Mark Rosewaterは私に、次にデザインするマジックのセットは神話にまつわるものになる、と言ってきた。私は古いものが大好きで、特に神話には目がなかったので、非常に熱中した。調査こそ我が本分! 私は即座に書籍に当たった。

 私はギリシャ神話についての記憶を蘇らせただけでなく、マジックの歴史も掘り返していった。「ギリシャ神話の怪物や物語のうちで、何がもうマジックに取り入れられているのだろう? 軽くだけ触れられたものは何で、まったく使われていないものは何だろう?」と自問した。

 そして、私はこんな本を書いたのだ。

 正直なところ、そんなに大した本ではない。

 「マジックにおける古典神話」というこの本は大学の論文のようなものだが、違いはハイドラやミノタウルスの絵が含まれていて、一般向けに再版する予定はない。興味がある向きのために、軽く内容を触れておこう。

  • 古典文学のテーマ:『テーロス』ブロックのストーリーラインに使えるひらめきを提案している(悲劇、トロイ戦争、ペルシア戦争など)。
  • 古典神話の特徴は?:ギリシャやローマの神話と、エジプト、バビロン、ユダヤ-キリスト教の伝統的な神話などとの違いについて語っている。同時に、有名なギリシャ神話の神々(ゼウス、アテナ、ヘルメスなど)とそれらを表しうる色の組み合わせについても論じている。
  • マジックに存在する古典神話の怪物:バジリスクから狼まで、既にマジックのカードになっている神話の怪物の用語集である。各怪物についての解説もまとめてあり、それらが何枚のカードになっているかも書いている。
  • 新しいクリーチャー:神話の怪物の中でマジックのカードになっていないものを挙げている。この後詳解する。
  • マジックの代表的クリーチャーを古典に当てはめる:天使、デーモン、ゴブリン、ゾンビなどのマジックによく出てくるクリーチャーをギリシャ神話に当てはめる方法について論じている。

 この文書を書いてから、私は中綴じの冊子を少数だけ作成した。(本屋だったって?) マークと私はその本を使い、社内の様々な部署に『テーロス』はどんな方向になるのかを説明した。そしてこの本はデザイン・ミーティング中の手軽な参考資料にもなったのだ。

 この物語の終わりは? うん、ウィザーズが私をマジックのカードをデザインさせるためにフルタイムで雇ったということかな。『テーロス』のデザインが終わった時には、もう私はインターンじゃなかったんだ!

新しいクリーチャー

 上であまり説明しなかった部分が「新しいクリーチャー」だということに気付いていることと思う。これまでマジックのカードになったことのない神話の怪物を描いている、私のプレビュー・カードの驚きを台無しにしたくなかったのだ!  そう、それが――


 元ネタの物語では、百手巨人は原初の巨人で、50の頭と100の腕を持ち、タイタンやサイクロプスと同種の存在だった。これらのクリーチャーはオリンピアの神々が誕生するよりも前に存在していたのだ。ゼウスが彼の暴虐な父にしてタイタンの指導者たるクロノスに反逆したとき、彼は強力な百手巨人とサイクロプスの助力を受けたのだ。

 百手巨人は神話の怪物の中でも私のお気に入りの1つなので、私はそれをこのセットに入れたいと思っていた。早いうちに、私は自分で満足できるような百手巨人のカードをデザインした。それはさらに99体のクリーチャーをブロックできるもので、つまり合計100体、手1本あたり1体をブロックできるのだ。マークはそれをセットに入れて、後にケン・ネーグル/Ken Nagleが怪物化メカニズムを作った時に、我々はこの百手巨人を怪物的にして、他の大型クリーチャー群と似合うようにしたのだ。

