ニッサの探究

更新日 Magic Story on 2015年 9月 23日

By Kimberly J. Kreines

Kimberly J. Kreines is a creative designer new to the Magic team. But neither playing Magic nor writing are new to her. She has a penchant for dragons, the Oxford comma, and chicken tikka masala. In her opinion, all three are equally delightful.

前回の物語:血の記憶

 ニッサはかつてない程ゼンディカーの力に、そして世界の魂に寄り添っていた。彼女は目覚めし世界、アシャヤと名付けた樹木のような聳え立つエレメンタルと――彼女の友を通してそれに繋がった。そして大地そのものがニッサの存在に応え、彼女の力を増大させ、彼女の存在の延長のように動き、エルドラージとの戦いに力を貸した。だがその全ては突然引き裂かれた。ゼンディカーの魂は彼女から奪われ、今手を伸ばしても、もはやそこにはない。ニッサはほぼ無力かつ孤独に取り残され、エルドラージが――ことによると巨大エルドラージが――ゼンディカーの魂に何かをしたに違いないと信じている。ニッサはエルドラージによって消し去られた木々の種の束を持ち運んでいるが、その重さを感じている。彼女は世界に約束した、これらを再びゼンディカーに、安全に植えるまでは足を止めることはしないと。だが今、周囲の者達が世界を救うための戦いに赴く準備をする中、ニッサは自身を取り囲む空虚を感じている。そして心配している、彼らは既に手遅れなのではないかと、救うべき世界はもう残っていないのではないかと。


 それは他の時間よりも黄昏時によく起こった。長く、黒い姿が動く。一本の枝が伸び、もしくは曲がる。ニッサはそれを視界の端にとらえ、確かめる――その瞬間だけ、鼓動一つ分だけ――それはアシャヤだと、ゼンディカーの魂がエレメンタルとして顕現した姿が戻ってきたと、戻ってくるだろうと彼女が思っていた通りに。

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目覚めし世界、アシャヤ アート:Raymond Swanland

 だが次に彼女は頭を向ける。どうして、常に頭を向ける必要があるのだろう? そして見るのだ、それはただの木だと、ただの風だと、沈みゆく太陽が投げかけた、ただの長い影だと。彼女の息遣いは通常に戻り、心臓は再び落ち着いた鼓動を打ち、そして彼女は一人取り残され、脚を組んで固い地面に座っている。ゼンディカーが彼女から引き裂かれたあの時と同じ、絶壁の上に。

 ニッサはそこで見張りを続け、毎日そこに戻って座り、大地に触れ、そしてゼンディカーの何かの兆候を捜した。それを奪ったのは、もしくは追い出したのは、傷つけたのはエルドラージの巨人だと彼女は確信を抱いていた。彼女はかつて見たことがあった、ある巨人がゼンディカーを傷つける様の恐ろしさを。だが彼女は考えた、もしそれが戻ってくるのなら、失われた場所へと戻ってくるだろうと――そして彼女は信じている、信じたかった、戻ってきたなら自分を探すだろうと。その時のために、ここにいるべきだろう。彼女はずっとそこにいた、友のために。

 だがニッサが呼びかけても、見つかるのは空虚だけだった。砕けた殻の欠片だけだった。ゼンディカーは決して戻ってこなかった。その抱擁と出会えるはずの場所で、彼女は凍り付くような、夜が更けるごとに骨身に沁みるような寒気に出会った。

 その暗闇と冷気は、近くの柳の巨木の上に戻る時間だと彼女に告げていた。もし自分がここで眠り込んでしまい、真夜中にエルドラージに食われてしまいでもしたら、それはゼンディカーにも、他の誰かにとっても何も良いことにはならないだろう。

 夜毎、彼女は空岩へ戻ることを考えた。そこには惹かれるものがあった。ギデオンの空偵がもたらす安全と、そしてその難攻不落のプレインズウォーカー自身の守りの力は言うまでもなく。だがその誘惑は不都合には勝らなかった。もし他の者が再び自分に会ったなら、もう一度説明しなければいけないだろう――そして懐疑的な顔と疑問に直面するだけだろう。傷ついた心をさらすことになる、それは耐えられなかった。

