トピカル・ジュース:こんな話は知ってるかい

更新日 Making Magic on 2015年 12月 7日

By Mark Rosewater

Working in R&D since '95, Mark became Magic head designer in '03. His hobbies: spending time with family, writing about Magic in all mediums, and creating short bios.

こんな話は知ってるかい

「マロが、印刷されたカードそれぞれの裏には日の目を見なかった99(ボツカード)があるって言ってたらしいぜ。そんなことあんのかね?」

「その話、俺も聞いたことある」

「なんでだ?」

「俺もマジック長いからな。ウィザーズの、多分開発部で働いたことのある人を知っているツレがいるツレがいるんだ」

「だから?」

「オフレコの話もあるし、それを聞いたこともあるってことさ」

「たとえば?」

「いろんな話さ。聞きたいか?」

「もちろん!」

「オッケー。じゃあ1つめ、『鏡の中のメッセージ』だ。これはかなり昔、開発部が『テンペスト』というセットに取り組んでいたときの話で、主役はマローと、若いインターン2人だ。もう名前もわからないそうだ。ほとんどの人は知らないことだが、マローはデザイナーじゃなくデベロッパーとして雇われていたんだ。それで、デザインできるんだって示したくて仕方なかったもんで、リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldに話をつけて、新セットで一緒に仕事をすることにしたんだ。当時の主席デザイナーだったジョエル・ミック/Joel Mickはそれを受けてマローにリード・デザイナーを任せたのさ」

「マローは初めてのデザインでリード・デザイナーを務めたって? さすがにないだろ」

「まあ、話を聞けよ。ケチつけるのはそれからでいいだろ。えー、それで、マローもエキサイティングなデザインをしなきゃいけないってんで、かなりのプレッシャーだったみたいで、無理をすることにしたんだ。開始時にそのカードが手札にあるようにするかわりに手札の枚数が1枚減るというメカニズムを作ったんだ」

「1枚減るだけ? それだけ? ライフが減るとかそういうのはなかったのか」

「通常より弱いカードだったから、カードを選ぶなら弱いカードで始めることになるのさ。マローはこのアイデアに興奮したんだそうだ。必要なカードを引けないといらつくもんだからな。じゃあ、確実に欲しいカードを初期手札に持ってこられる能力があればいいんじゃないかってわけさ。ただ、これはちょっとばかり狂ったアイデアだったから、マローもプレイテストが必要だと思ったんだそうだ。幸いにも、マジックの開発部には若いインターンが2人いて、プレイテストが可能だった。マローはこの2人を捕まえて、マジックミラーの部屋に放り込んだ。そうすれば観察できるから。プレイテストは一晩中続いたんだけど、その日あまりに忙しかったもんで、数時間でマローは寝ちゃったんだそうだ」

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命運の鏡》 アート:Alan Pollack

「それで、どうなった?」

「翌朝早く目覚めて、マローは鏡に口紅で書かれたメッセージを目にしたんだと。鏡文字で書いてあったからすぐ読めたそうだ。『デッキの不規則性はマジックに不可欠で、このメカニズムで不規則性を減らした結果、今回のプレイテストは今までの中で最悪のものでした。これがマジックのデザインの未来図だというなら、私たちは興味ありません』って書いてあって、そのインターンは二度と姿を見せなかった。マロはこの新メカニズムをファイルから取り除き、二度と口にも出さなかったんだとさ」

「へえ!」

「もう1つ聞きたいか?」

「もちろん」

「今度の奴は『デザイナーと電話の音』だ。ブライアン・ティンスマン/Brian Tinsmanが『アヴァシンの帰還』のリード・デザイナーを務めていたときのこと。その前の年の世界選手権で、リチャード・ガーフィールドはガンスリンガーで使うために自分でデザインしたカードだけで作ったデッキを持ち込んだ。そこにあったあるものを元に、マローは1つのメカニズムを提案したんだと。そのメカニズムでは、いらないカードを対戦相手のデッキに入れて切り直せるんだ。マローは、プレイヤーのデッキに最初は入っていないのに、何らかの方法でデッキに入るカード、というアイデアが気に入ったんだ。でも、不利になるようにするのではなく、有利になるようにするほうがいいと思ったんだそうだ。例えば、{R}で、クリーチャー1体かプレイヤー1人に5点のダメージを与える《稲妻》とか」

「強すぎないか?」

「マローが『禁断/forbidden』と呼んでいたこいつらは、最初からはデッキに入れられないんだ。禁断のカードを使うには、それをデッキに入れて切り直すという別のカードを唱え、それから改めて引く必要があった。このメカニズムはちょっとやりすぎではあったけど、環境を変化させたいブライアンはこのカードをファイルに入れたのさ。その後、ある日、彼の電話が鳴ったんだ。電話の向こうの声は『禁断のカードをファイルから取り除け』と言ったそうな。ブライアンはそれが誰からかわからなかったし、このメカニズムがかなり気に入っていたから、そのまま取り除かなかったんだ」

