百段の階梯

更新日 Magic Story on 2013年 5月 31日

By Adam Lee

Adam Lee had a long freelance career as a writer and artist in the greeting card industry before coming to Magic's creative team. He grew up in the commune-laden wilds of Northern California in the 70s and his Guild Quiz result was Selesnya. "Be groovy, people."

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 彼らは追い詰められていた。

 ジェックはその鍵が重要なものだとは知っていたが、それを取り戻すためにディミーアがどれほど執拗に追ってくるかを理解していなかった。今、彼と妹のヴィニは小さな貸家の壁の内でうずくまっていた。二人とも、助けは来ないとわかっていた――第九地区のこの奥までは。自力でどうにかするしかなかった。

 暗く狭い空間を貫く陽光の柱に照らされ、埃が舞っていた。ジェクの隣にはヴィニがおり、その表情には怖れと希望が入り混じっていた。その外では狂気のアルビノと彼のよじれた子分が、狂犬病にかかった犬のように涎を垂らしていた。ラクドスの快楽殺人者達。ジェックはアゾリウスの学院を出たばかりだったが、このような状況に対する準備は教授から教わっていなかった。

 ジェックは流血の家の悪漢の一団を容易く――とても容易く――始末していた。その後でジェックは、彼らがアゾリウス魔法を消耗させるために使い捨てられた生贄の豚でしかなかったと気がついた。

 今、そのアルビノは本当の仕事をするためにやって来ていた。

「ジェック、ジェック、ジェック、ジェックよォ!」 そのアルビノは皮剥ぎナイフを床から引き抜きながら叫んだ、裂けた木にぎざぎざの跡を残して。「出てこい、出てこォい!」


 とげの道化はかん高く笑って側転をした。彼が壁を切り裂いて破ると、漆喰と埃が降り注いでジェックの鼻と目を細かい塵で満たした。ヴィニは反射的に竦んで耳を手で塞いだ。ジェックは焦った。アルビノが狂犬に彼らの存在を嗅がせるのは時間の問題だ。移動しなければ。今すぐに。そのアルビノの嘲り声の下で、ジェックは慎重にヴィニへと寄って耳元へと囁いた。「ヤツはきっと犬を連れてくる。ここから動かないと駄目だ」


 ヴィニは頷いた。彼女は兄が大好きだった。彼が学院から戻って来た時、兄ほど素晴らしい人物はラヴニカにはいないと思った。彼は神聖術士――人々と法の護り手――となるべく道を歩んでいた。そして彼女は兄の後に続きたいと願っていた。

 きっと助かる。ジェックがここから助け出してくれる。

 ジェックはゆっくりと小剣を抜き、そして刃にアゾリウスの印章が彫られたダガーを手にすると、それを妹の手に持たせた。ヴィニはその革張りの柄を指で握りしめた。それは重く危険に感じたが、少しだけ気分を楽にしてくれた。彼女は口を真一文字に結んで頷いた。ジェックは深呼吸をすると壁の裂け目の後ろで待ち伏せた。その瞳は細い光の柱にきらめいていた。

 とげの道化は大喜びで暴れていた――危険だが、でたらめだった――だがさっきのアルビノの姿が見えなくなっていることがジェックの気がかりだった。この時を利用しなければ。ジェックはゆっくりと壁板から後ずさり、呪文を囁いた。音を立てる青いエネルギーが弾け、とげの道化をアゾリウスの印で拘束した。


 その道化は何か罵倒をしようと口を開いたが、ジェックの靴がその頭にめり込み、帽子の鈴を鳴らし数本の歯を折った。道化は部屋の反対側まで吹っ飛び、壁際に崩れ落ちた。ヴィニは扉へと走り寄り、ジェックが部屋に押し入ってきたもう二人の鎖歩きを切り裂き、そいつらを打ち倒すのを待った。ジェックとヴィニは滑りやすい玉石の道を駆け、角を曲がった。だがそこにはオーガの巨体が立ちはだかっていて、二人の逃げ道を塞いでいた。ジェックは急角度で曲がり、肩で扉を押した。脇柱が裂け、ジェックはヴィニを中へと押し込んだ。オーガの手の鎖が唸り、ジェックの肩を捕えた。彼の剣が小路の地面に落ちて金属音を響かせた。棘のついた鎖がもう二本その後に続き、ジェックを切り裂いて巻きついた。彼はもがきつつ地面に倒れながらも、剣へと手を伸ばした。


 視界の隅に彼は、蛇のような色白の拳がヴィニを殴りつけ、彼女が敷居の上に弾き飛ばされるのを見た。影から、ジェックは狂気のアルビノがにやにやと上機嫌な悪意を浮かべて笑うのを見た。そいつはヴィニを踏みつけて無頓着に彼の剣を拾った。

「ジェック、ジェック、ジェック、てめえご主人様がお望みの品を持ってるよなァ」 アルビノはささやいた。

 ジェックは青いエネルギーの稲妻をアルビノへと放ったが、それは立ち消えてポンとはじけた。大気はオゾンの臭いが立ちこめ、アルビノは憤慨と疑惑にあざ笑う表情をした。

「おおーゥ? 何したんだァ?」 ジェックが外套と肌を裂きながらオーガの鎖から逃げようともがく中、アルビノは彼の周りで踊った。「そのチンケな呪文、何ヶ月も練習してたんだったよなァ」 そして銀の蛇のように素早く、アルビノは皮剥ぎの刃をジェックの無力な身体に突き立てた。