 彼女はそれを皆に説明しようとした。全員に。それをギデオンに説明しようとした、そして後に彼の友人でありプレインズウォーカー仲間のジェイスにも。彼女は二人に、ゼンディカーの魂に何か恐ろしいことが起こったと語った。それは彼女から引き裂かれた。彼女は友を失い、大地を流れる圧倒的な力の泉への到達手段を失ったと。

 だがジェイスもギデオンも、更に他の者達も理解した様子はなかった――とはいえジェイスは少なくとも、彼女の「世界の認識」へと興味を抱いた。彼はそう呼んだ。だがそれは、認識ではなかった。ゼンディカーの魂は本物だった。他の次元の魂と同じように……ニッサはそれらを感じたことがあった。ローウィンの魂と交感したことすらあった。だがそれは言葉で説明できないわけでもないが、難しい物事だった。世界が魂を持っているという考え方は全く馴染みないもので、他者にとっては一人のエルフの「認識」と決めつけて真実を跳ねのけるのは簡単なことだった。

 ニッサはギデオンやジェイス、他の者を責める気はなかった。彼らは自分のように見ていないだけなのだ。彼らがゼンディカーを見る時は、木々、岩、茨、獣、川、山を見る。だが彼らはそれらの物事それぞれを別個の、そして繋がっていない要素として見る。彼らはその下にある繋がりを知覚していない。この世界に生きるもの全てを繋げる力強い線が見えていない。脈打つ心臓が鼓動ごとに力を送り出す、動脈の連結網のようなそれを。彼らはに囁き、叫び、笑い、時には苦痛に叫びさえする、世界の声が聞こえていない。彼らにはゼンディカーがどれほど真に生きているかが見えていない……もしくは、生きていたかが。

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ゼンディカーの乱動》 アート:Sam Burley

 それはもはや無かった。

 今ニッサが世界を見ても、彼女もまた折れた枝を、落ちた葉を、棘が密集したもつれた茨を見るだけだった。彼女はもはや全てを見ることはできなかった。一体性を感じることはできなかった。友の声も聞こえなかった。

 周囲の世界の鈍さが現実となって悲鳴を上げた。それは彼女の記憶を夢のように、一人のエルフの非現実的な認識のように感じさせた。

 もしその夢が真だったとしたら、それはもはや現実ではない。

「あなたは、本当にいなくなってしまったの?」 ニッサはそれを信じたくはなかった。それは真実ではないと彼女に告げる何かがあった。それでも……彼女は手を下ろし、指を伸ばした、地面に向けてとてもゆっくりと。彼女は息を止め、泥に触れた。

 だがそれは……ただの泥でしかなかった。

 もしゼンディカーの魂が失われてしまったのなら、もしエルドラージの巨人がそれを殺したのなら、この泥の全て、茨の全て、枝、獣も、すぐに失われてしまうだろう。魂なき世界はもはや長いこと世界ではいられない。

 もう片方の手を胸にあて、ニッサは種を包む絹を掴んだ、あの吸血鬼がこれを渡してくれたのは、もう何年も前のことのように思えた。もし今がゼンディカーの真の終わりなら、この種はあの吸血鬼が言っていた通りのものになる……世界が耐える最後の希望。別の次元で。

 ニッサはこらえたが、喉の背後から暖かな塊が頬まで上がってきた。彼女は目を閉じ、一粒の涙が頬を流れ落ちた。

 彼女はその種を固く掴んだ。自分はあの吸血鬼は間違っていると証明する、そのつもりだった――いや、自分とゼンディカーが共に、あの吸血鬼は間違っていると。ニッサはその種に約束した、これが生まれた世界の土に植えると。世界が安全になったなら、エルドラージの脅威が消し去られたなら。そして種は高く成長し、強い木々となってゼンディカーの魂とともに生命を編むのだと。

 だがゼンディカーの魂は消え去った。消え去った。それを確かめるために、あと何度虚空へ手を伸ばせばいいのだろう?