「そのセットは、アヴァシンが解放されたイニストラードの話なんだよな?」

「その通り。ブライアンは、禁断メカニズムが天使や悪魔が《獄庫》に封印されている状態を表していると考えていた。デザイン・チームはこのメカニズムを弄って、うまく調整したんだ。で、次は禁断のカードをデッキに入れて切り直すカードをどうするか決めることになった。リミテッドで、禁断のカードがあろうがなかろうがプレイしようと思えるようにする方法を考え始めたんだ。デッキを作るときに使えるのは数枚だけになるだろうから、それに備えて禁断のカードを数枚だけ準備しておく、ということになった。でも、デザイン中のある日のこと、ブライアンの電話がまた鳴ったんだ。声は『禁断のカードをファイルから取り除け。さもなければ悪いことが起こる』と言った。ブライアンは少し心配して、警察に相談したんだ。警察はその電話が脅迫だと思ったか聞いてきた。で、ブライアンはそれほどではないと答えた。ただデザインを変更するように言ってきただけで、ブライアンは従うつもりはなかったからね。警察は、それじゃ何もできない、と言ってきたんだそうだ」

「本当に?」

http://media.wizards.com/2015/images/daily/cardart_C15_Vow-of-Malice.jpg

敵意の誓約》 アート:Jesper Ejsing

「まあ、最大限に見てもひどく曖昧だったから。それで、ブライアンは無視して禁断メカニズムを進めることにしたんだ。クリエイティブ・チームとも相談して、禁断カードをどう作ると一番ふさわしくなるか考えていった。さらに、これのための新カード枠をどうするかという議論を始めたんだ。そのとき、また電話が鳴った。『禁断のカードをファイルから取り除け。さもなければ皆不幸になるぞ』――そう言われてブライアンは驚き、もう一度警察を呼んだんだ。ブライアンがおびえていたもので、警察は次に電話がかかってきたら逆探知しようと言ってくれたんだ」

「次の電話は?」

「ほんの数日後さ。電話が鳴って、『禁断のカードをファイルから取り除け。世に出るべきではない』ブライアンが電話を取った直後、警察から連絡があった。それで、この電話の発信源は――ウィザーズのビルの中だって言うんだ! デベロップからだったんだ! このメカニズムは調整不能で、トーナメント上で無数の問題を生むだろうし、それに、切り直しすぎだ! ブライアンは禁断メカニズムをファイルから取り除いて、奇跡メカニズムに入れ替えたんだ。でも、今日でも、電話が鳴るとブライアンはちょっとびっくりするんだってさ」

「クールだ!」

「もう1本聞きたいか?」

「聞きたいね」

「じゃあ次は『次の朝』だ。ケン・ネーグル/Ken Nagleが『新たなるファイレクシア』にかかっていたときのこと。ブロック全体で描かれているミラディン人とファイレクシア人の壮大な戦いの、まさにクライマックスだ。どちらが勝つかは秘密にされていて、このセットの名前は2つ告知されていた。ケンは、そのセットが物語の魅力的なクライマックスになるように、クールで壮大なメカニズムを探していたんだ。そして、見付けたのが『輪駆/link』というメカニズムだった。『Unglued』の《B.F.M. (Big Furry Monster) 》を元にした、複数枚のカードからなるクリーチャーというアイデアは長年温められてきたものだ。ケンはこのアイデアをもう一歩進めようとした。もし、右側のカードと左側のカードがあって、それを自由に組み合わせられたらどうだろうか?」

「右側だけ、左側だけでもプレイできるの?」

「いいや、両側が揃っていないと唱えられないんだ。このメカニズムでは、どの右側、どの左側でもいいけれども右側と左側が1枚ずつは必要だ。組み合わせることで、様々なバリエーションのクリーチャーができる。それぞれの半分で、そのクリーチャーの要素として、例えば大きさ、例えば能力を定義することができるんだ。ただし、アート・チームはとても懐疑的だった。そりゃそうさ、こんなことをやろうと思ったらマジックのアートというより子供向け絵本の組み合わせ遊びみたいなものになっちゃうからね。カードのレイアウトにも問題があった。どうやってカードのテキストを配置するのか、それぞれの組み合わせをどう扱うのか。ルール上もテンプレート上も大問題だ。輪駆カードを仕上げるには、かなりの時間と注意が必要だったのさ」

「それでケンは諦めた、と」

「いや、ケンは諦めなかった。問題が出てくるたび、全力で解決策を探したんだ。デザインが進行して、デザインとデベロップの中間あたりに来たとき、アーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheがケンをディナーに誘ったんだ。アーロンはこのセットのリード・デベロッパーを務めることになっていて、様々な懸念を伝えたいと思ったんだな。レストランは近かったから、ケンはそこまで歩いて行くことにした。その途中で、黒いバンが近づいてきて、突然ケンを引きずり込んだんだ。次に気がついたとき、ケンは氷風呂の中にいたんだと」