 『テーロス』のデザイン中に、我々は神河ブロックの失敗に非常に注意を払っていた。神河ブロックには、マジックのプレイヤーのほとんどにとっては意味のわからない存在である神道由来のクリーチャーを表すカードが大量に入っていたのだ(訳注:当時イーサンはまだ開発部に所属していなかったので、この部分は伝聞によると考えられます)。芳醇たろうとして作られたこれらのカードは、実際のところ、ほとんどのプレイヤーにとっては芳醇ではなかったのだ。『テーロス』は、マジックのプレイヤーの多くが神道の神話よりも親しんでいるギリシャ神話を使っているという利点があるが、それでも古典神話に対して平均的な馴染みを持つだけのほとんどの人々にとって理解できない、本当に些細なことをテーロスに取り入れてしまい「掘り下げすぎ」になる可能性はやはり高いのだ。

 私たちは必要以上にこれを直そうとは思っていない。プレイヤーの中にいる神話マニアを喜ばせるような、比較的些細な参照はある程度必要である。そこで我々はブロックの中に、高いレアリティにそれらを散らばらせることにした。この程度の露出なら、人々はそれらに出会って楽しんでくれるだろうし、このセット全体が理解できないものになってしまうことはないだろう。

壮大さの仄めかし

 私たちの最初の取り組みは、『テーロス』の神話テーマを『イニストラード』のゴシックホラー・テーマと同じ方法でデザインするというものだった。当該のジャンルを定義づけるものを決め、その定義を表すメカニズムを作る。そして、そのジャンルでよくあるものを描くカードを作る。リード・デザイナーのマーク・ローズウォーターはその前者を達成した。後者は私たちが想像していたよりもずっと難しかった。ホラーと違い、神話にはお約束のネタというのが多くはない。よくあるものが存在しないわけではないが、《終わり無き死者の列》や《夜の衝突》、《金切り声のコウモリ》のようなカードを大量に作ることはなかった。そういうカードでセットを埋めることはできなかったのだ。私たちができたのは、神話の物語を仄めかすようなカードを作ることだった。

 例えば、〈豚の呪い〉はホメロスのオデュッセイアの物語の中の、魔女キルケがオデュッセウスの船員を豚に変えてしまうシーンを描いている。〈死の国からの救出〉は、オルフェウスが花嫁のエウリディーチェを救おうとハデスの領域に赴いたことや、ヘラクレスが死の国の魔法の椅子からテセウスを救ったことを連想させる。〈永遠の炎のタイタン〉は、人類に火の秘密を教え、隠された技術を敵に広めたことで神々に罰せられたタイタンのプロメテウスを描いている。

お約束の光

 ギリシャ神話のお約束3つから、「神」「英雄」「怪物」という『テーロス』ブロックの3つの重要なメカニズムができた。

 神は重要なギリシャ神話において特に突出して描かれている。彼らは弱点があり、人間の嫉妬心を持ち、一方で自然の力を超える強力な不死の存在である。我々は神々をメカニズム的にエンチャントと関連させることにし、信仰心を表すために信心メカニズムを作った。神カードは、充分な信者がいないかぎり、攻撃したりブロックしたりできるクリーチャーとして物理的に存在することはない。

 神話において、英雄というものは定命の者と神との協力によって生まれるものである。神々のちからの一端と、感情面での不安定さを持つ。神々はしばしばその子孫の運命に興味を示し、干渉してくる。私たちはゼウスの好色劇をマジックのカードで描こうとは思わないので、ここでの英雄は神々が特に興味を示した定命の存在ということになった。神々の贈り物であるオーラは、英雄に与えられた時にこそ本領を発揮する可能性があるのだ。

 辺境の地を荒らし尽くす怪物の物語は神話にはつきものである。やがて、都市国家の王は強力な英雄を、怪物が全てを荒廃させる前に倒すという不可能と思える危険な任務に送り出す。このセットの怪物は特に巨大で恐ろしい姿で現れるものにしたかった。怪物化能力は喫緊さを描いている。より大きな問題になる前に、獣を倒すのだ!

提示

 デザイン上の困難に打ち勝つ物語はこんなものだ。私たちは社会における物語の伝統をゲームプレイ上の経験に写し取った。私は、私たちが作ったセットの中でも最高のものの一つになったと信じている。

 今後も『テーロス』のプレビューをお楽しみに!


(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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