 それは失われた。彼女はその言葉を心に押し付けた。ゼンディカーは失われた!

 彼女のどこかが今も、それを信じようとしなかった。

 彼女は全ての証拠がわかっていた。見てきたもの全て、感じたもの、耳にしたものが言っていると、それは真実だと。だがどこか彼女は信じられなかった。

 ニッサは目を開けた、長い影を投げかける薄明りの世界へ。この夜、そのどれもゼンディカーではなかった。だがある夜、その一つはそうなるかもしれない。もしそれが戻ってくるというのなら、世界の魂が戻って来るのは、きっとここに。

 だから、彼女は留まった。

「にげて!」背後からゴブリンの甲高い声が上がり、ニッサははっと驚いた。

 本能的に、彼女は飛び上がって剣を抜いた。

「にげて!」 ゴブリンが叫んだ。それは彼女へと転がるように向かってきた。その後ろ脚が片方折れているように見えたが、速さはかなりのものだった――もしくは部分的に切断されているのかもしれない、ニッサにはわからなかった。「にげて! はやく!」

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地割れの案内人》 アート:Johannes Voss

 ニッサが横に避けると、そのゴブリンは追い抜いた。

 そして、遠くに、彼女は走る群れを見た。少なくとも三十体以上のエルドラージがいた。小型で、木の切り株ほどもなかった。動きはあまりに速く、怪物それぞれがその脚にぼんやりとした塵の雲を伴う、固く骨ばった昆虫のようなものに見えた。

 それらは素早く森を突っ切って、まっすぐに彼女へと向かってきていた、まっすぐに森の空き地へと――ゼンディカーの空き地へと。

 彼女はこの場所に怪物どもが触れさせるわけにはいかなかった。草の一片すらも荒廃させるわけにはいかなかった。

 彼女は剣の柄を固く握りしめた――それは唯一の武器だった。それで十分だった。十分にする。彼女は踏み出し、貴重な大地の一片と怪物との間に立った。

 それらは臭いが感じられるほどに近づいてきた。

 気分が悪くなるほど肉々しい、小走りの生物。それらは決してゼンディカーの一体性を構成する一部ではなかった。

 その群れの先頭はニッサへと進路を定めた。

 ここに起こった苦痛と破壊は全て、それらが与えた傷だった。

 怪物達は攻撃範囲に入った。

 ニッサは剣を振るった。

 鋼が最初のエルドラージの骨板に当たり、ニッサは力を込めてその下の筋肉を貫き、その小型の怪物を真っ二つにした。

 一瞬後、彼女は旋回するとともに体重を移動させ、二番目のエルドラージの頭に剣を突き刺した。

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精霊信者の剣》 アート:Daniel Ljunggren

 ニッサはこの生物どもを憎んでいた。

 その首を潰して頭を弾けさせるほど憎んでいた。

 彼女は取り囲んだ軍勢を切り裂き、叩き切った。それらは追跡していた獲物のゴブリンを忘れてしまったようだった。よし。あのゴブリンを追って空き地を通過させる理由はない。

 ニッサは円を描いて旋回し、剣を振るい、のたうち這う脚から少なくとも四つの身体を切断した。

 一体が彼女の脚によじ登った。それは素早く登り、彼女のスカートの繊維を引き、その鋭く尖った脚先を彼女の皮膚に突き刺した。

「離れて!」 ニッサは怪物の骨ばった背中を掴み、その脚を自身の腿から引きはがした。彼女はかなりの力を込めてそれを近くの木へと放り投げると、怪物は叩きつけられてその骨板が砕け、内部組織が木の幹に散った。