「あァー、痛いかなァ?」 アルビノは膝をつき、ジェックの顔へとささやいて嘲った。「だよなァ」

「もう一人もやっちまいますか、ボス?」 オーガが尋ねた。

「そのガキはどうせ何も出来や――」 アゾリウスの印章が彫られた細い刃が、銀の舌のように狂気のアルビノの喉元から現れた。青白い皮膚から真紅の血が噴き出た。力の抜けゆく膝でなんとか立ち続けようと苦戦しながら、アルビノの気取った自信は驚愕へと変わった。彼は笑おうとしたが、出て来るのはゴボゴボという湿った声だけだった。彼は開いた傷を麻痺した指で掴んだ。アルビノはヴィニの足元に、顔面からどさりと崩れ落ちた。

 オーガは驚いた様子で素早く鎖を集めようとしたが、それはジェックの身体に絡まっていた。ヴィニは兄が最期の力を振り絞り、弱々しく呪文を唱える声を聞いた。彼女が手にしたダガーから青い炎が爆発した。脈動する波がオーガを打ち、その膝を拘束した。ヴィニは屈服したオーガへと突進し、その粗暴者がピクリとも動かなくなるまで、ダガーを突き刺し続けた。


 ヴィニはジェックへと駆け寄ると隣に跪き、彼の頭部をそっと抱きかかえた。彼女が何かを言わんとすると、ジェックは弱々しく片手を挙げ、そして自分の上着の中を探った。

「ヴィニ、これを。証拠だ。ハロックさんに、渡してくれ」 ジェックは華麗な鍵を妹に手渡した。それは冷たく、ディミーアギルドの印章があった。ジェックの呼吸は言葉の間の不規則な喘ぎになった。「ジェーレン塔へ行くんだ、神聖術士の学院に。すぐにお前の面倒をみてくれる筈だ」

 ヴィニは涙を拭った。「ジェック兄さん」

「強く生きてくれ」 ジェックの手が地面へと滑り落ちた。彼の目はゆっくりと焦点を失い、今わの際の息が漏れた。

「ジェック兄さん」


 ヴィニは血まみれのまま、乱れた髪も直さず、そして悲嘆に暮れながら第九地区の危険な道を踏み締めて進んでいった。だが彼女の内なる何かが変わり始めていた。彼女の内で、一本の鋼のばねがゆっくりと、情け容赦のない決断へと解かれていった。それは彼女を堅固にし、剃刀の刃のように彼女の意志を強めてくれるものだった。

 誰も、私の道を、邪魔、させない。

 彼女は路地や横道を進んだ。涙が頬を流れ落ちていた。彼女は心のどこかで、歯の抜けたラクドスのごろつきへと突撃したいと思った。特に、自分を簡単な獲物だと考えるような奴に。彼女はそのごろつきの喧嘩腰の顔面へと、自分の苦痛全てを叩きつけることを思い浮かべた。そのイメージに支えられ、彼女は危険な道を進み続けた。第九地区の外へ。

 彼女は遂に百段の階梯の足元へと辿り着いた。第九地区の外へと続く出口、古の石造りの階段。ヴィニは階段をゆっくりと上っていった。まるで一歩ごとに、かつての彼女を――弱さ、不安、疑いを――置いていくようだった。一歩ごとに、彼女はもはや役に立たない古い自分を捨て去っていった。一歩ごとが鎚の一打ちであった。精神的な炉の中で、その精神が目的と清明さで輝きを増すほどに、彼女の意志は確かな形をとっていった。彼女はギルド無所属の住処から、アゾリウスのギルド門が目の前にそびえる階段の頂上へと昇っていった。その向こうには新プラーフへと続き、アゾールの公会広場を終点とする、広い大通りが何マイルもの長さで伸びている。


 彼女は階段の最上段に立ち、古の門の敷居をその向こうへとまたいだ。彼女はもう子供ではなかった。何マイルも離れていても、彼女はアゾールの公会広場の力を感じることができた。それは彼女を呼んでいた、何百万ものアゾリウス民が彼女のその名を唱えているように。まるで彼らが語り尽くせぬ年月の間、この瞬間を待っていたように。

「みんなの期待、絶対裏切らないよ」 彼女は皆へと言った。


 太陽は昇ったばかりだった。

 新プラーフの巨大な塔は陽光を受け、白い炎のように輝いていた。ヴィニはジェーレン塔を過ぎ、つい昨年まで兄が学んでいた神聖術士アカデミーも通り過ぎた。彼女はまっすぐにリーヴ塔を目指していた、法を執行する者達の募集所へ――ラヴニカの最悪の事件を捜査し、無法の者達の喉元を掴む人々の。彼女は最も厳しい訓練を、最も恐ろしい教官を、最も精鋭の隊を望んだ。そして何よりも、最も危険な地区へと割り当てられることを望んだ。

 彼女はリーヴ塔の背の高い扉をくぐり、巨大な大理石の広間を大股で横切り、第三階層へと階段を上ってまっすぐに入会事務所へと向かった。志願者と助手達の列は本能的に道をあけた、まるで彼女の意志が彼らを押しのけたように。

 彼女は血まみれのダガーを机に叩きつけ、受領事務員の目を見て、部屋中に響く声で言った。

「ラヴィニアといいます。拘引者になりたいんです」


(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)


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