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外科的摘出》 アート:Steven Belledin

「え、どういうこと?」

「まあ、聞けよ。目が覚めたケン・ネーグルが最初に目にしたのは、浴槽の縁に置かれた彼の携帯電話と、『110番に電話しろ』というメモだったんだ。ケンはその指示通りに電話し、状況を説明した。氷風呂の説明を聞いた110番の担当者は、ケンに動かないように言った。彼のセットの運命はそれにかかっていると。その周りにカードファイルがないか探すように言われて、実際に見つかったのは『新たなるファイレクシア』だった。ケンが確認すると、そのファイルには輪駆メカニズムがなくなっていた。なくなっていたんだ。問題があるのを知りながらケンが強行しようとしているのを知ったアーロンが、ファイルがケンの手から離れている間に外科的に取り除いたんだ」

「それで?」

「でも、アーロンは冷酷ってわけじゃない。その風呂の中に、新しいメカニズム、ファイレクシア・マナがあったんだ。ケンはこの新しいメカニズムをそのセットに入れることにしたんだ。でも、ケンはその後も夜な夜な、週末ごとに、失われた輪駆を探し続けていたんだとさ」

「輪駆かぁ。見たことないな」

「もう一丁行く?」

「ああ!」

「今度は『時のらせんが忘れたメカニズム』だな。今日の最後の話は、最初のところ、つまりマローの話に戻るよ。セットは『時のらせん』。マローはデザイン・チームにいて、このセットのテーマである『過去』に関わる魅力的なレアのサイクルで、このセットの売りになるようなものを探していたんだ。そのために、マジック史上破られていないルールを探していた。新メカニズムは過去に関わるものにしたくて、マローの脳内にはアイデアがあったんだ。普通ならプレイできないようなカードをデッキに入れることができるカードというのはどうだろう、と。マローはスタンダードに意識を向けていた。『時のらせん』が過去に関するセットなら、過去のカードを現在のデッキに入れられるようにしたらどうだろう?」

「つまり?」

「そう焦るなよ。マローは、『このカードがデッキにあれば、過去のカード1種を4枚までデッキに入れてもよい』というカードを考えていたんだ。そのカードがスタンダードで使えなくてもね。過去にはスタンダードを台無しにするような壊れたカードがあるのはわかっているから、マローは使っていいカード群を作ろうとしていたんだ。彼が最初に見付けたのは、ウィザードというクリーチャー・タイプだった。当時、マジック史上最強のウィザードは《翻弄する魔道士》だったんだけど、マローは、このカード1種だけしかないならスタンダードでもデベロップが許容してくれると信じていたんだ。つまり、このサイクルの青はウィザード・クリーチャーで、これをデッキに入れている場合、マジック史上任意のウィザードを何でも1種4枚まで入れられるんだ。この青のカードを4枚まで入れられるから、デッキにはマジック史上から選んだウィザード4種を各4枚入れることができるのさ」

「《瞬唱の魔道士》は?」

「それが出たのは『イニストラード』だからずっと後のことだろ。マローは他のカード群を探していった。例えば、点数で見たマナ・コストが6のアーティファクト、とか、エンチャント(クリーチャー)呪文とか。そして、各色1つとアーティファクトでカード群6つを選んだんだ。それぞれのカードもそれぞれのカード群に含まれるんだ。マローはこの新しいヒキをセットに入れることに興奮していたんだけど、いざ編集するときになってニュースが耳に飛び込んできた。緊急事態が起こって、ウィザーズの全社員に帰宅指示が出たんだ。ファイルはその日のうちにデベロップに渡さなければならなくて、マローはこのサイクルをファイルに入れたいと心から思っていた。でも、他のデザイン・チームのメンバーはそんな危険を冒さなくていいと。ファイルは完成していると。レアのサイクルでヒキを付け足す必要はないと言ったんだ。それに、このサイクルは奇妙なものだったし、過去のカードをスタンダードに入れることの悪影響を実際に把握している人はいなかった。マローは何とか残したかったが、メンバーの説得を受けて、諦めて帰宅したんだ」

http://media.wizards.com/2015/images/daily/cardart_GTC_Whispering-Madness.jpg

囁く狂気》 アート:Clint Cearley

「それで終わり?」

「もうちょっと。次の日、全員がオフィスに戻ってきて、誰かが侵入した跡を見付けたんだ。人間のものとは思えない力でドアを押し破ったらしく、部屋中に巨大な足跡が残されていた。マローは、誰かが自分のデスクを荒らしたのに気がつき、慌てて件のサイクルを確認した。もうデザイン・ファイルに入れる締切は過ぎているけれど、デベロップに手渡したいと思ってね。デスクの周りを調べたけれど、件のサイクルのリストはどこにもなかった。どこに行ったのかは誰にもわからなかった。きっとその巨大な足跡の主が持ち去ったんだろう、という話だ」

「マジかよ」

「聞いた話そのままだ」

「いや、初めて参加したデザイン・チームでリード・デザイナーを務めるとかあり得ないだろ」

「ボツになったカードにも意味があるんだ。こういう話にも一片の真実はあるかもしれないだろ」

「他にこういう話はある?」

「開発部じゃないけど、昔々の大型トーナメントの決勝戦での話題があるぞ。そうだな、『秩序と混沌のオーブ』と言って……」

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