 その怪物が幹を流れ落ちる様子を見る余裕はなかった。更に何十体といた。

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大群の殺到》 アート:Svetlin Velinov

 もしアシャヤがいてくれたなら、あのエレメンタルは巨大な脚一つでそれらを踏み潰しただろうに。群れ全体を腕の一振りで始末しただろうに。

 もしゼンディカーの力の泉に手が届くなら、彼女は地面から巨大な壁を呼び出してそれらを遮り、一息の間に全てを潰してしまえただろうに。

 だが今まで通り、彼女はただ一人で、手にしているのは剣だけだった。彼女は柄を短く持って再び振るい、なお振るい、更に振るった。

 それは果てしなく襲いかかり続けるように思えた。

 一つの警告が彼女の心の隅に引っかかった。ここ数日、エルドラージに対峙する度に意識の隅に踊っていたものが。もしエルドラージを倒せず、逃げることもできないとわかったなら――去るべきだと。その荒廃に触れられる前に、プレインズウォークして逃げるべきだと。ポケットに入ったこの種を、白亜の塵にさせてはいけない。もしそれがゼンディカー最後の希望であるのなら。

 彼女の内の緊張が高まり、身体の端が疼くように痛んだ。彼女の身体は次元渡りの準備をしていた。あとはこの世界から、この場所から手を放すだけ。そうすれば離れられる。

 だが離れることはつまり、終わりを意味するだろう。

 そしてニッサはこれを終わりにはしたくなかった。今はまだ。

 彼女は近くのエルドラージ二体を刃で突き刺し、その二体の胸を串刺しにした。同時に彼女は三体目を脚で蹴った、だが群れの密度は増すばかりだった。

 刺すような痛みが強まった。ニッサの本能が告げていた、これは簡単に勝てる戦いではないと。

 彼女は四体目を宙返りで避けると五体目の裏側を殴り、その反動を利用して近づいてきた更に三体へと飛びかかった。

 震えは頻繁な共鳴となって身体に響き、それは彼女の胃袋の底に引っかかった。

 まだ。今じゃない。

 まだ勝てる。彼女はもう二体を叩き切った。

 そしてもう四体を。

 だが更に八体に囲まれた。

 彼女はポケットの種の重みを感じた。

 本当にいなくなってしまったの?

 答えはなかった。勿論、答えはなかった。

 彼女は肩越しに空き地を振り返った。

 その時、風を裂く音と金属音とともに、鉤つきの鎖が彼女を追い越して、飛びかかってこようとしていた――彼女はそれをたった今見た――エルドラージの一体に突き刺さった。

 鎖が戻り、鉤が引き抜かれた。ニッサがその先を追うと、逞しい幅広の胸のコーがいた。彼は両手それぞれに鉤を手にしていた。面晶体模様の刺青がその腕と額に輝き、固い表情と顎から太い草のように下がる髭の束を照らしていた。「こいつらは引き受ける。右を頼む」

 ニッサは頷き、注意を彼女の左の数体に向けた。五体だけだった。これなら対処できる、エルフ一人の力でも。まだ終わりではない。彼女は自身の存在の端から気短な刺す痛みを押しやった。この世界を離れる必要はない、今夜は。


 エルドラージが全て対処されたところで、彼女とそのコーは息をついた。彼はニッサへと向き直り、その鉤からエルドラージの体液を拭った。「ここを通り過ぎていったゴブリンを見なかったか?」

「あっちへ行ったわ」 ニッサは空き地を越えた側の木々を指さした。美しい、荒廃のない空き地を。

「つまり、あのゴブリンが今の群れを連れてきたということか」

 ニッサは剣を収めた。「そういうことね」

「あいつには警告していたんだ、あの分厚い頭蓋骨どもの間を抜けるにはゆっくり進めと。全くゴブリンというのは、一体何度言えばいいんだ?」 そのコーはニッサが示した木々へ、ゼンディカーが倒れた地へとまっすぐに歩いていった。だが彼はゴブリンが残した痕跡がわかったようには見えなかった。彼は既に進路をそれていた。

「ゴブリンは『ゆっくり』の意味を理解できないんじゃない?」 ニッサは言った。「足跡ならこっちに」 彼女も空き地を横切った。この荒廃していない地面に足を踏み入れられることに、感謝しないわけがなかった。彼女はゴブリンが傷を負った脚を引きずって駆け抜けていった、込み入った下生えを指さした。「わかる?」

「ああ、本当だ」 そのコーは言って、進路を修正した。「両方あるな。君はギデオンの野伏の一人なんだな」

 野伏。ニッサは恐らくとても長いこと、自身を野伏だと考えたことはなかった。自分は精霊信者であり、自然魔道士であり、ゼンディカーの一部。だが野伏ではない。だが今、自分は唯一そう名乗れるのかもしれない。「そんなものね」 彼女は言った。

「君のような者が哨戒に出ていたとは、ギデオンは幸運だ」 そのコーはゴブリンの足跡を追いながら言った。「ピリも野伏なのだが。彼女が君のような……素晴らしい技巧であの群れを対処できるとは思えない」 彼は微笑み、輝く面晶体の刺青がその鋭い容貌を照らし出した。「私はムンダ、ギデオンの部隊長の一人だ。いつもならはぐれたゴブリンを追うなんて事はないんだが、今夜は貧乏くじを引いてしまってね」

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待ち伏せ隊長、ムンダ》 アート:Johannes Voss

「あら」 ニッサは言った。そのコー、ムンダはまたも僅かに進路を逸れた。足跡を追うのは難しかった。二人は今、柔らかな泥や葉よりもずっと足跡が残らない固い岩の地面を進んでいた。「左よ」

 ムンダは進路を修正した。

 ニッサはピリの追跡に力を貸すことに同意した覚えはなかったが、今は、彼女は再び野伏となった。

「あいつは新入りと一緒にやってきたんだ」 ムンダが言った、迷子のゴブリンを指すように顎で前方を示しながら。「癒し手が彼女を治し、意識を取り戻すとすぐに暴れだした。あの子の友達らしい。リーク、別のゴブリンだろう。私が理解できた範囲では、二人は海門で離ればなれになったようだ。彼女は石灰平原を横切るドージルの遊牧民に拾われたが、別のゴブリン、リークはどうやらはぐれたらしい。だがあのピリは、そいつはまだそこいると思い込んでいた。私は言ったんだ、海門には何も残っていないと」

 ニッサは知っていた、それはまるで、誰も理解できない何かを感じているようだと。

「君は私達に加わった数を見たか?」 ムンダは続けた。「石灰平原にあれほど多くの追放者がいたとは知らなかった。ああ、だがギデオンは――そうだ、ジュラ司令官は――言っていたよ、彼らは追放者でも何でもないと。私達は皆ひとつだと。空岩に足を踏み入れたなら、彼らはもはやドージル遊牧民ではないと。私達の軍の一部だと。とても単純なことだ。あの男は何かが違うな」 ムンダは頬の髭を引っかいた。「驚くだろう、でも私は彼をずっと前から知っていたんだ」

 彼はニッサに何の反応を期待していた様子だった。「そうなの」 彼女は言った。彼女の注意のほとんどはゴブリンの足跡に集中していた。ムンダが予期していた通り、それは海門の方角へ向かっていた。ニッサはそのゴブリンが正しいことを願ったが、ピリがどうなるかはわからなかった。海門には何も残されていない。ニッサ自身、それを見ていた。

「私達は共に戦ってきた、ギデオンと私は。何度もだ。私達の道は常に交差し、私達のどちらも最大の怪物を引き受けることを躊躇わなかった」

「そうなの」 ニッサは再び言った。

「勿論、それは海門が陥落する前のことだ。今、最大のものを引き受けるのはただ馬鹿げたことだろう。力を温存しろ、君は来たる戦いに必要だから。わかるかい?」

 ニッサは頷いてあげた。

「ギデオンの言うことは正しい。もし勝算を望むのなら、この世界がくれる男も女も子供も、最後の一人まで必要だ。私があのゴブリンを追う理由の一つはそれだ。ピリは戦士だ。その心からわかる。私達は特に戦士が必要だ。共に結束しなければならない。今も、これからも。一つとなって、私達は海門を取り戻す。そしてそこから、ゼンディカーを取り戻す」

 ニッサの息が止まった。彼女はそのコーへ向き直りかけた、噛みつき、言いかけた。ゼンディカーはあなたが「取り戻す」ようなものではないと。ゼンディカーは誰かのものではない。その民のものでも、エルドラージのものでも、偉大なるジュラ司令官のものですらないと。

 ゼンディカーは、真のゼンディカーは、彼らが想像できる何よりも大きいと同時に、彼らがこれまで理解してきたものよりもずっと親密なものだと。

「ゼンディカーのために!」彼らが叫んだあの時、ニッサは口に出しかけた。あなた達は何を口にしているのかわかっていないと。そう彼に言いかけたその時、彼女は一体のゴブリンのすすり泣く声を聞いた。

 明らかに、最近露出したのであろう隠された地下洞窟の入り口に、傷を負ったゴブリンの小さな姿があった。

「ゆっくり行けと言った筈だ」 ムンダの声が響いた。「飲み込まれる所だったんだろう、その――」彼の言葉は彼女の涙を見て途切れた。

 ニッサはそのゴブリンの隣にひざまずき、ピリの上下する肩に手を置いた。

「リーク」 その声はすすり泣きとともに発せられた。

 ニッサは地面の穴を見た。

「誰かいるの?」 下から声がした。それは弱々しく小さかった。「助けて、お願い」

 ピリは再びすすり泣いた。「リーク」そしてかぶりを振った。

 ニッサはムンダを見た。「見てて。すぐに戻る」

 ムンダは頷いた。だが彼はそれ以上近づかなかった。彼はこのすすり泣く小さな生物が苦手のようだった。

 ニッサは狭いトンネルをはい降りた。底は落盤でほぼ埋まっており、その頂上に僅かな裂け目が開いていた。彼女はベルトの火打石に手を伸ばし、それを壁に叩きつけた。炎をその隙間にかざすと、ニッサは当初何百もの小さな光を見たと思った。だが目が慣れると、その光は目だとわかった。ゴブリンの集団の目だと。

「助けて」 その中の一人が弱々しく声を上げた。

「ムンダ!」 ニッサは上に呼びかけた。「縄をちょうだい、それと鉤も」 彼女はゴブリン達へと振り返った。「あなた達の中にリークはいない?」

 一斉に、彼らは頷いた。一人が離れた角を示した。死骸が三つ、壁ぎわに並んでいた。「あ……」 ニッサは思わず声を出した。ピリを思って胸が痛んだ。あのゴブリンの心が手に取るようにわかった。

 注意深く、辛抱強い作業で落盤は取り除かれた――ニッサがその力に繋がっていたなら、一瞬でできた筈だった――そしてゴブリン達は脱出することができた。

 ムンダは発見したゴブリンの軍勢の大きさを喜び、そして負傷者を空岩まで送らせる準備をした。彼は皆へとジュラ司令官について、そして海門を取り戻す計画を語った。彼の注意はほぼ、その人数に向けられていた。だがピリは離れて一人座っていた。

 ニッサはゆっくりと近づき、そのゴブリンの隣に腰を下ろした。

 しばしの間、二人はただ黙って暗闇の中に座っていた。そしてゴブリンが深く息を吸った。「リークは死んだって」 彼女はかぶりを振った。「でもわかってる、安全な所に行けたはずなんだって。わかってる」 彼女は拳で泥を殴りつけた。「わたしが、もっと速かったら」

「あなたのせいじゃないわ」 ニッサは言った。

 ゴブリンは負傷した脚を示した、それは今大雑把に包帯を巻かれて縛られていた。「もっと速く走れたはずだったのに」 彼女は再び地面を殴り、もう一度、そして涙が溢れた。

 ニッサはゴブリンを抱擁したことはなかった。長いこと、誰かを抱擁してもいなかった。だが今は、それがやるべき事のような気がした。ピリの痛みがわかった。それは自らの内を傷つけるような痛みだとわかっていた。そのような痛みが、誰も見ることも届くことも直すこともできない場所にあると。深い井戸の中に存在するような、そして圧倒的な波となって襲いかかる痛みが。それは果てのない海からやって来る波。破壊を止めることのない波。時折それは荒々しく、時折それは沈黙とともに。だが決して海岸を打ちつけるのを止めはしない波。

 ニッサはピリの肩を掴み、その波が通り過ぎるのを待った。

「リークは死んだって」 ピリはそう言って涙を拭った。「でもわたし、わかってる」 彼女は拳で胸を叩いた。「ここでわかってる」 彼女は再び胸を叩いた。「ここで!」 彼女は立ち上がった。「わかってる!」 彼女は勢いよく振り返ってニッサに対峙した。悲しみが復讐心へと変わるにつれ、その目がつり上がった。「怪物は、リークをひどい目にあわせた。仕返ししてやる。やり返してやる!」 彼女は他のゴブリンに加わり、ムンダの言葉を聞くために走った。

 ニッサの心臓の鼓動が耳に響いていた。ピリの拳が打ちつけられた反響が。

 それは、まさにピリが言った通りだった。ニッサは自身の胸に触れた。わかっていた。あのゴブリンのように、わかっていた。だからこそ彼女は去らなかった、生命の危険に、エルドラージに包囲されても次元を渡れなかった。だからこそ彼女は見張っていた。だからこそ聞くことを拒否した。自分の心が、それは去ったと言っても。

 ゼンディカーは、ある。その言葉は喉まで出かかっていた。

 だけど、どこに?

 世界の魂が怯えた時に、再び集まらなければならない時に行くような場所はない。もしくは傷ついた時に。

 秘密の隠れ場所も、トンネルも、洞窟も無――

 ニッサは立ち上がっていた。彼女の存在の端が閃き、プレインズウォークに備えた。心が知っていたことに思考が追い付くよりも早く。

 あった。安全な場所、力のある場所。ゼンディカーが避難する場所が。

 カルニの心臓。

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カルニの心臓の探検》 アート:Jason Chan

 ゼンディカーのマナの現れ。全ての力線が集まる場所。もし何かが起こったなら、もし巨人が世界の魂を脅かしたのなら、それが逃げる先は。それが隠れるのは、きっとあの場所。

 カルニの心臓。

 ゼンディカーはまだここにいた、ニッサがずっと知っていたように。それはただ、この場所にはいなかった。ここにはいない、それは当たり前のことだった。何故恐ろしいことが起こった場所へ戻ってくる? 自分はずっと、誤った場所を探していたのだ。

 彼女は大声で笑い、心が高揚した。心を解放すること、高揚できるほどの光があることを長く忘れていた。刺すような痛みが戻ってきて、再び彼女に引っかかり、彼女を内から引き寄せた。だが向かうのは別の次元ではない。今回は――

「変なエルフ」

 見つめるゴブリンが呟く声にニッサは我に返った、自分が今足を踏みしめる森に――だが完全にではなかった。彼女はゴブリン達を、ピリとムンダを、ギデオンとジェイスを、エルドラージすら忘れてしまっていた。彼女はゼンディカー以外の全てを忘れてしまっていた。

「私は行かないと」 その言葉は誰に向けられたものでもなく、だが同時に皆へと向けられていた。彼女にできたのは、森に駆け入って皆の視界から去ることだけだった。

 巨森の木々から、ニッサはバーラ・ゲドに視界を定めた。

 目的地としてこれほど相応しいものはなかった――そこは初めて世界の魂に出会った場所だった。全ての記憶が洪水となって戻ってきた。まるで、再びそこにいるようだった。一人の若いエルフに――あのジョラーガの野伏に――戻ったようだった。この夜は、ずっと昔に家を出た夜に似ていた。闇の覆いに隠れ、森の中を一人進んだあの夜に。

 だが違うのは、かつての彼女は逃げていたことだった。ゼンディカーを怖れて――彼女は大地が自分に害をなすと考えていた。今回、彼女はそれにまっすぐに向かって走るのだ。再会するのが待ちきれなかった。ゼンディカーは最も近い友なのだから。

 震えながら、ニッサは巨森を離れた。引き寄せる力に、自身の端を内へ向かわせる痛みに抗うのを止めた。それが彼女の中心に届いた時、ニッサは旅立った――故郷へ、バーラ・ゲドへ、ゼンディカーを見つけるために。

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ニッサの探検》 アート:Dan Scott

(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)


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プレインズウォーカー略歴:ニッサ・レヴェイン

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